睦月の戯言御伽草子〜雪の一片〜 Copyright (C) 2002-2015 Milk Mutuki. All rights reserved
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時間がかかりすぎたようで、新郎側がざわめきだした。 「念入りに、お化粧なさってますから、もう少しお待ちくださいませ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。」いつものキンキン声が響いている。 「もう!!高飛車でいやです、あのお客さん!!」 「耳元で叫ばないでヨ。花。」 「だって、結婚ってだいじなことなんですよ。急がせてどうするんですか。心がゆれるんですよ。いざとなったら。」ブツブツ言いながら、花は忙しそうに去っていった。 「少し手伝ってくれませんか?」主人に呼ばれた。 「僕が何を?」主人はいつもの含み笑いのまま、歩き出した。 宿の裏の川まで降りていくと、主人は座り込み川を眺め始めた。ただ、眺めているだけだった。
「私は、野狐だったんです。」 話は始まった。少しずつ、、時間をかけて・・。 花嫁の家は野狐の家系で嫁ぎ先のように神につかえるような家系ではないのだそうだ。ところが、どう間違ったのかこの娘だけ神に仕える資格とも言うべき「力」が生まれつき備わっていたのだそうだ。 「先祖がえりって言うんでしょうか・・?そりゃ、もう大騒ぎだったそうです。野狐だってすこしでも神に近い位置にいたいんです。神になりたいというのではなく神の仕事をお手伝いするって言うのがうれしいのです。」 そこで、親戚一同力を合わせ彼女を神社の巫女にすべくがんばった結果が今回の結婚らしい。 「彼のことがいやなのではないのです。彼の親族の目が、、、、。」と泣き出した。 「聞いてしまったんです。”天気雨も降らせないような野狐を、よめにもらうなんて・・・・”そう、おっしゃっていたんです・・。」
そういえば、今日は天気いいよな・・・・・。
「嫁入りに雨を降らすのは新婦側の仕事なんです。でも、親族一同でしなければいけない・・私一人ではできないんです。もちろん、あたしの親戚に力のあるものもいません。」そういって泣き続けるばかりだった。
「では、こうしましょう。」主人が口を開いた。 「ぼくが、降らせましょう。」この人はなにをいいだすんだ?
あんなに、毎日ふり続けた雪が解け始めた。見覚えのある草花が顔を出し土の香りがする。そんな状態のなかでの、露天はとてもいい感じだ。 「明日からは、露天には入れませんよ。」 「え?なんで?」 「雪解け水が入ってにごってしまうんですよ。」 朝ご飯中に花に言われた。だからって訳ではないが今日はこれで、3回目の露天風呂だ。まだ、冷えているけれど、土の香りの混じった空気を思い切り吸い込みさくらを見上げて見る。 「極楽ってこんな感じかな?」そう独り言が出るほど気持ちがいい。
この春1番目の結婚式に出席できる事になった。ただし、旅籠の手伝いで・・・ 僕は酒宴の準備を手伝う事になった。 「あの、ちょっと・・・・」 「はい?」 広間の奥の部屋から、声がかかった。おかしいなここは、花嫁の控え室だから誰かいるはずなんだけど・・・・? 「どうしました?」 「すいません、外に行きたいので手伝ってください。」 すでに、普段着に着替えたきつねの花嫁がいた。 「花嫁衣裳が散らばっていなければ花嫁だなんて気づかないな・・・。」 「時間がないんです、すぐお願いします。」 「外って酒宴始まりますよ。気分悪くなったんですか?」 「いいんです。とにかく、急ぐんで、お願いします。」 「え・・じゃ、ちょっとまってください。ここのなかに、詳しいものつれてきますから。」 「あなた、ここの人ではないの?」 「はぁ・・・今日だけの手伝いなんで・・・。」 「そう・・・・いそいでね・・・。」ガッカリした様子で座りこんだ。とにかく急いで主人を呼びに行った。
「花嫁が外でたいって言ってるけど?」花嫁の様子を簡単に話すと 「そうですか・・・とりあえず話してみましょう。」主人は奥の部屋に入っていった。
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