恋文
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まだ木々が 眠っているように くらい
朝は もう ずいぶん ゆっくりと やってくる
すでに 冬の仕度に かかっている みたい
肩に 背に ふれる 髪を かんじている
そのままの わたし しらない わたし
狂うほどに 取りもどす わたし
季節は 狂え と いう
そのときに
どうして 狂わずには いられようか
海を 夢見て ねむる
波に ただよっている
きょう みどりの海に ただよう
遠くの 海に ただよう前に
どんなにか わたしのままに いたいけれど
隠すのも わたし
誰もが 見過ごしてしまうように
黙って たたずんでいる
草も 木も 息をする
朝の そのときに 吐く息が もう しろい
鳥の さえずりも いつか 遠くなる
それでも まだ 夏を待っている
なにも 変わらないように 思っていても
いつか 知らないわたしを 見る
もう すっかり 見てつづけているのに
また 何度でも
おだやかに 風がやってくる
あなたに 届くように
ほどいてゆく わたし
夜を 降りてゆく
わたしは わたしのなか
髪をほどいて せなかにおとす
うなじに感じる それはわたし
もっと わたしに 下りてゆく
いつでも わたしのはずだった
いつか なにが すりぬけて しまったのか
残っている わたし
ずっと 雨で 空も とけてしまった みたい
ついでに わたしも あらい流して くださいな
傾きはじめると もう 戻れない
きもちが 乾いてしまって
すりきれて しまうよ
もう 雨かもしれない くすんだ空の色
草は ちゃんと立っている 花がしぼんだって
なにも 変わらないものはない いつだって
頬杖をついて 空を 見上げている
わたしを 知らないと いう
わたしを 閉じ込めたくない けれど
開きかけた 扉が とても 重い
書いて 消す ことばもある
それも わたしの ことばだった
それも わたしの こころだった
思い出して たどると 今に つながっている
その 幾たびもの時間
夢のなかでも 見つけたよ
いつか その音に 気づく
窓が ひとつ ひらいている
もう あたりは すっかり暗くなって
街灯に きらきらと ひかっている
草むらも みどりに ひかる
向かいの窓に ぽつんと 灯りが ともる
だんだん 濃くなってゆく 空
もう 手許も おぼつかないのに
娘が 弾いている ピアノの音が
じんわりと 伝わってくる
2005年08月10日(水) |
どうしても 知らない |
すぐに わたしを 見失う
目を閉じて 思い出そうとする
どうやって 見つけようか
知らないな
知らないなら いいや
もう 知らない
真っ暗な小道 露に濡れた 草が 足に触れる 風もない
そこかしこ ほたるが 瞬いている
虫の声が どこからも 聞こえている
そのとき 息をひそめていた だろうか
すこしづつ そらが 遠くなる
肌に きりりと ふれる 朝の大気
あかい木の実の 散り敷く 小道をあるく
草も 花も 露ためている
鈍色の雲のあいだ 空は わずかに あおい
いつか 雨になる 音もなく
そして 空が もどってくる
まつよいぐさ 揺れている
ひかりのように
知っていた あなたも
知らなかった あなたも
そのまま あなた だった
結んだ手は ずっと あなたを 伝えてくれる
といた髪に マグノリアの かおりがした
きょう一日の なごり
どこからか 声が 聞こえてくる
見るでもなく なにかが 目にはいっている
わたしは いない
ときどき 隠れてしまいたくなるよ
誰にも 知られないように
かたくなに ひとりでいよう
誰も 知らないのだから
雨が 音を吸いとって しまった みたい
黒くぬれた 地面にはねる しぶきを みている
もう わたしは ここにいない みたい
幾多もの 思い出の なかにいる
森のなかで 横たわる
見上げる 空は こんなに 狭いのね
枝は 広がって 葉は 繁って
どこに 空があるのだろう
落ちてくる ひかりに くるまっている
とおくに おおきな 空を 見ている
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