短いのはお好き? DiaryINDEX|past|will
銀座松屋の6階。 疲れたのでレストルームで一休みしていた。 足を組んで、WINPCという雑誌を読みはじめたが 5分もしない間に目蓋が重くなってきた。 雑誌を閉じて脇に置く。 腕を組んで少し眠ろうと思った。 このごろ4時間くらいしか睡眠がとれない日が続いていた。 ところが、いざ眠ろうと目を瞑ってみても なにか心がザワザワしているのだった。 目の前のバカラのお店のお客が ロックグラスに見入っているのを何気なく眺める。 水晶のような華麗なる輝きを放つグラスたち。 その比類なき透明度と圧倒的な存在感は、王者たちのクリスタルの名に相応しい。 そんなことを考えていると急に酔いが醒めたような一気に霧が晴れたかのような感じがしたが、唯一延髄の辺りにちりちりと痺れるような違和感があった。 徐徐にバカラのお店の客のことがなぜか気になりはじめた。 カジュアルな恰好をしたその客は、左肩から紺色のトートバッグを下げていた。 こちらからは表情を窺うことができないのだけれども、客のグラスを見つめる目には何も映じていないのではないのか、そんな気がした。 なぜそのように思えたのか、自分でもまったくわからない。 ただ、そうに違いないという確信めいたものがあった。 と、不意にその男は芸術品かと見紛うばかりの大きなクリスタルの塊(ashtray?)を手に取ると、するりとトートバッグのなかに落とし込んだ。 驚いて見ていると、男は何ごともなかったかのように滑らかな動作で長い茶髪をゴムで留め、スイミング用のゴーグルをして、白い真新しい手袋を両手にはめると、おもむろにトートバッグを肩からはずして勢いよく頭上で一回転させ、訳のわからぬ奇声を発しながら、世界に一つずつしか存在しないバカラの陳列棚に突っ込んでいった。 あっという間の出来事だった。 耳をつんざくガラスの砕け散る凄まじい音、女性の金切り声…。 唯一無二である高貴な光を放つクリスタルの宝の山は、一瞬のうちに瓦礫の山へと化した。 そして 不気味な静寂だけが残った。
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