* |
Index|Past|New |
攻防。 | 2005年12月26日(月) |
雪のような銀色の髪をした少女は静かに眠っている。 すうすう穏やかな寝息を立てる彼女を目を細めて見遣り、アルガは窓を振り返った。その目に先ほどの優しさは欠片も見受けられない。 「いい加減出て来い。俺が張った結界だ、綻びを探すだけ無駄だよ」 その厳しい声を受けて、下から飛び上がってきた男が窓枠に腰掛ける。 見覚えのある逞しい体躯の青年の姿に更に目元が険しくなる。 殺気を放つアルガの様子に、彼はどう説得したものかと頬をかいた。 「じゃあ入れろよ」 「何をするか分からんヤツを入れられるか。とっとこ去ね」 「何もしねェよ」 「信用ならん」 「だからお前には何もしねえって」 すげない彼女の即答に、彼は僅かな苛立ちのこもった溜息を吐いた。 一方、彼女の方はますます警戒を強めてついに杖を手に取った。 「ほほう。では俺以外には何かをする気か。それはますます入れられぬな」 「……ひとまずその殺気収めろや。ガキ起きんじゃねェの?」 「この程度で目を醒ますような繊細な神経をしてるワケないだろうこの子が」 「……さりげにヒドイよなお前」 アルガはにっと不敵に笑って杖を振る。 「うおッ!?」 瞬間、腰掛けていた窓枠が壁からばきりと剥がれて落ちていく。 慌てて宙に浮いた男は、呆れたと言わんばかりの眼差しを彼女に向けた。 彼女はこめかみに青筋を立てて微笑んでいる。 「五つ数える内に失せろ阿呆が」 「わざわざそんな姿になってまで片翼探すお前には言われたくねえな」 「ほう、死にたいとみえる」 その言葉は酷く癇に障ったらしく、彼女の周囲に渦巻く魔力が鋭く尖る。 「んー……う?」 図太いと太鼓判を押された子供もさすがにそれには気付いたらしく、むずかるような声を出してうっすらと目を開ける。 アルガは一発かまいたちを窓の外に放つと急いで殺気を散らした。 切り裂こうと襲い掛かってくる風をこともなげに無に帰した男も、「じゃ、俺はこれで」とそそくさとその場を離れた。 「……アルガ?」 佇むひとの影に、少女は遠慮がちに声をかける。 「いいからまだ寝ておけ」 「……でも」 払ったとはいえ未だ殺気の余韻を残す空気とアルガの様子に、彼女は怯えと戸惑いを消せないようだった。 ぎゅうとシーツを握る幼い手をそっと撫ぜ、アルガは優しく微笑みかける。 「お前が心配することは何もないよ。何があろうと守ってやるから、今はゆっくりお休み」 重ねて髪を撫でられ、ようやく彼女は目を瞑った。 ほどなく聞こえる寝息にアルガもほっと息を吐き、誰もいなくなった窓の外を再度睨んだ。 ****** 学長VS誰か。色々と思わせぶりですみません。 |
終焉の詩。 | 2005年12月04日(日) |
禁断の樹は切り倒された。 果実は腐り、幹は番の動物たちに食い剥がされる。 残った芯とて大地に溶けて姿はもうない。 その知恵を受け取ったのは誰か? 艶やかに咲く花はただ風に吹かれて花弁を散らす。 落ちた先には死した蛇の乾いた鱗。 甘い水に混じるのは誰の血か? 沈黙の錫が振られ、永遠が孤独の冠をかむる。 絶望もなく希望もなく、狂気もなければ正気もない。 其処はいずれ辿り着く無音の楽土、未踏の煉獄。 |