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『檸檬のころ』 豊島ミホ (幻冬舎) - 2006年05月08日(月)


豊島 ミホ / 幻冬舎(2005/03)
Amazonランキング:42,840位
Amazonおすすめ度:
高校の同級生なのでは?と思えるほど
漫画っぽい
「成就」しない青春小説もビターで良いな


<現代に生きる人の為の文学作品>

作者の豊島ミホさんは1982年秋田生まれの24歳。
2002年新潮社主催の第1回Rー18賞の読者賞を受賞、プロデビュー。
最新作の『夜の朝顔』を含めて現在まで6作品を上梓している。

年齢が近い島本理生さんと作風比較してみたい。
島本理生さんとの違いは、豊島さんの方が適度にスパイスの効いた文章を書くと言った感じでしょうか。
ひと言で言えば島本さんが“純粋”な気持ちを描写した小説、豊島さんが“素直”な気持ちを描写した小説と言えそうです。
島本さんの登場人物の方が“刹那主義”的な生き方をしているような気がする。
現段階では島本さんが“恋愛”に重きを置いた青春恋愛小説の書き手、豊島さんは“青春”に重きを置いた青春恋愛小説の書き手と言ったら良いのであろうかと思われる。

いずれにしても両名とも“これからの文壇を背負って立つべく逸材であることは間違いない”と断言したい。

さて本作、本当に読ませてくれます。

東北の片田舎コンビニもない高校が舞台。
女性主人公だけでなく男性主人公も登場(中には担任の先生も登場)する。
テクニック的にも連作短編集のもたらす特性・・・(登場人物を上手く繋げている)を十分に生かしきっている。
最後のあとがきにおいて作者が自分の高校時代とは違うって言っているがはたしてどうなのだろう。

人を成長させる大きな要素って何だろう?
その答えを本書にて豊島さんは読者に明確にしてくれている。
それは“失恋”と“別れ”である。
このふたつの言葉は人生において表裏一体となっているからだ。

全7編からなるが「ラブソング」と「雪の降る町、春に散る花」が秀逸。
どちらも切なく胸キュン物で、前述した“失恋”と“別れ”が凝縮されている。
若い頃の恋愛って相手が唯一無二の存在。いったん思い込んだら、どうしてもとどめることができない世界。
辻本君に失恋しちゃった恵ちゃん、あなたはフィクションとは思えないほどとっても読者に身近です(笑)

ラストの野球部のエース佐々木君と吹奏楽部の加代子ちゃん。
ふたりのなれそめに始まって、別れる(というか離れる)までの過程が読者の胸に突き刺ささって離れない。
まるで同じ教室で同じ授業を受けたクラスメートのような感覚でもって、2人の旅立ち(あえて別れじゃなくってこの言葉を使わせていただきますね)を見送った自分を誇りに思いたいような気分。
寂しい気持ちもあるが、安心感も漂う。
お互いが心の糧となっていることを見届けれたからだ。

反面、作者の豊島さんはあの年代特有の普遍的な悩み・苦しみを比較的淡々と語っているようにも見受けられる。
先に比較した島本さんが“切実”なら、豊島さんは“淡々”という言葉があてはまるかな?
いや“淡々”という言葉は誤解を招くかもしれない。
淡々と書きながら最後には酸っぱく終わるのが本作の特徴なのであるから。
まるで檸檬の如く(笑)
そのあたり感性豊かな女性読者に聞いてみたい気もするのであるが・・・

若い頃って本当に小さなことで悩みますよね。
本作に登場するどの登場人物も悩んでいます。
もちろん、当事者にとっては小さなことではありません。
まさに、生きるか死ぬか・・・ハムレットの世界なのです。
ある読者には懐かしいあの頃を思い起こさせてくれ、また登場人物と同年代の方が読んだら隣の席のあの子って作中の○○にそっくりだと共感できそうな話。

少し傷つきにくくなったあなたにも是非読んで欲しいなと思ったりする。
かつて梶井基次郎の文学作品『檸檬』を読んだような感覚で読んで欲しい。
なぜなら生きてきてよかったというしあわせを感じる名作であるからだ。

個人的には、好きな女性に本作のような作品をプレゼントしたい衝動に駆られた。
きっと受け取って読まれた方にとって“忘れられない1冊”となりそうだからだ。
そう男性読者に思わせてくれる豊島さん、あなたは凄い。
これから追いかけますので待っててくださいね。

評価9点 オススメ

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