睦月の戯言御伽草子〜雪の一片〜 Copyright (C) 2002-2015 Milk Mutuki. All rights reserved
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そうしていつもとは違うお茶の時間になった。 いつもならなんとなくのんびりしていてくつろげるのになんだか今日は緊張してしまった・・・・ 久々になんだか足もしびれてきたようだ。
「足を崩されても平気ですよ。」と笑いながら主人が口を開いた。 「う、うん」返事はしたものの崩してはいけないような気がして・・・と、黒服の女性のほうがゆっくりと足を崩した。おかげで僕も崩すことができた。 僕の緊張がこの部屋の空気を支配しているような気がしてきた。もしかしたら僕だけがすごく緊張しているのではないかな?とか思い出した。 「どうぞ」お茶が出された。 黒服の女性はとても慣れた様子でお茶を飲み始めた。
そうして僕にお茶が出された。なんだか勝手が違うので思わず茶碗を落としそうになった。笑いながら主人が 「いつものとおりでいいですよ。別に茶会をしてるわけではないのですから。」と声をかけてくれたのでようやく楽になった。
とても長い時間がすぎたような気がした。 「こんやはここで一緒にお食事されませんか?」と主人が言った。 「え、食事なんかしてるんだ?」いつも思ってる疑問がいきなり言葉に出てしまった。 いつもの笑いをこらえてるような顔になった主人が 「私だって食べないと体力もちませんからねぇ。」と言った。 「食事をしながらいろいろお話したいことがありますから。入浴されるなら今のうちにどうぞ。」そういって主人は部屋を出て行った。 二人で取り残されてなんだかきまづい雰囲気だ・・・。
「じゃぁ、、僕はちょっと、、、。」そう行って茶室を出た。雨だし露天にはいけないしなぁ・・などと思って出ると雨は上がっていた。 今のうちってこのことかな?そう思って露天にしびれた足を引きずって向かった。
ここは実際変な間取りだ。 古いしいろいろな建物をつないだのだろうか?と思わなくもないけれど。 旅籠というイメージそのままではあるのだけれどどこか違うような気もする。 何しろ僕は旅籠なんて言うものは実際にみるのも初めてなので(笑)
そんなこと考えているうちに茶室に着いた。
「おはようございます。おまちしていましたよ。」 「お、おはようございます?」って夕方だぞ・・・? 茶室には昨日の女性と主人が座っていた。
「お、おはようございます・・」時間にあわない挨拶をしながら女性の隣に座った。 軽く会釈をするだけで女性は無言だった。
「まず、お茶にしますか。」茶室は主人がお茶を点てる音だけになった。
2003年05月26日(月) |
今日も雨・・・・・・ |
起きたらまだ雨が降っていた。 雨の日は日課の露天にも入れない。
昨日部屋の戻ってから主人とは一度も会っていない。 宿のほうにも出ていないようだった。
それでも一日はすぎていくものですでに夕方だ。 不思議なことにあんなに雨が降っても雪は消えない。 「春の雨とは違うからじゃないでしょうかぁ?」と花は言っていた。 こういうことはやっぱり主人に訊かないとわかんないんだよな・・
「旦那が茶室に来てほしいそうですよ。」
番頭さんがそれだけ告げると帳場に急いで戻って行った。 「今日も番頭さんだけが忙しそうだな(笑)」
ゆっくり立ち上がりだらだらと茶室に向かった。
茶室でのんびりしているとなんだか景色がいつもと違うような気がした。
「なぁんかちがうんだよなぁ。」
「あ! 雨降ってるよ」
ここに来て春でもないのに雨が降るなんて・・なんでだ? 異常気象ってやつかな?
「すいません、今日は部屋に戻っていただいていいですか?」 いきなり主人が戻ってきた。 「あ、来客?珍しいね茶室までくる客って」 「いいえ、ここには来られませんが庭に回っていらっしゃるので」
庭にねぇ・・
なんだ・・・あれ・・・・ 全身黒づくめだ。黒いドレス、黒い帽子、黒い傘、黒い手袋 でも、顔は異様に白いし・・・・ 女の人なんだよな・・・?
「さあ。こんやは露天もやめておいてくださいね」 せかされて自分の部屋に戻る。 夕食をもってきた花に訊いてみたら案の定花はすっかり教えてくれた。 「あの方は大体毎年今頃いらっしゃるんですよぉ。お泊まりになっているのかどうかわからないんですけどねぇ。必ず茶室のほうに回られて表から来たことないんですよぉ。旦那が全部お相手するんですけどね。あのいでたちでしょう?きみわるいったら・・・ア、お客様にこんなこと言ったらだめですねぇ。また番頭さんに怒られちゃう。」 「そうだなぁ」 「あ、内緒ですよぉ。お客様の悪口言ってたなんて。」 「うん、それはいわないよ。」
夕食を食べながらとても茶室が気になった。 雨は夜通し降っていた。
ここはすでに僕の憩いの場に変わっている。 もちろん正座ももうずいぶん平気になった。主人が暇を見つけてはお茶をたててくれる。自分でできればいいのだけれど、と思わなくもないけど旅籠の仕事を手伝ったときのこともあるし今の状態がいいような気がして何もしないでいる。 「お茶にしては早いですね?」 主人がやってきた。 「うん、訊きたいことあってさ」 「なんでしょう?」 「宿の前の三叉路さぁ。どこにいけるの?」 「ああ、行ってみたんですか?」 「うん、行ってみたんだ。歩き出したと思ったら露天風呂の前だったよ。」 「あの先は、村があるんですよ。どの道を行ってもね。」
教えてくれないのかと思ったら案外あっさり教えてくれた。今まではなんとなくはぐらかされていたのだけれど今日は違った。 主人の話によるとこの先には3つの村があってそれぞれに役割の決まった村でそこに必要な人や動物だけが暮らしているんだそうだ。 僕がいけなかったのは行こうとした道が僕にあっていなかったかららしい・・・。 「いまのあなたには露天風呂が一番あってるってことですよ(笑)」
なんて最後には言われて少し気分が悪くなったが考えなくても僕は今ここが一番気に入っている。
だけど、自分の行きたい道をいけないってなんだかいやな感じだ・・
・・・・・・・・・ここって・・・・・・
僕は三叉路を歩いていたはず。 目の前はいつもの露天風呂・・・・・・
「どうしたんですかぁ?一番風呂はいれますよぉ」
花の声だ。
「あのさぁ・・・」 「はい?」 「やっぱいいや・・」 「おなかでもすいたんじゃないですかぁ(笑)。空腹でお風呂はだめですよぉ。用意しますかぁ?」 「まだいいよ」 花はいつものように笑いながら仕事に戻っていった。
おかしいなぁ・・・絶対僕は・・そうだこう言うことは宿の主人に訊くに限る。この時間は茶室かな?
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