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aki
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2002年10月10日(木)
孤独を抱いた、太陽のように。


昔、昔のことでありました。どれくらい昔かは…
…はて、わたくしにも思い出せないのでございます。
ともかく、その昔、地球には夜というものが無かったのでございます。
動物達は眠たくなれば森の影でぐっすり眠る事が出来たので、夜というものは
必要ではなかったからであります。そのかわりに、お空には二つのお天道さまが
ぽっかりと浮かんでおりました。
 後に沈むお天道さまは、意地っ張りで傲慢で我侭で寂しがりやでした。








やぁ兄弟今日もサンサンと輝いているじゃあないか

僕の方なんてご覧よ こんなにもくすんでしまった

それに比べて君の燃え方の見事なこと

全く僕なんか恐れ多いね







 先に沈む方のお天道さまはひどくお優しく、心のお広い方でしたので
そんなことを鼻にかけるようなことは致しませんでしたが、
いつもいつも同じことを言われると少々疲れてしまったのでございます。






いや兄弟そんなことはないよ

君の方がとても美しく真っ赤に燃えているじゃあないか

僕なんて足元にも及びやしないさ

そんな風に言うのはおよしよ








 これを聞いた後に沈むお天道さまはすっかりお怒りになってしまいました。
このお天道さまには、まるで兄弟が自分のことを馬鹿にしているように
聞こえたのでございます。








ああ兄弟 お前はいつもそうやって私を馬鹿にするのだ

どうせ私は鈍感で意地っ張りで傲慢で我侭なのだ

私はもうこの海に入水してしまおう

そうすればこれ以上惨めな思いはせずとも良いのだから!






 そうして後に沈むお天道さまはぐんぐん深い深い海の方へと進みました。
先に沈むお天道さまは驚いて、自分も海の底へと潜ってしまいました。
 ところが、あたりはまだ明るいのです。二つのお天道さまは海に沈んで
しまったはずなのに、どうしてなのでしょう。
 動物達は囁き合いました、

「きっとお天道さまは沈んでもまた浮き上がってくるのさ。今までお天道さまが
居なくなった事なんてないもの!」

けれど、それは違いました。先に沈むお天道さまの体は水びたしになり
もう前のように真っ赤に燃える事が出来なくなりました。
 それでも明るかったのは、後に沈む方のお天道さまが山の陰で燃えていたから
でございました。後に沈む方のお天道さまは海に飛び込むふりをして、
山の陰に隠れていたのでございます。






兄弟よ どうして私を追ったりしたのだ

ただ少し意地を張ってしまっただけであったのに

ああ 君はもう燃えさかることが出来なくなってしまった

私の所為だ 私は居てはいけなかったのだ







兄弟よ 君までもこのようにみっともない姿にはならずに済んだのだな

何を責める事があろう 僕は君が大好きなのだ

君はしっかりと燃えるのだ かの愛らしい命の為に

そして僕をも照らしておくれ その赤い炎で







…そうして、お月さまが生まれたのでございます。真実を知った動物達は
夜が来る度にお月さまを見上げました。そうして涙をぽつりと流し合いました。






けれど、誰が知っていたのでございましょう。ほんの少しの寂しさから
兄弟を貶めてしまった苦しみを背負い、動物達から光を請われ、
責められることすら叶わなかった、お天道さまの悲しみを。













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