眠る間際まで書けない手紙のことを考えていた。 何ひとつ決定的にしたくなかったようだ。 ひとに、会いにいく。 そのためにゆっくりとした電車に乗り、すべての駅をやり過ごして終点へ行った。 ことば、を、こころが拒否する感触。 何も手に取らず、目を瞑った。
地下から曇り空の下へ出ると、向かいの歩道をひとがよぎったように思った。 こころ、なしか、だけど確かめることもせず風の中に立ち止まっていた。 ただ ひと に 会いたい と想うこと。 そういう感触が随分久しぶりで。 胸がぎゅうっとなった。 永遠に来なければいいと思った。 ひとを、待ち続けるこの一瞬がずっと続けばいいと。 風が何度も髪を乱した。 会いたかった。 でも会えなければいいと思った。 「もう会わない」と。言うくらいなら。
だけどどんなにどんなに考えても、それ以上に良い道なんてどこにもないのが分かっていた。
不思議そうに僕を見る顔を、毅然とした顔で、見返したつもり、で。 つめたい顔をしたかもしれない。 でももう後戻りはできなかったから。
あいして います よ
ひとのなかにあるものを信じられなくなってから、もう何年経っただろう。 会えば求めるのに体を重ねると哀しかった。 死にそうなほど。 罪悪感は消えそうになかった。
5年か、10年か、いつまでかわからないけど。 いつか遠い日に、ひとに会えたらいい。
それまで、このこころのなかのうつくしい場所は埋まったままで居ればいい。
濃く甘ったるい酒と、見果てぬ夢のような甘さの煙草。 店を出ると細く猫の爪痕のような月。 今夜見る夢もまた、ひとのものだとおもう
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