夏は夜明けが早い。4時になる前に空が薄明るくなってくる。 今日は土曜日。 可燃ごみを出す日なので早起きし、ごみ袋を提げて外に出た。
朝早いせいか、まだどの家も起き出しておらず 階段を降りてすぐの集積所には、ひとつのごみ袋も見当たらない。 カラスよけのネットを持ち上げ、ごみを置こうとした、その時。
青いネットの襞の間に、きみどり色の細いものが見えた。 最初、何か葉っぱの切れっ端かと思った。 が、網目に挟まれ微かにうごめいている。
あ゛あ゛っ! こ、この形…!(((��◇��)))
それはアタシの小指ほどの長さもない、まだ子供のカマキリだった。 ちびとは言え、ボディは草と見分けがつかないあの気味の悪い色で 独特の三角形をした小さな頭と言い、姿かたちはもう大人と同じである。
幼虫がいるということは、この辺にカマキリが卵を産みつけた訳だ。 こいつらが住居のまわりにウヨウヨと生息しているかと思うと 夏のあいだ中、アタシは精神の安寧が得られない。 毎年、家の前の道路で、車のタイヤに熨された蟷螂せんべいを見かけるが 3年前はあろうことか、部屋の中に侵入されて大騒ぎしたことさえあった。
「殺らなければ、殺られる…」 と言うと大袈裟だが、実際、勇気を奮って殺生しようと思った。 ひと思いに足で踏み潰そうか、それとも、何かではたいて…。
アタシがこの世で最も怖いものは、このきみどり色の昆虫なのである。 電車で無礼な大男に蹴りをぶち込む度胸はあっても この小さな虫には何故か、手も足も出ない。
見ているだけで背筋を寒気がはいのぼってくるので 今朝も結局、触れるのが気持ち悪くてみすみす見逃してしまった。 『蜘蛛の糸』の犍陀多のことを思い出した。
先日、紋次郎の埋葬のために1週間ほど家を空け、帰宅した時 玄関の前で、何かがバレッタに引っかかった気がしたので 見回すと、アタシがぶつかったせいで1本のひも状になった巣をつたい 中くらいの大きさの蜘蛛がそそくさと逃げて行くところだった。
「ぃゃーーっ!」
慌ててバレッタを外して髪をほどき、バサバサと払った。 髪の毛や服に絡みついて、家の中へ持ち込んではかなわない。 そう言えば、夏になると風物詩よろしく よく隣家の軒先に、大きな蜘蛛がみごとな巣を張っていたものだ。 大抵、それはすぐ風で吹き飛ばされてしまうのだが しばらくすると、懲りずにまた同じ場所に設営されている。
でも正直言って、あの蜘蛛よりカマキリの方が怖ろしい。 田舎暮らしはのどかで良いが、虫が多いのが欠点だ。
こんなに虫が嫌いなのに、幼児期 『みなしごハッチ』は大好きで 髪の毛を生やしたアウトローなカマキリのおじさんがかっこいいと思っていた。 仮面ライダーは見たし、ファーブル昆虫記や虫めづる姫君も面白く読んだけれども 実際の昆虫だけはどうしても好きになれず 成人した今も、触ることも近づくことも出来ないままである。
今後、虫との対話と共存が実現する日は… 別に来なくても良い。
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