やっぱり
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K先輩から電話を切り、バイト先までの道を小走りで急ぎながら、ずっと頭では休みを取る言い訳を考えていました。 社員の人の機嫌が余り良くなかった事もあり、言い出せずにその日のバイトは終りました。 バイト先には、同じ高校の子が私以外に4人居ました。 その中で、私とは別の科のOと一番私は仲良くなっていました。 M君の事を相談したのもそのOでした。 Oに休みのことを相談すると、すぐさま「法事だって言えば?」と返ってきました。 私は、この時まで「法事」という物がどういうものなのかすら知らずに居ましたが、翌日の日曜日
「再来週の日曜に法事があるので、休ませてください」
と社員の人に言いました。 滅多に休みを取りたいと言う事が無かったのが幸いしたのか、すんなりと了承してくれて、ほっとしました。
K先輩に、すぐにでも休みが取れたことを報告したかったのですが、あまりにもすぐだとなんだか・・・と思い、その夜は電話を我慢しました。 本当はすぐにでも声が聞きたくて仕方がありませんでした。 でも、会えるまで後二週間もあるし。 私はスケジュール帳を眺めながら考えました。
会える日までに、先輩に電話を出来るのは多分、この一回。 早く電話をしてしまうと、会えるまでの期間が長くなって苦しいかもしれないし。 間を取って、土曜日。 土曜日に電話もらったから一週間我慢して。土曜日に電話して声を聞いて、また一週間我慢すれば先輩に会える。 でも、K先輩は私の家に電話できないから、返事を待ってるのかもしれないし。 あまり遅くなって電話をするとダメなんだと思われて、別の予定を入れてしまうかもしれないし。 そんな事を考えて、私は水曜日に電話しようと決めました。
水曜日の夜。 家に帰り、そっと靴を部屋に持ち込み、私はドキドキしながら9時過ぎるまで待ちました。 その日は雨だったのですが、逆に好都合でした。 親に見付からないように抜け出すには、少し早い時間でした。 二階の部屋から抜け出すには、手摺がすべるので危険でしたが、都合よく母がお風呂に入っていました。 雨の音のおかげで、階段を降りる私の足音は掻き消され、無事に玄関から外に出る事が出来ました。 玄関の鍵をかける音も、雨で消されたようでした。
結構本降りの雨の中、私は傘も差さずにいつもの公衆電話に走りました。 久しぶりだったので、かなり緊張しました。 電話に出たのは、先輩のお母様で、
「まだ帰って来てないのよ」
と言われました。 いつもなら、かなり落ち込む所ですが、この日は違いました。 K先輩の声を聞いてから会える日までの間が、少しでも短い方が良い。 そう思っていたので、声を聞ける日が延びた事が嬉しかったのです。
ただ、部屋に戻るのはかなり大変でした。 案の定、自分の身長以上の差があるベランダの手摺は雨で滑って、なかなか力が入らずに乗り越えるのに苦労しました。 一度、足を滑らせて、かなりの擦り傷をつくりました。
翌日は晴れていました。 この日は二階から抜け出し、10時近くに電話をかけにいきました。 電話に出たのは、K先輩でした。
「おー、昨日電話くれたんだって?悪かったな」
と先輩は言いました。
「日曜日、休みとれました」
と報告すると、
「そっか。じゃぁ〜・・・映画行かない?」
と聞かれました。 映画なんて、本当にデートみたいだ・・と物凄く嬉しくなりました。
「いいですよ」
と答えると、
「お前、門限何時だっけ?」
と聞かれました。
「あ・・・9時です・・・」
思わず、嘘をつきました。8時では余りにも情けないと思ったのです。
「そっか。じゃぁ・・1時に駅でいい?」
K先輩は、門限にあわせて待ち合わせの時間を決めてくれたようでした。 電話は、待ち合わせを決めるとすぐに終りました。 K先輩は電話の最後に、
「お前、ほんと、気をつけて帰れよ」
と言ってくれました。 そう言われて、急に私は帰り道が怖くなり、かなりの勢いで走って帰りました。
その翌日から、私は先輩とデートできる嬉しさでいっぱいで、抑えきれませんでした。 何も考えずに、嬉しさを友達に報告しまくっていました。
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