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2013年10月25日(金) 2013ドラフト会議総括

◎極めて平穏だった2013ドラフト会議

2013年の日本プロ野球(NPB)ドラフト会議が終了した。今年は新人不作と言われ、そのためであろうか、ドラフト会議はきわめてフェアに行われた。思えば一昨年は、読売以外に指名された場合、浪人を宣言した菅野がいた。また昨年は、早々に米国球団入りを宣言し、日ハムを除く全球団が指名を見合わせたところ、その日ハムが単独指名で獲得に成功した大谷がいた。彼らには終生、“ドラフト破り”の汚名がついてまわることだろう。

◎今年の目玉は松井裕樹投手

さて、そんな中、今年話題の新人は、松井裕樹投手(桐光学園)だ。174センチ、75キロと近年ではやや小柄な左腕。最速149キロ直球と鋭いスライダーを武器とし、高校NO・1投手と言われる。高2夏の甲子園で1試合22Kの大会新記録をマークした。そんな松井に、DeNA、中日、日ハム、ソフトバンク、楽天の5球団が1位指名を敢行、抽選の結果、楽天が交渉権を獲得した。

◎松井は早くからスライダーを多投しすぎ

話題先行の松井である。プロ野球で一球も投じていない才能のある投手に礼を失することを承知で言うが、筆者は松井にあまり期待しない。来シーズン、もしくは数シーズン、松井はプロで成功するかもしれない。がしかし、松井の投手生命は長いと思えない。その理由は、あまりにも早くからスライダーを多投していることにある。いま、MLBのワールドシリーズ(セントルイス−ボストン)がたけなわだが、そのTV中継で解説をしていた元MLB(セントルイス)の田口壮氏が米国の投手育成について興味深い解説をしてくれた。

田口氏曰く――米国では投手にスライダー、カーブ等の変化球を投げさせるのは、ハイスクールに入ってから。身体ができあがっていない若い投手には、ストレートとチェンジアップを並行して投げさせる。なぜならば、このどちらの球種も腕の軌道が同じで、肘に負担をかけにくいから。

米国と日本の投手育成法の違いについては、このコラムで何度も取り上げてきた。肩、肘等は消耗品だとするのが米国的思考で、日本はその反対に、鍛えなければ強くならないという。確かに、筋肉等は鍛えなければ強度は増さないし、筋量も増えない。だから、正しい方法で適正な時間、筋肉トレーニングを行えばその強化は進む。問題は、野球の投手の投球が一般的筋肉強化の範疇に入るのかどうかではないか。人間が硬球を全力で100球程度投げ込む運動――しかも変化球という特殊な投法――は、きわめて異常な負荷を肩・肘等にかけるのではないか、と筆者は考える。日本式の鍛錬・強化方法を投手に課した場合、いったいどれくらい投手生命を保てるのか。

筆者は、田口氏をはじめとする米国流の肩・肘消耗論に賛成する。よって、先発投手のローテーション制及び球数制限に賛成する。この制限は、プロ野球選手にかけられるものというより、育成途上のアマチュア投手にこそ、厳正に適用すべきと考える。つまり、日本の高校野球(甲子園)大会における投手にこそ、この制限をかけるべきだと考える。甲子園の予選、本戦は問わない。もっと言えば、18歳以下のすべての投手は、あらゆる試合、大会において、投球数制限もしくは登板間隔制限をかけるべきと考えている。

◎話題性に賭けた5球団

さて、松井である。松井についての報道によれば、彼は登板のたびに全打者に対し、全力投球を信条としているらしい。甲子園大会の予選、本戦のみならず、そのほかの大会においても、そうだという。彼の登板した試合数、1試合当たりの球数がどれくらいの数にのぼるのか知りたいものだ。ストレートとスライダー等の球種別の割合も知りたいものだ。筆者の推測によれば、異常な数字と割合が出てくるものと思われる。

そんな松井を1位指名したのが楽天を含めて5球団もあった。12球団中の5球団であるから、異常な人気ぶりだ。だが、この5球団が真に松井を将来有望な投手だと思って指名したのかどうかには、疑問が残る。プロ野球は人気稼業。話題性は必要だ。キャンプ、オープン戦、シーズンを通じて、メディアやファンの注目を集めることが球団経営にとって重要なことは言うまでもない。いわんや、日本のプロ野球の場合は親会社の宣伝媒体として運営されている面が強い。その観点からすれば、アマチュア野球界でスター扱いされた人気者を上位指名することは、戦力面の強化よりも宣伝面の効果として必要度が高い。

松井を1位指名したDeNA、中日、日ハム、ソフトバンク、楽天は、等しく、ファン獲得が絶対条件の球団ばかり。DeNA、楽天はネットサービスの会社で、人気者の加入は営業面に有利に働く。中日は選手の高齢化とスター不足によるファン数減少に歯止めがかからない。このまま退潮傾向が続けば、親会社の新聞発行部数にも悪い影響がある。日ハムは「アマ野球ナンバーワンを指名する」ことを旨としてはばからない。ソフトバンクも、広告宣伝で携帯電話のキャリア数増競争において、他社と熾烈な争いを繰り広げている。

◎戦力重視の7球団

一方、人気先行の松井の1位指名を避けたのが、読売、阪神、広島、ヤクルト、西武、ロッテ、オリックスで、この7球団は、オーソドックスに、ドラフトを戦力アップの一環として位置づけ、そのように行動した。オリックスが実業団ナンバーワンの吉田一将(投手・JR東日本)を単独指名した結果がそのことをよく象徴する。

◎“ドラ1”の二面性

ドラフトの目玉という表現には二面性がある。入団してもらうことに意味のある選手というものと、真に戦力として期待する選手という意味だ。もちろん後者であっても、大成しない選手は多い。それだけ、プロは厳しいということだ。

その一方、前者の選手を代表するのが、近年ではハンカチ王子こと、斎藤佑樹(投手・早稲田大⇒日ハム)だろうか。時代を遡れば、1位指名ではないが、長嶋一茂(野手・立教大⇒ヤクルト)、野村克則(捕手・明治大学⇒ヤクルト)が思い浮かぶ。両者とも父親が日本プロ野球を代表する名選手である。なお、アマチュア野球界のスターで、かつ、実力も十分となると、近年では大谷(日ハム)がナンバーワンだろうが、あまりにも多数いるので割愛する。

ドラフト会議を前にして、プロ野球志望届を提出するアマ野球選手は毎年、200名近くにのぼるという。NPBの場合の支配下選手登録は概ね、一軍と二軍を合わせた1チームに70名である。12球団であるから、840名がリミット。プロ選手希望者が多い割に受け皿が少ない。これは日本におけるプロ野球の市場性からみて、球団数が極めて少ないことによる。このことは別の機会に書くことにするが、日本のプロ野球界に野心的に参入しようとする勢力を既存の12球団が排除していることに起因する。才能のある選手が、機会を与えられずに廃業に追い込まれるケースが多い。

いずれにしても、指名を受けた若い野球人の今後の成功を心より祈念する。



2013年10月17日(木) 日本とベラルーシ、どちらが「格下」?

<国際親善試合:日本0−1ベラルーシ>◇15日◇ベラルーシ・ジョジナ

まず日本のマスメディアに言っておきたいのは、対戦相手のベラルーシ(FIFAランキング80位)を「格下」と表現することの愚。FIFAランキングをメルクマールにしての表現とは思うものの、サッカーの質をわきまえるならば、日本の42位はあり得ないランキングであるは明らか。日本の42位は、ホームの親善試合の勝利で跳ね上がったバブル・ランキングであって実力ではない。それが証拠に、日本代表は、日本のマスメディアが言う「格下」を相手に、90分間、ほとんど仕事ができなかったではないか。日本が敗けたから言うのではない。日本代表は、代表監督であるザッケローニ、代表レギュラー選手たち、そしてそれを取り巻く日本のマスメディアを含めて、大いなる勘違いをしていたことを反省したほうがいい。

試合の詳細は省略する。言えるのは、90分間を通じて、日本代表選手はベラルーシの強い寄せ、プレスにたじろぎ、パスを後方の空きスペースに配するにとどまったという事実。攻撃的な形ができていたという報道もあるようだが、筆者がTV観戦した限り、日本が主導権をとった時間はほとんどなかったように見えた。ポゼッションの割合は高いのかもしれないが、相手ゴールに迫れたのは3シーンにすぎなかった。

筆者はベラルーシのサッカー事情について全く知らない素人だが、一部報道によれば、先に行われたW杯予選スペイン戦に出場した主力はこの試合に出場していないという。つまり、セルビア同様、ベラルーシも日本に対して2軍もしくは1.5軍を送り込んだようだ。もちろん日本はベストメンバー。それでも日本は「格下」とやらに負けたのだ。

ベラルーシのとった選手起用を日本ホームに置き換えるならば、日本が本田、香川、長友といった主力を外してFIFAランキング上位のたとえばフランス(同25位)に勝ったようなもの。サッカーだから何があるかわからないが、ホームとはいえ、日本代表の1.5軍〜2軍がフランス代表に勝つことは考えにくい。では、ベラルーシがジャイアント・キリングをやってのけたのかと言えば、そんなことはない、ごく自然な勝利だった。というのも、日本のサッカーがセルビアに負けたときと何も変わっていないからだ。つまり、ベラルーシは実力どおり、日本に勝ったにすぎない。日本を含めたアジアのサッカーのレベルの低さが証明された試合だった。繰り返すが、日本のFIFAランキング42位はバブル。日本が海外で親善試合を重ねればバブルがはじけ、日本のランクは60〜80位程度に落ち着く、というのが筆者の見解だ。

さて、敗因については、先のセルビア戦と変わらない。この敗戦を受け、「閉塞感」という見出しを冠したスポーツメディアがあったが、誠に適正でいい表現だ。日本代表選手は精神的にも肉体的にも、ベラルーシに追い込まれてプレーをしていたように見えた。こうした試合内容及び敗北の連鎖を断ち切れない状況を含め、日本代表は「閉塞状況」にある。

その根源にあるのが、日本代表選手のフィジカルの弱さ。とりわけ、ボランチ(遠藤・長谷部)及びCB(今野・吉田)は絶望的に弱い。この4選手は賞味期限切れかもしれない。攻撃陣でも、ボールが収まらないワントップ柿谷、キレのない香川は代表から退いた方がいいのではないか。いまさらながら、佐藤寿人(広島)を切ったザッケローニが恨めしい。



2013年10月15日(火) NPB、2013シーズンを総括する

日本プロ野球(NPB)はいま、クライマックスシリーズ(CS)真っ最中だが、ひとまずここで2013シーズン結果を総括しておこう。筆者が開幕前に予想した順位は以下のとおり。

(セリーグ)読売、広島、ヤクルト、中日、阪神、DeNA
(パリーグ)ソフトバンク、日本ハム、楽天、オリックス、西武、ロッテ

ところが結果は・・・

[セ・リーグ]
1 巨人:84勝53敗7引分、勝率.613)
–得点597失点508 本塁打145盗塁90打率 .262 防御率3.21
2 阪神:73勝67敗4引分、勝率.521)12.5差
−得点531失点488 本塁打82盗塁81打率 .255 防御率3.07
3 広島:69勝72敗3引分、勝率.489)17差
−得点557失点554本塁打110盗塁112打率.248防御率3.46
4 中日:64勝77敗3引分、勝率.454)22差
−得点526失点599本塁打111盗塁57打率.245防御率3.81
5 DeNa:64勝79敗1引分勝率.448)23差
−得点630失点686本塁打132 盗塁54打率.262防御率4.50
6 ヤクルト:57勝83敗4引分、勝率.407)28.5差
−得点577失点682本塁打134盗塁70打率.253防御率4.26

[パ・リーグ]
1 楽天:82勝59敗3引分、勝率.582
−得点628失点537本塁打97盗塁62 打率.267防御率3.51
2 西武:74勝66敗4引分、勝率.529)7.5差
−得点570 失点562本塁打86盗塁113打率.257防御率3.54
3 ロッテ:74勝68敗2引分、勝率.521)8.5差
−得点572失点584本塁打91盗塁91打率.262防御率3.77
4 ソフトバンク:73勝69敗2引分、勝率.514)9.5差
−得点660失点562本塁打125盗塁87打率.274防御率3.56
5 オリックス:66勝73敗5引分、勝率.475)15差
−得点513失点529本塁打93盗塁84打率.256防御率3.31
6 日本ハム:64勝78敗2引分、勝率.451)18.5差
−得点534失点604本塁打105盗塁120打率.256防御率3.74

●ヤクルト最下位は想定外

セリーグは読売の1位は鉄板で外しようがないが、筆者が3位としたヤクルトが最下位。この結果は驚き。ヤクルト最下位の主因は投手陣の故障者続出であったことは疑いようもなく、ピッチングコーチを筆頭にトレーナー等を含めたスタッフの責任は免れない。練習方法、強化方法、選手管理の問題点を整理しなければ、来シーズンもいい結果は出ない。もっとも、ヤクルト指導部が投手を酷使してきたというわけでもないので、投手陣各人の自己管理の問題かもしれない。そのあたりは部外者にはわかりかねる。

●阪神2位の原動力は投手陣の健闘

広島の健闘は予想どおり。CSで2位阪神を2連勝でくだし読売への挑戦権を得ているから、2位の力はある。それでも、CSで広島に敗れたとはいえ、阪神の2位確保は立派。開幕前、筆者は投手陣が悪いと見て5位としたが、終わってみれば、防御率がなんとリーグトップ。メッセンジャー、能見、藤波、スタンリッジが安定していて、防御率争いでは、阪神の3投手――能見(2位)、スタンリッジ(3位)、メッセンジャー(4位)――が、上位を占めた。シーズン終盤に失速し、読売との首位争いから脱落した要因は、リリーフ陣の力不足。MLBに移籍した藤川の穴が埋められなかったことに尽きる。

阪神の前半の健闘を牽引したのが新人の藤波。阪神首脳陣は藤波をうまく起用した。フィジカルの弱さ、インステップの変則モーションからくるスタミナ不足等の問題を抱えながらも新人で24試合に登板、137 2/3イニング(規定投球回数に達せず)、10勝6敗、防御率2.75、奪三振126は立派なもの。日ハムの大谷(二刀流)に比べれば、はるかにチームに貢献したことになる。しかも故障なくシーズンを終了できたことは評価できる。

●藤波は自身の投手像を確立せよ

しかし、藤波がこのままなら、来シーズン以降、順調に成長すると筆者は考えていない。まず、投球フォームである。問題のインステップを修正し、肘を上げてオーソドックス投法にフォーム改造すればいい球が放れる、という保証はない。

というのは、藤波はもともと変則投法が身についていて、それで高校時代まで成功してきた投手。プロ1年目も、新人としては立派な成績を残した。だから、藤波がフォーム改造に取り組むことにもリスクがないわけではない。

彼の投法においては、身体の使い方が「上下」ではなく、「横」回転なのである。だから、当コラムで以前筆者が指摘したように、変則を生かす手もある。MLBで範とするならば、ランディ・ジョンソンだ。ランディと藤波は左右の違いはあるが体型が似ている。身長が高く、リーチ(手足)が長い。ランディも肘が下がった変則でインステップ気味。そのため、ランディの全盛期、相手左打者は怖くて踏み込めず、まずバットで彼のボールをとらえることは至難だった。藤波との違いはフィジカル及びメンタルの強さの面。ランディは荒々しくて、剛腕という形容がふさわしかった。一方の藤波は体はでかいが、お坊ちゃまという風貌で、インステップの割には恐怖感を感じない。

藤波が自身の投手像をどのように描いているかわからないが、自分の特性を生かした投法を自身で構築できるよう、このオフシーズンにしっかり勉強してもらいたいものだ。そのことは、フィジカル面にとどまらず、自身の性格やメンタルも含めたものとなろう。

これも以前書いたことだが、NPBでは、サイドスローながら、最多勝5回(1989年、1990年、1992年、1995年、1996年)、最優秀防御率3回(1989年、1990年、1996年)、最多奪三振1回(1995年)、MVP1回(1990年)、沢村賞3回(1989年、1995年、1996年)を獲得し、プロ通算180勝をあげた斉藤雅樹(読売)も参考になる。

●日ハム最下位は大谷「二刀流」の愚策

パリーグは2012シーズン首位だった日ハムが最下位に沈んだ。このことは何度も書いたので手短にしておくが、その主因は大谷の「二刀流」にある。

一方、筆者が最下位としたロッテが3位となり、しかもCSの1stステージで2位西武を破った。このことは意外な結果だ。戦力の若返りに成功し、選手の成長に応じて勝利を上げていくプロセスはみごと。2013シーズンにおけるロッテの監督・コーチの手腕を評価してしすぎることはない。

●田中の無敗に絶句

楽天の首位は、外国人の補強(とりわけマギー)に成功したこともあるが、いうまでもなく田中投手の驚異的活躍に尽きる。まさに絶句である。先発投手がシーズンを通じて負けなし、とは聞いたことがない。田中投手の好成績を貶めるつもりはないが、他の5球団にはなんとかしてもらいたかった。

楽天及び読売がCSを勝ち上がったという仮定のもとだが、田中投手と読売打線の対戦に興味がある。田中が打たれれば、読売の楽勝。たとえ、読売が田中は打てなくとも、読売が日本シリーズに勝ちこす確率は高い。野球というスポーツは総合的な戦力の勝負。一人の英雄の力だけでは、いい結果は出せないものだ。



2013年10月13日(日) セルビアにあって日本にないもの

◇国際親善試合:セルビア2−0日本(10月11日、セルビア・カラジョルジェスタジアム)

●若手起用のセルビア、ベストメンバーの日本

日本がアウエーでセルビアに負けた。セルビア代表はすでにW杯ブラジル大会欧州予選で敗退が決まっている。日本戦に係るセルビア側の位置づけは、セルビアの名選手デヤン・スタンコビッチの引退試合ということ。セルビア代表から、欧州の強豪リーグに所属する、アレクサンダル・コラロフ(マンチェスター・シティ/イングランド)、ネヴェン・スボティッチ(ドルトムント/ドイツ)、リュボミール・フェイサ、フィリップ・ジュリチッチ、ラザル・マルコビッチ((以上ベンフィカ/ポルトガル)、アレクサンダル・ミトロビッチ(アンデルレヒト/ベルギー)といった主力選手が外れた。典型的なフレンドリーマッチ(親善試合)であり、セルビア代表に勝利のモチベーションを期待することは難しいと思われた。

一方、セルビアに乗り込んだ日本はご承知のとおり、W杯出場をすでに決めていて、この試合は本大会までの強化が目的だ。選手側に立てば、レギュラー組はその地位を明確にしたいところであろうし、控え組はレギュラーを上回る働きをして、地位逆転を計りたいところ。モチベーションに関しては、日本がセルビアを上回ることに疑う余地はないと思われた。しかも、前出のとおり日本の先発はベストメンバー。故障と報道されたMF遠藤もボランチで先発(しかも90分フル出場)だ。アウエーとはいえ、日本は勝ちを目指していることは明らか。もちろん、W杯出場を決めた実力をセルビアに見せつけたいところだ。勝たなければいけない。

ところが、ところが、終わってみれば日本は0−2の完封負け。試合を通じて日本はボールをやや支配するもパスミスが多く、相手守備陣を脅かすシーンをつくれない。日本の得点機は1度だけ――それを香川が外した。

●セルビアの勝因は

セルビアの勝利の要因はどこにあるのか。現地取材をしていないのでTV映像による印象を記せば、以下のとおり。試合の戦術や技術、作戦という次元ではない。サッカーを取り巻く国情の違いという面が大きいのではないか。

・起用された若手選手のモチベーションの高さ
・伝統的に強い守備力
・フィジカルの強さ
・選手層の厚さ

筆者がそのように考えた根拠は、NHKBSで12日の20:00から放映された、「ワールドウエイブ・W杯予選の最も熱い日 〜セルビア 対 クロアチア サポーターたちの闘い〜」に基づく。同番組は、セルビア―日本の試合の再放送の直前に放映されたもので、筆者が見たのは偶然であった。最初の放映は9月14日(土)22:00〜22:49、9月15日(日)11:00〜11:49であったらしい。日本がセルビアと試合をしたため、試合の再放送に合わせて、再再放送されたものと思われる。

●セルビアのサッカーの根底にあるもの

同番組の概要は以下のとおりである。旧ユーゴスラビア崩壊後の内戦で骨肉の争いをしたセルビアとクロアチア。その両民族が9月6日、セルビアの首都ベオグラードのスタジアムでW杯ブラジル大会予選を戦うことになった。ユーゴ内戦は複雑な戦争だった。昨日まで友人だった者同士が内戦当日、敵味方となって殺し合った。そんな両民族が終戦後独立し、初めてサッカーの試合をすることになった。だから、両国の試合はサッカー史上、最も熱い一日になるかもしれないと。

番組は両国のサポーターの生活を映し出す。90歳を超えるセルビアの老サポーター。この老人はかつて、セルビアが負けた試合で自殺未遂をしたこともあったという。毎朝、スポーツ新聞をよろよろ歩きながら買いに行く老人にとって、サッカーのない人生は考えられない。

そして、もう一人、サッカースクールに通うセルビアの17歳の少年。内戦で家を失い難民化した彼とその家族はセルビアの首都郊外において、コンテナハウス(仮設住宅)で暮らしている。その家族が年収の何分の一にも匹敵するクロアチア戦のチケットを少年のために購入する。家族も少年も、サッカーで成功することが、いまの生活から脱する唯一の手段となっている。

かたやクロアチアのサポーターとして、一人の芸術家が登場する。彼は旧ユーゴ内戦の記憶を絵画のテーマとしていて、その画筆はあくまでも暗い。だが、この画家はセルビアとの融和を願っている一人でもある・・・

宿敵同士の一戦を前に、両国サポーターの積年の憎しみ、ナショナリズムが燃え上がる。試合当日、試合直前の両国国歌演奏では、アウエーのクロアチア国歌は罵声でかき消される。両国キャプテンが朗読するフェアプレーの宣誓においても同様だ。

試合開始の笛、クロアチア先制、セルビアが同点に・・・結果はドロー。ホームで勝てなかったセルビアだが、スタジアムが混乱することも、選手同士が乱闘することもなかった。

セルビア、クロアチアはサッカー通じて融和したのか――もちろん、この番組からはわからない。しかしながら、セルビア、そして、クロアチア両国におけるサッカーを取り巻く風土は、明らかにわが日本国と異なっていることだけは明らかである。

●どん底の生活から這い上がるためのサッカー

さてさて、セルビア―日本の試合に戻ろう。今回の日本戦で試験的に投入されたセルビアの若手のモチベーションは筆者の想像を超えて高かった。前出のとおり、母国セルビアの生んだ名選手・デヤン・スタンコビッチの引退試合=国中の注目が集まる親善試合、しかも相手がW杯出場を決めた日本が相手となれば、若手は自らの力をアピールする絶好の機会ととらえたとしても不思議はない。そのことは前出のセルビアの17歳の少年の映像からもうかがいしれる。あの少年にとって、その家族にとって、現在の難民のどん底生活から這い上がる唯一の手段がサッカーなのだ。

一方の日本は、ボールがおさまらない、ミスが目立つ。セルビアにあって、日本にないもの――それは、サッカーを取り巻く“現実”の違いだろう。セルビアのような、W杯出場常連国ではない欧州の中堅国には、それなりの厳しい現実社会があり、彼らは厳しい生活から這い上がるために、フィジカル的にも精神的にも鍛練を重ねる。うまくなりたいためにサッカーをするのではなく、生きるためにサッカーをする――その違いだ。そこで積み上げられた(日本との)差異は、負けないための強さを長い年月をかけて育む。その強さ、したたかさが、ホーム(日本からすればアウエー)において選手の魂の中から強く意志表示され、自軍の勝利につながっていく。

●日本代表選手の脆弱さ――競争意識の欠如

日本代表選手はその点において、脆弱きわまりない。日本の代表レギュラー組は、代表戦で決定的チャンスを外しても、レギュラーの座が確約されていて、代表チームを追われることはない。選手層が薄いのだ。海外チームで試合に出場できなくとも、Jに戻ればレギュラーだし、代表選手の肩書を得ていれば引退しても食べていける。だから、日本代表に逞しさが身につかない。日本サッカーが誇る“戦術・技術・組織性”の優位性が、セルビアの泥臭い「生活」を賭けた逞しさを上回ることができない。このことは、中南米、アフリカ諸国のサッカーと日本との差異に共通する。

●日本プロ野球にも劣る日本サッカー界の選手層の薄さ

日本プロ野球(NPB)界のほうが、日本サッカー界よりも厳しい。まず日本のフィジカルエリートは、野球を志すことが多く、NPB選手は日本のプロサッカー選手より、身長でおよそ5〜10�僂曚評絏鵑襦�ちょうど欧州のサッカー選手の標準くらいがNPB選手の体格に匹敵する。競技・運動の質が異なる野球とサッカーを比較しても意味はないが、体格面で日本サッカー選手はかなり劣っているのが現実だ。それに準じて、フィジカル面が弱い。NPBの選手もアメリカメジャーリーグ(MLB)選手よりは落ちるがその差は、サッカーより小さい。さらに、国内において、NPB選手の方がサッカー選手よりも厳しいプレッシャーに晒されている。日本のプロ野球の開始は1936年とされるから、80年弱の歴史をもっていて、サッカー(Jリーグ)の20年とは比較にならない。NPBが、五輪・WBC等の野球の世界大会で常に優勝を狙える地位にあるのは、長年のプロの歴史をもつが故ともいえる面を否定できない。

●日本サッカーはまだまだ、これから

日本が自分たちのスタイルを貫いて欧州の中堅国やアフリカ勢に勝つには、日本独自のサッカー文化を育む「時間」を必要としている。時間とは歴史である。サッカーのようなチーム競技の場合は、一人の傑出した天才が世界一に輝く競技とは異なる。いわば全体の底上げがチーム力に結集する。いや結晶するといったほうがいいかもしれない。

日本サッカーでは本田、香川、長友、内田が世界レベルだと言っても、チームでたった4人、しかも、本田は欧州の強豪リーグでプレーした経験をもっていないし、香川は世界最強チームの一つに所属しているがレギュラーではない。内田もドイツのトップチームでプレーしているわけではない。唯一、長友だけが世界レベルのクラブのレギュラーの地位を確保しているにとどまっている。この現実から世界を見れば、セルビアとの差は明らかだ。

セルビアは、日本戦の先発で、DFのマティヤ・ナスタシッチ(マンチェスター・シティ)、アントニオ・ルカヴィナ(バジャドリード/スペイン)、ブラニスラフ・イヴァノヴィッチ(チェルシー/イングランド)、ネナド・トモヴィッチ(フィオレンティーナ/イタリア)、MFのイバン・ラドヴァノヴィッチ(キエーヴォ/イタリア※引退顔見世のスタンコビッチに代わって試合開始すぐに交代出場)、ネマニャ・マティッチ(ベンフィカ/ポルトガル)、ドゥシャン・バスタ(ウディネーゼ/イタリア)、FWのドゥシャン・タディッチ(トゥウェンテ/オランダ)、フィリプ・ジョルジェヴィッチ(ナント/フランス)らが出場している。

さらに、日本戦に欠場した主力として、前出のとおり、アレクサンダル・コラロフ(マンチェスター・シティ/イングランド)、ネヴェン・スボティッチ(ドルトムント/ドイツ)、リュボミール・フェイサ、フィリップ・ジュリチッチ、ラザル・マルコビッチ((以上ベンフィカ/ポルトガル)、アレクサンダル・ミトロビッチ(アンデルレヒト/ベルギー)、ミラン・ビシェヴァッツ(リヨン/フランス)らがいる。

●大手代理店が仕組む「日本代表ブランド」の異常性

日本代表の国内親善試合の場合、海外組である主力が外れると大騒ぎになるが、セルビアでは話題にもならないようだ。そこに日本代表が置かれた日本国内における異常性がある。日本代表の親善試合の相手はコンディションの悪い外国代表チーム。一方、日本代表は海外から主力選手を呼び戻してベストメンバーを組み、準備万端整えて迎え撃って勝利する。

そうすると日本のFIFAランキングが自動的に上がり、日本の国内サポーターは日本がサッカー強豪国になったかのように錯覚する。日本代表監督は特権的地位を獲得し、その采配や選手起用に疑問の声が上がろうとも圧殺される。メディア(サッカージャーナリスト)は代理店のポチだし、サッカー評論家は就職活動に支障が出るから、代表サッカーへの批評・批判をまともに行わない。甘やかされた代表選手は世界のビッグクラブへとの契約ばかりに頭がいってしまって、代表サッカーをそのステップアップとしかとらえないから、規律・組織性が育まれない。その代表格が本田であるのだが、本田を外すと日本代表はアジアでも勝てなくなる・・・

こんなことは、当該コラムで飽きるほど書いてきた。さて、こんどの欧州におけるアウエー強化試合で日本代表が構造的反省を求められたとしても、ブラジル大会まではそれを再構築する時間がない。このような状況は、岡田ジャパンでもあったことだが、その岡田ジャパンが南アフリカ大会で予選リーグを突破したため、日本の弱さが根底的に批判されずに4年近くが経過してしまった。

日本が強くなるためには、アジアで負ける以外に道はない。日本代表がW杯から解放されれば、逆説的だが、創造的かつ根底的な日本サッカー再構築のアプローチが見いだせる。日本代表がアジア予選で敗退することが、最短、最良の日本代表強化策とは情けないし知恵がない。しかし、それしか方法が見いだせないくらい、日本サッカーの未来は明るくない。


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