2007年01月10日(水) |
ぎゃも原作 はみがき話。(なんだろうそれ) |
この先には、ぎゃもの不三なんかがあったりします。 わからない方や興味のない方はどうぞすっ飛ばして下さいましー。
原作ベェス。仲良しさんで困ります。
君のわがままとその先の罰
なんとか見つけた今日の宿。少し不便な交通や宿探しも、げぇむをやりだしてからは大分慣れた。疲れた体に加えて、日を跨ぐまでそうかからないような時間帯であるせいでひどく眠い。そんな時間にも関わらず快く自分を受け入れてくれた民宿の主人に心から感謝して、手早く安息の地への扉を開けた。
「あー、マジで疲れたぁ…」 どさりと音をたてて畳に突っ伏した三志郎に、不壊は潰された影の中で大きく溜息を吐いた。 「おい兄ィちゃん、そのまま寝るんじゃねェぞ」 今出ていけば確実に三志郎の健やかな睡眠のために働かなければならないことは目に見えていたので、不壊は影の中に落ち着いたまま声だけを外へ出す。わかってるよ、とどう受け取ってもそうとは思えない力のない返事をして三志郎は寝返りを打った。 「ちゃンと風呂入って、着替えて、布団敷いて、寝ろ」 とりあえずのすべきことを簡潔にしっかりと伝えて、これで自分の役目は終わりだと口を閉じる。が、落ちてくるらしい瞼をどうにも出来ないという顔つきで、弱々しく己の名を呼ばわる声を聞いて、勘弁してくれとまた大きく溜息を吐いた。 「フエぇ…、……てつだってよ…」 愛らしい小さな唇から漏れる恐ろしく面倒な言葉に、俺はお守りじゃねェんだぞ、と音にはせずに呟いて、舌打ちを呑み込み代わりに諦めの溜息をのせた。
するりと全身を影から引き出して、畳に横たわる子どもを見下ろす。着替えとタオルを持たせてなんとかその子どもを風呂場まで歩かせると、瞼を擦りながらのろのろと先ほど不壊に言われたことをこなしていった。
「あとはぁ……」 風呂に入っても眠気はとれなかったらしく、未だに瞼が重い状況が続いているようだ。だるそうに言う三志郎に、まぁよく頑張った方だと一応努力を認めてやることにした。 「寝るだけだな。……仕方ねェから、布団は俺が敷いてやるよ」 柄にもない自分の台詞にいっそ笑えてきそうになったが、あ、と小さく声を上げた三志郎の次の言葉を聞きつけてそれは口元を引攣らせるのみに終わった。
「歯、みがいて」
磨いて、ってなァなんだ。磨いて、って。 端から自分でする気はねェってかい、兄ィちゃん。
個魔を乳母かなにかと勘違いしてるんじゃないのかと思える程に世話をさせるつもりらしい三志郎に、不壊は何度吐いても溜まってくる息を大きく吐き出した。
「…おい兄ィちゃん、いい加減にしろ。俺はお守りじゃねェって何度言ったらわかるんだ?」 聞いているのかいないのか、何やらもそもそと動く三志郎が、突然くるりと不壊に向き直った。にこりと愛らしく笑んで、 「はい」 言いながら三志郎の手から不壊の手へと移動してきたそれ。要するには歯磨きセット。 このクソガキ、俺の話なんか微塵も聞いちゃいねェってか。 いつもなら思わず口許が緩みかねないそれはもう愛らしい笑顔を振り撒く三志郎を尻目に、不壊はこめかみに青筋をくっきりと浮かばせた。
「ほら、口開けな」 「んっ…」 胡座を掻いた自身の上に向かい合わせに三志郎を座らせる。片腕は小さな背に回して畳に倒れ込んでしまわないようにしてやり、残った腕の親指で赤い唇をつぅとなぞった。 狭間に指先を忍ばせて上下に割り開くと、三志郎がくぐもった声を出した。小粒なエナメル質の先端を白い手袋が這っていく。 「……ふへ、やひゃひぃ」 どうやら「やらしい」と言ったらしい。間の抜けた三志郎の呟きに雰囲気を壊されて、少しくらい愉しませろと内心で毒吐いた。 「兄ィちゃんがさっさと口開けねェからだろうが」 僅かにもたげた悪戯心も下心もすっかり萎えさせられて、不壊は少しばかり乱暴に三志郎の口を開いて渡されたブラシをあてた。
「あー、だ。あー」 「あー」 口を開けろだ閉じろだとやっている内に、そう言うよりも口を開く形閉じる形になる母音を言わせた方が簡単に開閉を行えることを学んだ。何やってンだ俺は、という複雑な心境と引き換えにだが。 「おら、いー、」 「いー」 やってもらっておいて失礼な話だが、三志郎は口内の泡を畳の上に吹き出さないようにすることで精一杯だった。
すっげー似合わねぇ…。
正直に言って、まさか本当に歯を磨いてくれるとは思ってもみなかったのだ。なんと言っても相手はあの不壊だ。ブラシを突き出した所でそのまま返されるのがオチだろうと思っていたのに、文句を言ってこれ以上ないほどに不機嫌な顔をしながらも受け取ったという事実が、未だに信じられないくらいだった。 そしてその不機嫌な顔のままで、あーとか、いーとか、彼の過ごしてきた長い長い時間の中でもおよそ言ったことがないだろう言葉を、自分に向かって放っているのだ。不壊を多少なり知っているものなら、この状況を見て笑わずにいられる方がどうかしているだろう。 それくらい、今の状況は極めて妙で笑いを堪えるのに必死で、けれどこれもまた妙な心地よさが三志郎の内側を覆っている。 きっと、不壊にこんなことしてもらったのは俺だけだ。 そう思えば、可笑しくて笑ってしまいそうな口許も、嬉しくて笑みを隠せないようになってしまうのだった。
「おいコラ、ちゃんと口締めとけ」 こぼれンだろうが。
感情を隠すだなんて器用なことはうまくできなくて、結局口許を緩めてしまった三志郎に一言。 それすらもなんだか不自然で似合わなくて、口を締めるだなんて無理なことを言わないでほしいと思った。
なんとか盛大に吐き出すことは避けて、無事に口内を一掃する。不壊に渡されたブラシを洗いながら、いつの間にやら普段通りの重さに戻っていた瞼を鏡越しに見つけた。ついでににやにやと緩みきってしまった顔も。 やっぱり布団は俺が敷くんだよなぁ。 さすがにそんなには頼めない、ととりあえず鏡に映った腑抜け顔をなんとかしてから戻ることを考えつつも、ぼんやり思う。完全に無防備になった瞬間を狙ったかのように、耳の真横で低い声が響いた。 「なァにニヤニヤしてんだい」 鏡の中の紅い瞳とぴったり目が合って、その瞬間に、聞こえるわけがない自分と相手との主導権が入れ替わった音を聞いた。
だって今は真夜中なのだ。
夜の闇も黒い影も、全ては彼のもので、彼の時間。 目が冴えてしまったことも、緩んだ口許の意味も、何もかもがお見通しだ。顎先を掴まれて横に向かされたその次には、息継ぎの隙間もない深く深い口付け。つい今しがた清潔になったばかりの口内を、余すことなく隅々まで妖艶な舌先で舐め取られる。 「仕上げの消毒だ」 口角を上げた不壊を潤んだ瞳で見上げる途中に、畳に寝そべる布団が三志郎の視界を掠めた。
こういう時だけは文句言わねぇんだよなぁ。
相変わらず現金な個魔に吐き出しかけた溜息は、薄い唇に防がれて外気に触れることなく消えた。
----------- 20070110 不壊氏のお口はモン○ミン説。(うん、モ○ダミンでなきゃ歯磨き後にお口くちゅくちゅしても消毒は出来ないよね) とりあえず「いー」と不壊に言わせたかった。ただそれだけ。欲望叶って大満足。
心底嫌がりながらも、結局言うこと聞いちゃう不壊氏が好きです。(嫌よ嫌よも好きのうちってね!)
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