そうして時々 あのひとは僕の扉を揺らす 外に 居るのだという気配だけ残して 去る 決して どんな名前でもあのひとは僕を呼ばず 呼びかける言葉を持たぬので その 息遣いだけで 濃く 居るのだという気配だけ残して 居なく なって しまう
僕の 名前は すおう と いいます 僕の 名前は まこと と いいます 私の 名前は と いいます 僕の 名前は と いいます 私の 名前は と いいます
自己紹介を続け もう 人格は名に宿り 呼ばれることすら 慣れて しまったけれど あのひとの 声は 呼ぶべき僕の名を知らず その名があることすら きっと 心から否定 して しまったのだろうけど
だから僕は この こころが あのひとを思うことすら いつか 名も呼ばれぬかなしみの前に 押し殺されて 少しずつ無機質なものになってゆくのを 諦めてみたりする
ただ それが 呼ばれない名を待つだけの待ち焦がれるだけのことであるのを 時々 あのひと が 扉の向こうに居るのだという気配だけ残して消えるたびに 僕は 貪られるように確認して いたり する
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