『 hi da ma ri - ra se n 』


「 シンプルに生き死にしたかった 」


2002年04月19日(金) 「Sweet Berry Kiss」


 「orizaの林」



 目をあけられなかった
 あまりに外が眩しく思えて
 仕方なくて。

 夕方の野道は太陽の名残りばかりが
 さみしくあたたかい。
 しめっている頬をぬぐった、
 日向のにおいがした。

 からからと回る
 まわるまわる
 子守うたが聞こえる。

 うたってくれなかった
 姉さん、
 生まれてこなかったあなたに
 いつか触れた気がする。

 土の上にわたしを撒いた
 まなほ ――― そのような名前を糧に
 あらかじめ種だったわたしを埋める骨張った腕。
 鋭く突き刺さる
 さみどりの草の列のまぼろしを見て
 かすかに息を吐いた。

 やわらかく泥の匂いが立ちのぼり
 あらゆるものを覆った。

 目を開けられなかった。
 あまりにそこが眩しく見えて
 仕方なくて。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


日記を作ったとき、あたしは自分の名前を
ねこ、とつけました。

だけど書き始めてから一週間で
サトくんが死んで、けむりになって
やめました。
かぎりなく本名に近い名前に戻ろうと思いました。

まなほ。

その昔いちどだけ使った名前です。
その「いちど」が、
上にのっけた「orizaの林」という駄文の中ででした。
(orizaというのはオリザと読んで、稲の学名です)
父さん母さんがくれた名前に身を包むのはひどく抵抗があって
だけど今まで名乗った名前はもう嘘なんだとたしかに知ってしまっていて
本当に近づきたかったそのときの瀬戸際の
苦肉の策でうまれた名前。


ちなみにあたしにお姉さんはいません。



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あたしはあたしがきらいだった。
そうしてあたしは
あたしがあたしをきらいなことを知らなかった。

言葉を書くようになって
いろんな名前を名乗りました。
たとえば今、まっしろく気合の入った洋服でじぶんを鎧うみたいに。
そのころあたしは男の子物のシャツが好きで
脂肪がない脚と胸と、スニーカーの似合うひとにあこがれてました。
それはあたしとは正反対の生きものだったけど。

関係ないけど、大学や高校の同人誌や文芸誌のペンネームとかって
とても凝った名前が多い気がする。場所によるけど。
ページにならんだ名前が発散するその気合のこもったパワーに
あたしはときたま、目眩がしてきます。
自分もそのなかのひとりなくせにね。

あたしはコウノナオキという名前を作って、もっぱらそう名乗りました。
似ても似つかない新しい名前に、最初は違和感があったけど、
そのうち、鎧の名前の中にすっかりなじんでいる自分を発見して
いつもいつも、名乗る名前というものは
好むと好まざるとにかかわらず、
強制的に、からだを包み込んでいく物なんだと知りました。

男の子でも女の子でもない誰かにあたしはなりたくて
だけどある日、あたしはあたしをなくすのがこわかった。


あたしは消えかけている。
あたしは消えたい。
空気みたいなものになってどこかに消えちゃいたい。


I lost my name, who am I?
I lost my home, where am I?
But I can fly, fly high so far away
so far away......
 (Cocco「Sweet Berry Kiss」)



描いてみたい一枚の絵があります。
十年くらいも
あたしの中に棲みついている一枚のイメージ。
真っ暗な部屋に、黒い椅子がひとつあって
白いドレスの骨張った女の人がしっかりと腕を組んで立ち尽くしている。
黒髪のからっぽの女の子がからっぽのベッドに座っていて、
10歳にもならないくらいの体つきの中で、俯いて
伏せた見えない目の奥だけが、ほんの少し生きたいと怯えている。


名前を呼ばれても返事をしなくなり、
ある日見ていた高校演劇の舞台の上で読まれた谷川俊太郎の詩を聞いて、
体の隅ががくがくとふるえました。


   階段の上の子どもには、名前がない
   だからぼくは呼ぶこともできない
   ただ、呼ばれるだけだ



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


あたしは、
あたしがあたしをきらいなことを知りました。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


message:

 なんだかめちゃくちゃな文になってしまいました。

 それでも、読んでくれるひとへ、どうもありがとう。
 あたしに言葉をくれたひとへ、ありがとう。
 言葉にならない言葉で
 ひとつの数字をあたしにくれたひとへ、ありがとう。


 あしたもどうぞ
 気をつけて

 次の日を生きのびていってください。



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