短いのはお好き?
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ときどき、まるっきり顔のない写真を見なければならない時もありました。 顔がないといっても、首から上がないのではなく、顔の造作がなにもなくて ぽっかりと穴があいているのです。 モノクロの写真だから見ていられたものの、カラーだったらとても正視出来なかったでしょう。 いや、まてよ、あれは写真じゃなかった気もします。 なんでまた写真で見たなんて思ってしまったのかわけがわかりませんが…。 あまりにもインパクトが強すぎるので、自分の中で咀嚼すらできなくて 未消化のままなのかもしれません。 自分のキャパシティを遥かに超えた出来事だったので、自分でそのように 改竄してしまったのかもしれません。 まあ、それはともかく、アッ、そうだそれで思い出しました。 たぶん、まあるく切れ目が入っていたのでしょう、お盆のような台に載った首たちがクルクル廻りながらベルトコンベアーで運ばれていました。 なぜ、回転していたんだろう? きっとチェックのためだとは思うのですが 廊下に出て窓から外を眺めてみると、建物から5メートルほど突き出した ベルトコンベアーの先から、地上へと顔のない首たちが、捨てられていました。 コンクリートで囲われた投棄場所には、顔のない首がうずたかく積みあがり ピラミッド状になって裾がずっと向こうまで広がっていました。
物音に気づいてふと振り返ると、人影のなかった通路にモップがけしている人がいました。 その薄いグリーンの上下を着た清掃スタッフだろうおじさんに、あの顔のない頭部は廃棄になるんですかとぼくは知らぬ間に訊いていました。
「ああ、まぁ、うちとしては廃棄処分ということになるけれども、また長い工程を経て再生するんだよ。ほら、ちょうど再生業者がやってきたみたいだ」
おじさんの柔らかい視線のそのずっと先に砂煙が上がっているのが見えました。 どうやら再生を行う業者とやらのトラックがやってくるようでした。 それでぼくははじめて荒涼とした景色に気付いて目を瞠りました。
そこには、ここが火星だといわれたならば、頷いてしまうだろうと思えるほどの 異世界が広がっていました。 風紋でタペストリーのように織り成された赤い砂の大地から、にょっきりと生えた尖塔のように先がとがった奇岩群が、紺碧の空に向かって屹立しているのが見えました。
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