ハニワ在ル...はにわーる

 

 

夜の絵本 - 2002年07月06日(土)

本日、上田現『百物語』第十四夜“夜行”。

客入れのSEはなく、逆にSEをきっかけに場内が静まり返る。
とても幻想的な女声を、たっぷり一曲流して。
ステージ両端の2階部分から、ヘルメットよりも大きくて
白い頭の…誰かと誰かが言葉を発している。
日本語のようだけど意味は聞き取れない。まるで、異星人みたい。

そのうちステージは、満天の星空になって…
本当の異星人(笑)現ジイの姿が。
タキシードなんか着て、アコーディオンを抱えて。
紡ぎだされる音にも、ちょっと怖くて素敵な童話の舞台みたいに、
不思議なノスタルジーを感じる。
やがて、遠くから呼ばれるような「ウェルカム!」の歌声。


夜が始まった。


「子どものころ…クリスマスにね、今年こそ
サンタさんの顔見てやるんだって思いながら寝ちゃったり、

キャンプに連れて行ってもらったときに、
夜テントからちょっと外を覗くとどこまでも真っ暗だったり、

中学生くらいになると深夜ラジオを一生懸命聴いて…
3時くらいまで起きてると「すごい時間だな!」と思ったりとか、

夜ってそういうイメージで。

きっとみんなもそんなことがあったんじゃないかな。
今日は、そういうところまで連れて行きます」

現ジイの歌は…情景が見えてくる、というよりも、
空気の匂いから思い出させる。
途中一人で弾き語りをする場面なんかは特に、
季節の変わり目に昔の出来事を思い出すような感覚に包まれた。

田舎には、虫の声がどこからともなく聞こえてくる夜も
ままあるが…耳にベルベットを押し当てたような感触を残す
「無音」の夜もある。
闇と同じように、どこまでも続きそうな。
音を聴きながら、なぜかその無音に思い至った。
ワタシの、夜、か。


そして、もうひとつ忘れられないのが、現ジイの皺。
「28歳」なんて歌を歌っていたころにはもう、眉間や口元に
その年齢と信じられないような深い皺のあった現ちゃん。
いきおい、現ジイなんて呼んだりして。

でも…一人ピアノに向かって、音とともに
実にさまざまな表情を見せる現ジイを観ていたら、
その皺は笑い皺のように、ピアノとともに
喜怒哀楽を表すことで刻まれていったのかもしれないと気づいて、
とてもほわっと、胸のうちからうれしくなった。

そのくらい、めまぐるしく変わるピアノの音と現ジイの顔には
飽きることがなかったのだ…(苦笑)

昔、矢野顕子を観て
「指とか、腕とかじゃなくて…どこからがピアノで
どこからがアッコちゃんかわからない」と思うくらい
その一体感に感じ入った事があったけど、

現ジイの場合はさしずめ表情だ。
どこからが音の表情で、どこからが現ジイの顔の表情なのか
わからなくなるくらい、ひとつになって流れ込んでくる。
そしてワタシはその一体感に触れて
とても、幸せな気持ちになる。


東京の夜の裏側―ブラジルの昼を歌ったり
(ギンギラ姿のサンバ隊が登場して驚いた!)、
♪踏んじゃったーっ♪とかやりながら、
ライブは終盤に向けて盛り上がる。
現ジイもはじけるが、ホーンの2人やギターの奥村氏
…ELEの面々もかなりイイ感じで楽しい。踊る。

一呼吸おいて、最後の2曲はやはりテーマの“夜行”を意識してか、
包むような壮大なイメージで締められた。
初めのノスタルジアに還っていくのか、
絵本を閉じるような…寂しさと、物語が完成する喜びが交錯する感じ。
思えば、ずっと非現実感の中にいた。


アンコールで…また登場した異星人、今度は
スポットライトになった手のひらをメンバーにかざし、
ゆらゆらと揺らす。
大きな身体なのにとても愛らしい。
そしてラストには…夏の雪がウエストの狭い夜空を舞って。

この雪…きっと現ジイが今日の『おまけ』に
観たかったんじゃないかなぁ、ステージから。
終演後、そんなことを思いながら。

少し、たった今までそこにあった非現実を懐かしんだ。



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