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■ ガルシア・マルケス『十二の遍歴の物語』
ガルシア・マルケスの本を読まなきゃと思い始めてずいぶん経つ。 つっても『百年の孤独』という1960年代のベストセラーを書いた人、くらいの知識しかないんだけどね。 僕が今のところ、最高の焼酎だと思っている宮崎の銘柄「百年の孤独」はこの本から付けられたらしい。
で、肩慣らしというか、手に取った『十二の遍歴の物語』。 94年の本だけど、これ、ちょっとどうだろう。 非常にぶっちゃけて言うと、「大作家」「巨匠」の名に甘えただけの短編集ではないのか。
12の短編が並んでいる。というか「十二の死の物語」とでも言うべきで、ただの寄せ集めではなく統一感があるんだけど、序文でマルケス自身言い訳しているように何十年かの創作メモを捨てきれずに拾い上げたというのが、どうにもあきらめが悪い感じがしてすっきりしない。
ケチつけるのは簡単で、安易だとは思うけど、それにしてもちょっと読者をばかにしていないかい? と思った。 ストーリーテリングの力量です。 それともガルシア・マルケスなんていっても、せいぜいこんなものなのか?
あるいは、こっちが村上春樹式のオハナシに毒されすぎてるだけか?
ただし、ただし、12の短編の中で一つだけ、「悦楽のマリア」は、素直に圧倒された。 たった一人の主人公、老いたマリアのことが、読む人間には最後までよくわからないままなのに、それでいてマリアの心の動きがさらさらと流れ込むように伝わってくる。
マリアの哀しさや、驚きや、価値観が、そんなものどこにも書いていないのに、寄り道せずまっすぐに伝わってくる。 この台詞がいいとかここの描写がどうとかいうより、「悦楽のマリア」の後ろに流れている空気や、音や、世界がいい。 それを感じられて幸せだった、と言ってもいい。
短い作品だし、最後まで一息に読んでからほおっとため息をつくような短編なのでストーリーは書かないでおくけど、「悦楽のマリア」に出会えたことは本好きにとってひそかな自慢になりそうだ。
2003年11月20日(木)
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