2005年03月17日(木) |
ぼくはもうこころをかたらない |
日曜日、寒いくもりぞらに外へ出掛ける。風が強い。 あんまり強い用事は無い。けれど足元は決意に満ちて固いアスファルトを踏んでゆく。
そう言えばあの日はお気に入りのチャコールグレーのコートだった。 風に、一つだけ留めていたボタンがあっけなく外れた。 空は灰色、やわらかく泣いているような穏やかさ。
店を出ようとすると一杯に雪。 地面はたちまち溶ける雪に濡れて、そんな中をひとびとがあっという間に白く塗られながら動いていく。 雪が一瞬一瞬止まって見えるのは何故なんだろう、とか思いながらぼんやりとする。 そして僕も、雪に塗りつぶされながら花を抱えて帰っていく。
土曜日の朝に隣の家の犬が死んだ。 土曜日の夜遅く、家に戻った僕に親がそれを告げる。 愛するもの、幼い頃から知る近しいもの、暖かく忠実なものが永遠にいなくなったのを僕は知る。 そして悲しむ。
白い花をかかえて帰る。 雪の中、隣人にそれを手渡して短く話す。 何ももう、僕の中に語るべきことが無いのを思い至って茫然とする。 腕いっぱいの白いものを抱えている間に、花の中にすべてが溶けてしまったような気がして僕は口をつぐむ
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