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■ 【エッセイ】 向日葵が大好きだった母のこと。
マイミクのあきらちゃんの撮った写真を見ていたら、なんだか急に母に会いたくなった・・・。
「あたしは花の中では向日葵の花が一番好きだなぁ。いつも太陽を追いかけて、首をくるくる回して・・・時々チョット疲れちゃったみたいに首をうなだれてる時も有ったりして・・・、そこが何ともいじらしいじゃない?」 母がそんなことを呟いていたのはアタシが小学生の高学年か中学生の時だったと思う。 その頃は反抗期だったし、母とは喧嘩ばかりしていたので、その呟きに返事さえしてあげなかった記憶がある…・・・・・・・・・。
アタシが小学校の3年生の時、父と母は離婚した。 売れないお笑い芸人で、吞べぇで、女好きで・・・・・・、人間的には面白くて優しくてお人好しだった父だけど、夫としてや父としては失格も甚だしかった父。 僅かなギャラをもらっては、家には入れず友人たちに奢ってしまうような父を、母はいつもどこか呆れて冷めた目で見ていた。そんなだから夫婦げんかも多い家だった。 やはり売れない女優と、銀座の雇われマダムをしていた母が、一家4人の生活(父・アタシ・父方の祖母)のほとんどを支えていたのだと思う。
それでも父は幼少時のアタシの事がかなり可愛かったみたいで、ストリップ劇場で前座のコントなんかの仕事が入れば、まだ3歳ほどのアタシを仕事場に連れ歩き、ストリッパーの楽屋にアタシを待たせ、ストリッパーたちにアタシの遊び相手をさせ、その帰りには父の通う一杯飲み屋で父は相方と酒を飲み、アタシには食事をさせると言うような事がたびたびあった。 面白くて優しい父がアタシは大好きだったので、いつも金魚のフンのように父に着いて歩いていた。
アタシが小学校3年生の時、岩手県のドサ回り先で知り合ったと言うストリッパーのおネェちゃんと父の浮気(父は本気だったのだろう)が母にバレ、母の逆鱗に触れ、二人はとうとう離婚してしまったのだ。 まだ幼いアタシは父と母とのどちらについて行くかと問われ、生活感の無い父では路頭に迷いそうなので、アタシは父が可哀想な気がして申し訳なかったが、オイオイ泣きじゃくりながらも、しっかり者の母を選んだ。 母とアタシは世田谷の生家を出て、一時期、幡ケ谷の叔母の家に同居をさせてもらっていたのだ。
やがて二年ほどが経過し、母にも新しい恋人が出来た。妻子のある人なので所謂不倫関係だ。 母よりも11歳も年上のその人は、築地の水産業の社長さんだった。 別れた父とは年齢も風貌も似ても似つかないその人に、アタシは最初の内はあまりなじめなかった。大好きだった父を捨て、他の人とくっついた母にも、アタシは反抗的になっていた。 母の新しい恋人は恰幅も良く、当時は金回りも良かったらしく、しじゅう母とアタシを旅行や高級店への食事に連れて行ってくれ、後に中野に住居付きの店舗を確保してくれ、母とアタシは叔母の家からそこに移り住んだ。 その頃からその人は中野の家に隔週ごとに通って来るようになり、アタシはその人の事を「お父さん」と呼ばされるようになった。
そんな暮らしが長く続き、それでも人懐っこいアタシは、徐々に「お父さん」にも打ち解けて行ったのだ。 「お父さんはお父さんで、案外いい人なのかもしれない・・・・・・」そんな気持ちで接するようになっていった。 しかし、母は「お父さん」に家庭が有ることで、たまに深く悩み、時にヒステリックになり、情緒が不安定になった時期も有った。
やがてアタシが若くして結婚し、諸事情から松本に移り住み、母も松本に呼び寄せ、家を建てた。 しかしやはり諸事情からアタシが離婚し、母が松本に店を持つようになってからも、「お父さん」は定期的に松本に通って来ていた。
母は「お父さん」の事を本気で愛していたのだと思う。「お父さん」も母を深く愛していたのだろう。 正妻との離婚は最後の最後まで出来なかったものの、実に母が62歳で亡くなるその日までの30年間、「お父さん」は母の元にずっとずっと通って来ていたのだから・・・・・・。
今になってみると、母が向日葵を好きだった理由がなんとなく解る気がする。 「お父さん」と言う太陽をひたすら追いかけ、首をぐるぐるまわし、時に疲れきって首をうなだれていた母。でも、枯れ果ててその花を朽ちらせるまで、母そのものが向日葵のような女だったような気もするのだ。
母が亡くなってからは「お父さん」は松本にはピタリと来なくなった。 やはり「お父さん」は母だけの太陽だったみたいだ。 それがアタシにはチョット寂しかったなぁ・・・・・・。
多分「お父さん」も年齢的に、既に他界されていることだろう。 今母は天国で、父と居るのかな? それとも「お父さん」と居るのかな? それとも又新しい誰かと一緒に居るのかもしれないなぁ・・・・・・。 もしかしたら母の事だから、皆と一緒くたになって、大好きなマージャンでも楽しんでいるかもしれない・・・・・・。
2011年09月12日(月)
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