気分刊日記

2002年08月31日(土) 葉月日記

 世間では夏休み最後の週末なんてこと言ってますが、だいぶ昔からそんなこと関係ない時間で生きてるなぁ。無論、夏のアバンチュールだとか一夏の恋だとかとも無縁。只暑いだけの夏が毎年過ぎていきました。
 そんな8月の最終日、株券消化の必然から今日も今日とて映画鑑賞に銀座まで足を運んで見たのは『イン・ザ ベッドルーム』と、公開初日『リターナー』の2本。やはり本日公開の「バイオハザード」と共にアミューズ絡みの“遅れてきた夏休みアクション映画”対決。一足先に試写で見てしまった「バイオ」との見比べは…。

 『イン・ザ ベッドルーム』imdb同系列の配給で上映中の「チョコレート」に受賞こそ持ってかれたが、こちらもアカデミー主演女優賞・主演男優賞などその演技の確かさが多くのノミネート・受賞をもたらした秀作。そしてやはり、「チョコレート」同様典型的なアメリカの悩みをストーリーの根底に据えている。前者は“人種差別”、こちらは“銃社会”への問題定義が読み取れる。そして、前者はアカデミー賞で受賞の栄誉に輝いて、本作が無冠に終わったのは問題に対して出された答えが物語っている。「チョコレート」がある意味とても優等生で幸せな答えを出すのに対し、本作は……簡単に言うと救いが無い。でも、本作のラストのほうがよりアメリカらしいともいえる。
 シシー・スペイセク演じる主人公達の家庭は、旦那は開業医、自分は大学出て今は主婦兼学校で東欧民謡?(おそらくブルガリアンボイス)を教えているインテリ夫婦。息子も大学で建築学を学ぶエリート。その家庭のハイソな雰囲気と対照的に、舞台になるのが都会から離れた田舎の漁村。ココが味噌!日本でもそうなのだが村社会に蔓延する封建的な慣習みたいな物がもう一つの問題。この辺の問題は日本でも、東京と地方、特に選挙で自民党が必ず勝ってしまうような農村部との関係にも見て取れる保守性。
 インテリ息子と、彼が付き合っていた人妻、その別居中の暴力夫との間に、痴情の縺れで殺人が起こりインテリ息子が被害者に。加害者の暴力夫は明らかに悪とわかっていても地元の有力者の息子なので相当の罰を受けずにのうのうと保釈され、性懲りも無く街中で体たらくをさらしている。人妻は無知で子持ちがゆえに何も出来ない。正当な判決が下されないことに憤りを感じるインテリ夫婦だが、インテリが故に極めて理性的を装う二人にも感情の爆発とぶつかり合いが発生。そこから、感情的な結末‘眼には眼を歯には歯を’へと流れてゆく。
 そもそも、日本なら銃持っているだけで圧倒的に非が有るはずなのに、アメリカではそれでも“故殺”になるんだから解らない。そこいら辺の裁判技術も、面白く展開されるときは良いけど、本作のように歪曲した戦法として使われると違和感を感じてしまう。あと、結末に至るスイッチを入れるのも、さしてやる気の見えない弁護士がポケットに手を突っ込んだ無意識の仕草に、親父が‘もう自分達でやるしかない’と思う瞬間。
引き算の連鎖がもたらす逃れられない悲劇の輪。

 『リターナー』全体の出来としては前作『ジュブナイル』と同じ印象をもつ。それは、発想や技術や映画の流れとして素晴らしいのだが、詰めが甘いのである。その際たる原因の一つに、金城武のキャスティングがある。なぜかと言うと、彼の日本語は純粋に彼の身体から出てきた言葉としては余りにも肉体が感じられない。というか、抑揚、イントネーション、そして表情がそのシーンや瞬間にいま一つ合致していない、と日本語ネイティブの私に感じさせるのだ。以前も、TVかなにかで見たときにつくづく思ったが、幾分か仕事を離れていたらしいので、その期間に直ったかと思ったのだが・・・。
 映画と言う架空の御伽噺はどんなに精巧に出来ていても違和感のある小道具や台詞、配役の一つでいっぺんに客を覚めさせてしまうこともあるのだ。一応、多言語話せる金城武を起用して近未来無国籍間を出そうと思ったのかもしれないが、まあ「ジュブナイル」でも成長した‘鈴木杏'が‘緒川たまき'になってしまうような監督なのでしょうがないのか?
 CGのレベルは「ジュブナイル」でも証明済みなので今更褒めるでもなし。発想・技術、それらから構築される世界観は納得できるし、それをエンタテイメントとしてきちんとブラッシュUPさせているのはえらい。しかし、そこに乗って来るキャラが・役者がうすい!でも、鈴木杏ちゃんはいつもの演技で可もなく不可もなし。今時珍しいムチムチしたのアイドル。
引っ掛かる事が無く素直に見切れてしまう分『バイオハザード』のほうが面白い。それに初日の入りも「バイオ」の方が上。


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