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くろいキツネ。 | 2006年11月06日(月) |
水溜りを渡るように、ふたりで世界を巡っていく。 触れる端からがらがらと崩れてゆく硝子玉の軌跡を追うこともせず、微かに残る足跡に目を凝らす。 * むかしむかし、あるところに、いっぴきのくろいキツネがおりました。 おとうさんキツネは、くろいキツネがうまれるまえにしんでしまいました。 おかあさんキツネは、くろいキツネがうまれてすぐにりょうしにつかまってころされてしまいました。 だから、くろいキツネはひとりでいきなくてはなりませんでした。 たべもののとりかたもきちんとおそわらなかったくろいキツネは、いつもやせっぽちでみすぼらしく、ほかのキツネからもきらわれていました。 けれど、ただいっぴき、とてもきれいでやさしいしろいキツネだけが、くろいキツネにわらいかけてくれたのです。 しろいキツネのおかげで、くろいキツネはしだいにむれにとけこむことができました。 くろいキツネはしろいキツネがすきでした。 しろいキツネもくろいキツネがすきでした。 そうして、としごろになったくろいキツネはしろいキツネとつがいになり、しあわせなまいにちをおくっていました。 けれどあるひ、むれのくらすもりがかじになりました。 もりのおくふかくでくらしていたキツネのむれは、にげることができずに、ほのおにまかれてみなしんでしまいました。 たまたま、かりでもりのそとがわまででかけていたくろいキツネだけがぶじでした。 もりはやけてしまい、こげたじめんだけがどこまでもつづいていました。 * 「……それで先生、黒い狐はどうしたの?」 「さて、どうしただろうねえ」 「じゃあ、教えてくれるまで寝ない」 「……しようのない子だ。話してあげるから、終わったらすぐに寝るんだよ」 * せっかくできたなかまも、だいすきだったしろいキツネもうしなったくろいキツネは、もりのやけあとでじっとしていました。 おなかがすきましたが、かりをするきはおきません。 ねむくなることもなく、みっかみばん、くろいキツネはかつてじぶんのいえがあったばしょにうずくまっていました。 そしてよっかめのあさ、くろいキツネのほかにはだれもいないやけあとに、いっぴきのウサギがやってきました。 あたまのよさそうなウサギは、くろいキツネのところまであるいてくると、かわいらしいしぐさでくびをかしげました。 どうしてじっとしているの、とウサギがたずねました。 しにたいんだ、とくろいキツネがこたえました。 しねないのか、とウサギがたずねました。 そのとおりだ、とくろいキツネがこたえました。 きっとまだくろいキツネにはやることがあるのだとウサギはいいました。 それはなにかとくろいキツネはといかけまいた。 じぶんといっしょにきなさいとウサギはいいました。 それがなにかをおしえてくれるならとくろいキツネがうなずきました。 そうしてくろいキツネはもりのやけあとからさっていきました。 そうしてかれらは、いろんなところをわたりあるきましたが、ウサギはいっこうにくろいキツネのといかけにはこたえてくれませんでした。 じれたくろいキツネは、おしえてくれないのならもういっしょにはいかないといいました。 ウサギはふしぎそうにくびをかしげまいた。 それをみつけるのがきみのやることだろう、とウサギはいいました。 おしえてくれるといったじゃないか、とくろいキツネはおこりました。 おしえるとはいっていないよ、とウサギはかたをすくめました。 たしかにウサギは、ついてくるようにとはいいましたが、おしえるとはひとこともいっていないのでした。 だまされたきぶんのくろいキツネは、ふんとはなをならしてそのばにうずくまりました。 あきれたウサギはくろいキツネのめをのぞきこました。 じぶんでみつけたりゆうじゃないと、きみはなっとくしないだろうとウサギはいいました。 きみはあたえられるだけでまんぞくするようなキツネではない、とさらにいいつのられたくろいキツネは、こまったようなかおでしばらくかんがえこんでいましたが、やがてたちあがりました。 くろいキツネは、かんがえこんでいるうちにひとつのもくてきをみつけたのです。 そうしてにひきはまたつれだってあるきはじめました。 * 「……おしまい」 「どこが」 「悩んだ狐は自分の答えを見つけましたとさ。ほら、ちゃんと解決しているじゃないか」 「黒い狐の目的って何? それって達成できたの? ねえ」 「物事をはっきりさせないと気がすまないのは君の悪い癖だねエドガー」 「だって気になる」 「ひとついいことを教えてあげよう。ぶっちゃけこの話は私の創作でこの後のオチを考えていない」 「……」 「何だねその不服そうな顔は。だからほら、この話はここで一応おしまいだよ」 「一応、ってことは、また続き考えてくれるの?」 「考えているとも。だからほら、話が進むまで待っていてくれないか」 「……しょうがないなあ。早くね?」 「ああ、なるべく早く教えてあげられるように頑張るよ」 * 話を聞き終えた少女は、黙り込む青年をじっと見上げた。 鈴の音のような音が遠く響いている。 あれは世界の終わる音だ。 「……行こう。あの先に先生がいる」 くろいキツネね、と少女が囁くと、彼は泣きそうな顔で小さく笑った。 ****** ひらがなで書いたらえらい読みにくいことになってしまいましたアイタタタ。 葬儀屋の最後の話ダイジェスト、ただしクライマックス一歩手前。えらいネタバレの嵐です。 |