ジョージ北峰の日記
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| 2010年03月08日(月) |
オーロラの伝説ー人類滅亡のレクイエム |
後になって分かったことですが、この国では子供社会と大人社会が完全に切り離されていました。大人はマザーランド(母島)で、子供は大人になるまではドーターランド(娘島)で教育をされていたのです。 しかも子供達は大人になるまで男女別々の島で育てられていました。 子供は個性に応じて教育を受けていました。戦士に関して言えば、海中戦戦士は女性、陸上戦戦士は男性でした。言葉は私には理解不能な人造言語のようでした。同僚の話では、少年や少女が地球で広く使われている言語を理解出来ないことは、私のように地球から来た人間から「有害な知識や情報が伝わらない」という意味で、必要な事なのだというのでした。 さらに驚いたことは、この国の子供達に親と呼ぶ概念がなかったことです。その理由は(驚愕したのですが)、子供達は母の胎内で育つのではなく、なんと体外受精と人口胎盤で育っていたのです。 「人口胎盤とは!」 人間がまるで鳥やトカゲのように卵を産み落とし、体外で受精させ人口胎盤で子供を育てる! とすれば、人類は進化の過程を逆戻りして鳥類や爬虫類になるということなのだろうか? なるほど女性が、子供を生む労力や危険を避けることが出来る、という意味では進歩と言えない訳ではないが・・・? 「進化の過程で哺乳動物が獲得してきた受胎の本質的な意味は何だったのか?」疑問が浮かぶのでした。 ただ人類などの哺乳類と爬虫類とでは、前者が固体の発生時に環境の影響を受けることが少ない。この点は確かに哺乳類のほうが環境に適応しやすい。しかしそれだけが、受胎・出産の生物学的な意味(哺乳動物が生き残った理由)だったのだろうか? 地球上の生命の起源や進化が誰によって、どんな設計で進められてきたのか(色々な学説が提起されていますが)本当のところは、私には分かりませんでした。誰がこのように整然とした緻密な生命のシステムを構築したのか? 環境の変化と化学反応によってもたらされた・・・という単純な説だけでは、とても理解し難いように考えていました。たとえ地球創世記や氷河時代のようにドラスチックな環境や気候の激変が地球上にあったとしても・・・。 ただラムダ国では、人を含めて生物の進化を強引に進めていました。今回の戦争では、その成果が如実に示されていました。 例えば今回、オメガ国のほうがマンモスザメを開発した点でラムダ国より戦争をはるかに有利に進めていました。 この国が体外受精を推し進める理由は、たった一つ、遺伝子工学を色々な生物に対してより効率的に、より迅速に遂行、進化のプロセスを簡略化するためだとしか考えられませんでした。 だとすれば「この国に見られるあの激しい性行為は一体何なのか?必要なことなのだろうか?」、ある時元老に尋ねますと「勿論だよ、男が男として、女が女として機能し、良い配偶子を造る為には質の高い性生活は必要不可欠なのだ?」と答えるのでした。(なるほど---それもそうか)この点については少し理解したような気がするのでした。 しかしこの日、私が助けた戦士が人口胎盤で生まれてきた少女だとは知りませんでした。ただ、普通の子供とは「何か雰囲気が違う、変わっている!」との印象は受けたのです。 私は彼女の興奮を鎮めるように、出来るだけ優しく話しかけようとしました。しかし彼女には私が話す言葉が全く理解出来ませんでした。 剥ぎ取られた戦闘服を拾い手渡しますと、私の眼前で躊躇う(ためらう)様子もなく衣服を身に着けるのでした。「帰ろう」と促しますと、私に助けを借りるようにして歩き出しました。それはまるで子供の仕草でした。 木々の葉の合間から差し込む夕日に、ほんのリ朱に染まる白い肌、長いまつげ、アレクのような青い目、小さな鼻、昔何処かで見た天使のような可憐な顔立ちの少女でした。 こんないたいけな少女を、陵辱した男のことを思いだすと、こみ上げてくる憤りを禁じえませんでした。 暫く、ゆっくりと歩いていましたが、彼女は突然立ち止まり、私の顔を見つめました。 「帰ろう」と促しますが、動こうとしません。 そして、腰の剣を引き抜くと、攻撃するような仕草をするのです。私が「やめるのだ!」と近づいていきますと、彼女は大きな瞳をいっそう大きくして、突然自分の左胸に剣を突き立てたのです。 一瞬の出来事でした。私が慌てて彼女を抱き上げ、剣を引き抜きましたが、彼女は何も言わず、何か訴えるような目で私を見つめていましたが、やがて静かに目を閉じたのです。 私の悲しみが如何ばかりだったか想像していただけるでしょうか?私には訳が分かりませんでした。 突然恋人が死んだような悲しみで、私は完全に打ちのめされたのでした。 この国で研究を続けることだけで、私の気持ちを納得させることは、最早出来そうもありませんでした。この少女の死を無駄にすることは看過できないと思ったのです。何時の間にか、私は理屈を超えた本能の世界へ引きずり込まれようとしていました。 18 モンスターザメの出現で、海中戦が不利になったラムダ国は、敵の波状攻撃が続き、かなり逼迫(ひっぱく)した状況に陥っていました。戦で多くの戦士を失っていましたが、 パトラの片腕と目されるアレクがモンスターザメとの戦いで、深い傷を負ったことは、この国の戦力、いや”勢い”に著しい悪影響を及ぼしていました。 さらに作戦会議で大問題になったことは「敵戦士がドーターランド(Dランド)に上陸し始めた」という報告でした。Dランドには子供たちを育てる最も重要な組織・機関があったのです。 この島が占領されることは、ラムダ国の敗戦を意味していました。 私達の国では、通常大人と子供が同じ場所・空間で生活しているので、たとえ国の一部が攻撃され、その地域が全滅することになっても、直ちに国全体の敗北を意味することにはなりません。 しかしラムダ国では、子供達はDランドでまとめて育てられていたのです。だからこの島が占領されると、ラムダ国の未来が失われることを意味していました。 参謀長は「Dランドで敵を迎え撃とう」と深刻な表情を見せました。 すると参謀の一人が「Dランドは山が多く、作戦が立てやすい。海中戦では確かに、我々は遅れを取っている。しかしDランドでは新しい動物を使って戦う訓練をしている。彼らを投入すれば戦況が好転するかもしれない」と発言しました。 パトラは「訓練中の部隊が出撃するのは、危険です。私が行きましょう」と断固とした表情で宣言したのです。 何人かの将軍が反対しましたが、パトラは意見を変えることはありませんでした。私も「パトラと一緒に参戦したい」と勇んで発言しますと、何時も反対していたパトラもベンも「ありがたい」と今回は歓迎してくれたのでした。
Dランドへの輸送には水中戦闘機が使われていました。水中戦闘機は、単に戦(たたかう)だけではなく戦士を一度に多数輸送するときにも使うのです。形は大型のエイに似ていて、エイの目の部分に主操縦席、副操縦席があり、情報収集・解析室は司令塔と共に頭の中央部にありました。外からの攻撃に対し反撃できる水中銃も設置されていました。 水中銃を発射するための座席は、上下・前後左右に、それぞれ4基ずつ設置されていました。座席の前にはモニターが設置されていて、敵の攻撃に対し発砲方向を指示するのです。モニターは360度、どの角度から攻撃されても対応できるように設置されていました。司令塔は周囲を360度監視できるようになっていました。本土からの司令や周囲からの情報を収集、作戦を立て、そして海中戦士や他の戦闘機に指令を出すのです。一機の水中戦闘機で30人余りの陸上戦士を輸送することが出来ました。 私は、この戦闘機のことをエイ戦闘機と呼ぶことにしていました。
上陸作戦は夜に実行することになりました。昼間はモンスターザメの攻撃が激しくエイ戦闘機と雖も(いえども)、安全とは言えないからです。それに、我方の防衛部隊、サメ部隊はほとんど壊滅状態でシャチ部隊だけが健全でしたがその数は少なく、昼間の輸送は味方に甚大な被害を与えること意味していたからです。 私は、陸上戦士として戦闘に参加することになりました。 地下の出撃基地からは戦士が粛々と潜水艇に乗り込んでいました。私はベンと一緒のエイ戦闘機に乗り込むことになりました。 出撃の際に使われる潜水艇は(以前見たことがありましたが、それ自身が外界に出撃するための乗り物ではなく、地下都市と海中をつなぐエレベーターのような機能を果たしていました)円筒状のトンネル内を滑るように進みますと、2箇所の出撃口がありました。 一方は海戦戦士のための出撃口(E-�機法�他方は陸上戦士が水中戦闘機に乗り込むための出撃口(E-�供砲任靴拭� E-�兇砲牢�にエイ戦闘機が待機していました。潜水艇とエイ戦闘機は、連絡路でつながり、戦士はこの通路から戦闘機に乗り込むのです。 ベンは私を司令室に案内してくれました。夜の海は不気味なほど静かな暗闇で、私には何も見えませんでした。しかし、準備されている特殊メガネを着用すると海中の様子が手に取るように遠くまですっきり見えたのです。 周囲に魚の泳ぐ姿は見えませんでしたが、既に出撃・待機しているエイ戦闘機数機が上方を緩やかに旋回している模様が見えました。 そして私たちの戦闘機が、戦闘機群に加わりますと、他の戦闘機は、旋回しながらベンの戦闘機を先頭に15機が1機、2機、4機、8機と三角形の形に並ぶのです。ベンの指示で青い光が翼の先端から発せられますとそれに呼応するように列機も一斉に青い光を発する。それを確認するとベンは直ちに出撃命令を出しました。 司令室から眺めると、我が軍はベンの部隊を先頭に左右に三角形状、上下に段々畑のように段差をつけ緩やかに進行している。その姿は勇壮で、この部隊がDランドに上陸すれば、オメガ国との戦いは「我が軍が勝利するのではないか」と思えるほど頼もしく見えるのでした。 この夜の出撃はあくまでモンスターザメの攻撃を避けるのが目的でした。エイ戦闘機は大型で防御体制が整備されていましたが、あくまで陸上戦士を輸送するのが目的で機敏な動作が出来ません。 静かな航行が続いていました。ベンは安全を確認すると、浮上するように命令をだしました。運行速度を上げるためには海上が有利なのです。 やがて満天下の空に星が降るように見え始めました。新月の夜でした。波の動きも穏やかで、まるで砂漠を進軍しているような錯覚に陥ったほどでした。 私はもともと科学者として微生物学を研究する予定でした。この国には、高度な技術、十分な実験施設があり科学者として魅力が一杯あったのです?しかも彼らは、私の能力を高く評価してくれていました。研究者として研究を続けることも可能だったのです。 しかし何時の間にかこの国の戦争に巻き込まれようとしていました。 何故こんなことになったのか? パトラがいたから? それとも可愛いい少女が勇敢に戦い死ぬ姿を見たから? 「戦わねばならぬ事態が起こった時、如何行動するかで、男の価値が決まるものだ」 昔、父が話していたのを思い出しました。 「でなければ、昔の戦国時代の武将は何も歴史的な役割を果たさなかったことなる」と---あれは男としての本能的行動の価値を言っていたのだろうか? 本能こそ動物の最も重要な行動原理だと---。パトラや元老が戦争を肯定するのもそのことなのだろうか? 元老は現代の戦争は高度な武器に頼る科学戦で人間同士の″本能“に基づく戦ではない。それが問題なのだと指摘したかったのだろうか? 日頃あまり考えもしなかった人間の行動原理について自問自答していました。 その時でした。ベンが突然私の肩をたたきました。「前方から、大群が押し寄せて来ている」と! と、間髪をいれず、パトラから「前方に敵あり、戦闘準備!」との連絡が入りました。 「この時刻に、一体何が攻めてくるのだ!」ベンは直ちにシートベルトを装着し、急速潜航するよう命令を出しました。
19 偵察に出ていた先方隊から、逼迫した声で「相手は大イカの大群」との伝令が飛んできましたが、それっきり通信が途絶えてしまいました。しかしそれは味方の隊形を決定する上で極めて重要な情報になりました。ベンは進行を停止すると、あらかじめ決まっていたのか「B隊形!」との指示をだしました。 見ているとエイ部隊は速やかに中央部を中心に”お椀型”の隊形を取りました。 全体を確認すると、ベンは直ちに中央の編隊に「灯りを点灯するよう」命令を出しました。 恐らく相手はイカ部隊なので”灯り”で相手をおびき寄せ、中央の部隊がしばらく戦うとみせ退却する、相手がさらに追跡して来るのを見計らって、背後から一気に攻撃するのだろうか---。しばらくすると司令室から作戦上、「最初は水中銃を使用しない」との指令が届きました。「最初はトロール網作戦をする」ベンは命令を出しました。 すると左右の部隊が動き、中央の部隊の前方にみるみる網が張りめぐらされました。モンスターザメの場合は、網を簡単に破るがイカの場合は、この方法で戦えると判断したのでしょう。 モニターを見ていると彼我の差がみるみる縮まって来る。敵は予想通り灯りの中心を目指して突進してきました。船内は緊迫した雰囲気に包まれました。司令室には本部から伝令が飛び込んで来る。それをまとめて伝令が周囲に情報を送信する。 接近して来たイカを見た時、私はモンスターザメを見たときと同様の衝撃を受けました。昔、映画で怪物イカが船を転覆させる場面を見たことがありました。あれと変わらないほどの怪物イカが、群をなして押し寄せてきたのです。 「我々のエイ戦闘機が、彼らに吸い付かれたら身動きできなくなるのでは?」ベンに尋ねると、ベンは黙って頷くのでした。 (我々はDランドに上陸する前に沈められる可能性も!) 私は窒息しそうな緊張感のため、握り締めた手が汗でびっしょり濡れてくるのを感じるのでした。 一方、作戦は功を奏しそうでした。 イカの大群を網の中に閉じ込める隊形をあらかじめ準備していたからですが、それだけではありませんでした。イカが網から逃げ出す前に、網の口を塞がなければならなかったのです。その作戦はエイ戦闘機だけでは無理でした。行動が鈍いからです。 作戦を察知した後方に布陣していた大イカは、反転逃げ出すだろう。 しかし作戦が成功したのは、シャチ部隊が護衛に参加していたからでした。パトラがシャチ部隊を指揮していました。彼女の部隊はエイ戦闘機の外側に布陣していて、最後のイカが網に入った瞬間、逃げる怪物イカを網へ閉じる動きに出たのです。 (パトラまで参加している、私はラムダ国が”背水の陣”をしいている”悲壮な覚悟”を感じるのでした) パトラの部隊が活躍してくれたお陰で大半のイカの捕獲に成功しましたが、逃げ出したイカも相当数に上リました。しかしラムダ国の作戦としては大成功でした。 ただ問題は、捕らえられたイカへ水中銃が一斉に発射されると、墨を吐き出したことでした。周辺の海は瞬時に真暗闇になりました。 「これが、エイ部隊が最初水中銃を使わなかった理由だったのか」 しかし周囲の状況が墨のため分からなくなっていました。 「見方同士の衝突が危険だ」一瞬不安がよぎりましたが、ベンは落ち着いていました。直ちに味方に超音波探査の命令を出しました。 すると敵味方の位置を画像上確認できるようになったのです。そして網に包まれもがきながらイカの大集団が海底に沈んで行く様が確認されるのでした。 と!突然、私たちの水中戦闘機が上下左右に大きく揺れ始めました。そして機は大きく回転しながら沈み始めたのです。 ”何だ!”と窓を見ますと、なんと20cmはあるかと思える、化物の様なイカの吸盤が吸い付いているのです。
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