ジョージ北峰の日記
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結局、ラムダ国はモンスターザメの来襲を完全に制圧できなくなって、地上戦が始まっていた。本来なら敵国に攻め込まれ地上戦が始まる頃は、国が敗色濃厚な状況にあることを意味していた。しかし私が指導した”ツバメ返し”が有効な戦法として働き、地上戦はラムダ国有利に展開し始めていた。それでも上陸する敵を可能な限り減らすことは海中戦士の重要な役割だった。 今やラムダ国は海中戦で多くの戦士を失いつつあった。しかも後で分かったことだが、彼女たち海中戦士たちは生きて上陸することを禁止されていたのだ。だから実際には、モンスターザメとの戦いで、サメから振り落とされた戦士が、まだ充分戦える能力があるのに、上陸を潔しとせず戦死するケースが増加していた。私はこれを知った時、日本が太平洋戦争の初期にベテランのゼロ戦ファイター達が敵軍に攻撃を受け沈没した空母に帰還できず、体当たりを敢行、無駄に散っていったことを、ふと思い出した。それが後々の航空戦に日本が敗れていった大きな原因になったことは疑う余地もなかった。ラムダ国も似た状況で切羽詰っていた。 私は、直ちにパトラに海中戦士は万難を排しても救うべきだ、と進言した。いろいろ議論もあったが結局私の意見が採用されることになった。 陸上戦は夜間に行われることが多いこともあって、非戦闘員は昼間に地下要塞から抜け出し、海中戦から生きて上陸した戦士を探す目的で熱帯ジャングルに入ることにした。 ジャングルの自然には、見たこともない椰子や蘇鉄のような刺々しい植物が密に茂っていたが、一方巨木の下では木の香りが高く、雑草も少なく、戦争でもなければ散策するのにうってつけの山肌が露出し、日陰にキノコや大型の葉も美しい潅木が真っ赤な花に彩られる様は、さながら南国のおとぎ話の国を見ているようで懐かしかった。 大洋の浮島にあるラムダ国の生態系はかなり風変わりで、ハワイと同様、人を襲う動物や昆虫は一切存在しなかった。 比較的湿度も低く、この国は、戦争さえなければ日々の生活は極めて快適なはずだった。 平和で美しく幸せと思っていたラムダ国にも問題があるのだと残念に思わざるをえなかった。 それは兎も角、戦争の最中だったので、非戦闘員の私も剣を身につけるようにしていた。
ある日、私が休息するつもりで山肌から突き出た崖の上に腰をかけようとした時、突然下の方角、直ぐ近くから人の戦う声が聞こえてきた。 よく見ると、ラムダ国戦士が敵の大男と戦っているのだ。ラムダ国戦士は女だった。海中戦の戦士がこんな場所で戦っている姿を見ることは通常では考えられなかった(後に知ったのだが、彼女はサメから落ちてやはり上陸してきたのだった)。 敵国の戦士は陸上戦の戦士で、海中でなら兎も角、陸上戦となっては、その勝敗は決まったも同然だった。勿論女性戦士に不利だった。おそらく敵戦士がその気になれば一撃で彼女は殺されていただろう。しかし戦いは縺(もつ)れていた。相手は、彼女の剣を取り上げようとしていたのだ。私が戦闘員ならすぐ助けに行くべきだったのだが、非戦闘員なので少し躊躇(ためら)いがあった。 長い戦いだった。 残念ながら体力に劣る女性戦士に徐々に疲れが見え始めた。と、男は彼女の剣を振り払って、手首を掴み、剣を振り落とすと彼女を投げ飛ばした。 失神したのか、彼女の動きが止まると、男は上から襲い掛かった。 気付いた彼女が必死に抵抗し始めたが、瞬く間に戦闘服は剥ぎ取られ、彼女の裸身がむき出しになった。均整のとれた、生々しい裸身だった。大男は興奮したのか、彼女の腕を固めたまま、自らも器用に下半身をむき出した・・・・後の光景は、とても残酷で・・・・私は見続けることが出来なかった。 ただ、それから彼女は抵抗をやめ、彼の行為を受け入れたようでした。 それからさらに時間が経過したように思う。 ようやく日も西に傾き暮れようとした頃、男は戦闘服、ヘルメット、鎧で身を固めると、ぐったりしている彼女を放置したまま帰ろうとしていました。 西の空、海が異様に赤々と輝いているように見えました。 それはこれから夜に始まる残忍な陸上戦を暗示する毒々しい風景のようにも見えました。 この光景に挑発されたのか、非戦闘員だった私にも、何故か、突然怒りが爆発しました。私の理性はどこかに吹き飛びました。 今戦えば命を落とすことになるかもしれません。 それまで自分の抱いてきた夢、人生も放棄することになるかもしれません。 しかしそんなことは、私の行動を止める理由にはなりませんでした。 私は夢中で剣を引き抜くと、大声で「許せん!待て!」と叫んでいました。私は男を追いかけ、前に立ちふさがっていました。男は一瞬驚いたようでしたが、自分より小さな相手を甘く見たのでしょうか、不敵な笑いを浮かべ、それこそ一撃で倒さんと、恐ろしい形相に変わると、力いっぱい切りかかってきました。 しかし、それこそ、私が待っていた瞬間でした。私は男の剣を激しく受け止めると、返し剣で目にも止まらぬ速さで彼の腕を切り落としていました。男は恐怖の表情を浮かべて、そのまま逃げていきました。 急いでラムダ国の女性戦士のところへ戻ってみると、事情を何も知らない、少女のような戦士が自らの命を絶とうとしているではありませんか。私は彼女から剣を取り上げ「死なずとも良いのです」と彼女を優しく抱きかかえると、彼女は顔をそむけ涙を見せるだけで何も答えませんでした(後に、彼女は言葉が話せない戦士だと分かりましたが・・)。
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ところで、この本を書き始めた動機は、世にも不思議な私の経験をお話することでした。しかし、読者の皆様には研究のことよりも、まだまだ話さなければならないことがたくさんあります。 例えば私がこれまで話してきたことで、この国の文明が(われわれの文明とは少し違った方向ではありますが)、かなり進んでいることを御理解していただいたと思いますが、この国の戦士たちがどうして水中で自由自在に戦うことが出来るのか、又どうして戦闘に槍や剣しか使わないのか、最初から疑問に思われた方が多いと思いますので、そのことについて話を進めていこうと思います。 この国へ来てから、私は非戦闘員として研究を遂行する立場にあったのですが、この件については、この国の研究者に私の技術を指導してから、既に彼らが私に代わって研究を続けられるだけの能力を獲得していたので、私が自分本来の仕事に熱を入れる必要がなくなっていました。 それにオメガ国の戦士たちがモンスターザメを使って上陸してくるようになって、陸上戦が頻繁に起こり始めていたのです。 ある日、戦士たちの訓練所に立ち寄った時のことですが、それがきっかけで彼らに剣術の指南をする羽目に陥ったのです。 私は子供の頃から剣道を習っていましたが、ある時佐々木小次郎の使っていたと伝えられる”ツバメ返し”に大変興味があって、その研究に没頭したことがありました。 ”ツバメ返し”の極意は相手の攻めを誘って、攻撃を受ける、相手が”決まった”と一瞬気を抜いた瞬間、目にも止まらぬ早業で、返し剣が相手を攻撃する所にありました。それには、勿論、剣を自在に繰る豪腕が必要でした。 私がたまたま訓練に参加した時、私の剣捌きを彼らは知らなかったので面白いように決まりました。パトラもアレクもベンでさえ驚きを隠しませんでした。是非その技を教えて欲しいというのです。”ツバメ返し”は返し技なので太刀は短くても良いが、勿論長ければさらに有利になります。 彼らの剣の使い方は”防御と突き”が基本で”切り倒す”日本の剣道を教えるのに少し時間を要しましたが、それでも彼らの運動神経は並外れていましたので、瞬く間にマスターしてしまいました。 私自身は真剣で戦ったことがなかったので、技を教えるが人を殺す目的の戦争に参加する気はないと話すと、それはそれで良いということでした。 しかしパトラは不思議そうに、「あなたは戦争が間違っていると考えているようですが・・・・確かにあなた方の文明社会では戦争に爆弾、ミサイル、さらに原子力兵器などを使うので、人と人が公平に戦っているとは言えませんが、私達の社会では、決してそのような手段で戦争をすることはありません。人と人が自分の能力で戦いそして優劣を決めるのです。それに戦いたくない人は戦う必要はないのです。しかしこの国では、戦士でありながら戦わなければ、戦士の資格を剥奪されます。そして奴隷になることはありませんが、彼らの遺伝子はこの社会から抹殺されるという罰則があります。そのような遺伝子がはびこると、いずれこの国の人の能力が落ちると考えられるからです」、続けて、「自分の遺伝子を残したければ、この国では、自分の能力を人々に何らかの形で示す必要があるのです」「・・・・」私が黙っていると、ベンが「あなたは研究者としてだけではなく、戦士としても高い能力を示したと思います」と話を継ぎました。 この国では、戦争は"悪”ではなかった。それは良い遺伝子をセレクションするための手段だったのだ。だから彼らは、高度な武器を作る能力があっても実際には、武器としては槍や剣しか使わなかったのだ。なるほど彼らの論理にも一理はある。しかし何か違和感があった。それは人類が一度犯した誤り、つまり誤った遺伝の優生学を復活させようとしているのではないか?という疑問が残ったからだ。しかし人間の優劣を生物学的手段のみを使って決めようとする戦争の考え方、それはそれで正しいのかもしれない・・・しかし、結局、彼らの論理の真偽を、直ちに決定することだけは避けた方がいいと思うだけで精一杯だった。
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