2002年07月18日(木)

■ きみの声が二重窓の向こうから聞こえる

車道をね、横切ろうとしていたのよ。
誰がって、猫がよ。
長毛種の野良猫が。

多いんだよね、このへん。長毛種。
やっぱ、厳しい冬を乗り切るためには必要だったり。
つうか、一冬越す度に環境に適応してったり。
あれももともとは短毛種だったり。

なわけはないか。はは。

とにかく、その長毛種。
車道を横切ろうとしていたの。
横切りたいんだけど、最初の一歩が踏み出せないって感じ。
ちょうど老婦人みたいなね。

それ見て、思わず自転車を止めてしまったのさ、ぼくは。
で、声にまで出して言ってしまったよ。
危ないよ、と。
いや、声かけるぼくの方が危ない奴かもしれんぞ。

でまぁ、ぼくは思ったわけ。
無事に向こう側に渡れるまで見届けてやろうかね、と。
したらば、よりにもよって、車が近づいてきたところで歩き出すの。
こっれだもんなぁ、猫は。
ねぇ、なんで? なんで猫ってそうなの?

そんなだからねぇ、後を断たないんだよ、猫の轢死。
タイミング、全然捉えてないでしょう、きみたち。
ライトに気づいたら立ち止まっちゃうでしょう。
絶対に勝てないんだからね、きみたちは車に。

幸いなことに、そのときやって来た車はすぐに徐行してくれた。
運転席の男性と、歩道で自転車にまたがったままのぼくは、
お互いの苦笑する顔にしばし見入って。
その間に、車の正面で立ち止まっていた猫は
ひょこひょこと向こうに渡っていく。

車が走り去った後も、しばらく向こう側の猫を見ていると、
行きかけたそやつはふと足を止めて振り返った。
これだもんなぁ、猫は。
振り返るんだよなぁ。ぴたりと止まって。

そんなだから、人間はあれこれ想像して、
都合のいい物語を作ってしまったりするんだよ。
こう言いたかったにちがいないとか、
やがて恩返しをしに来ましたとか。

 ☆彡

今日は我が家の猫の13回めの誕生日。
二重窓の向こうから、にゃんと鳴き声が聞こえてくるような気がして、
ぼくは何度も手を止める。


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