ジョージ北峰の日記
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2010年03月29日(月) オーロラの伝説ー人類滅亡のレクイエム

、博士は今後人間社会をどうするつもりなのですか?」
「徐々に現人類を新人類に入れ替える必要があると考えている」
「新人類とはラムダ国とかオメガ国の住人達のことですか?」
「左様」
「で、私はどうすれば良いのでしょう?」
「貴方はパトラのことが好きなようだが?」博士の突然の質問に、私は熱くなりながら「いや好きと言えば女王に対して失礼でしょう」---「しかし色々な意味で人間を超えた能力を備えた方だと尊敬してはいますが---」---
「でも---正直に言えば私はパトラが好きです」と、少し口籠りながら告白しますと、博士は優しい笑みを浮かべながら「だったら素直にパトラが好きだと言えばいいのだよ」
「しかしパトラはラムダ国の女王様でしょう?」
「左様。しかしパトラに変わる次世代の女王を我々は既に用意しているのだ」
「えっ!次世代の女王?」
「それでは今必死になって戦っているパトラが可哀想ではないですか」と、しかし博士は淡々と「パトラの女王としての役割は、今回の戦争で終わるのだよ」と言い切ったのです。
私は何を言われても、驚かないつもりでしたが、人間をまるで実験動物のように扱う博士の態度に抵抗を感じるのでした。
私は「人類にも問題があるかも知れませんが、博士のなさっていることにも、さらに問題があるように思いますが」すると博士は少し困惑した表情を浮かべながらが「ドクター、今まで言わなかったが、パトラには私の遺伝子が入っているのだ---つまり私の娘なのだよ」
「!」
「正直に話そう、パトラがこれまで女王
として随分がんばって働いてくれたことはよく分かっている。だからこそ、この戦争が終わればパトラをラムダ国から解放してやりたいのだ。そして次は人間社会の変革のために力を尽くしてもらいたい」博士の目には、冷静さの中にも父親の眼差しが戻っていました。そして続けて「パトラは人間社会に復帰するるに当たって、彼女を助けてくれるパートナーを探していたのだよ。そしてあの国際学会でパトラはドクターに出会ったと言う訳だ」と静かに私の気持ちを確認するように話すのでした。
“パトラは婚約者探しにあの国際学会へ来ていたのか。しかし如何して私のような平凡な人間に白羽の矢を立てたのだろう?学者として傑出している訳でもなくスポーツマンとしても素人に毛が生えた程度、それに風采も女王にふさわしいほど魅力的でもない”---と、私が考えていますと博士は私の心を見透かす様に「ドクターは自分で、自分のことが良く分かっていないようだね。私から見ればドクターは5次元を認識する能力、人間の醜い欲望を抑制できる強い意志と理性、それに誰からも愛されリーダーシップを執(と)る能力---パトラを助けて地球で新しい国づくりするにふさわしい行動力を持つ人間なのだよ」
暫く間をおいて「パトラは全てを知った上でドクターを自分のパートナーと決めたのだ」私は博士の話が信じられませんでした。あの美しい、勇敢で、聡明なパトラが私をパートナーに選ぶとは!あまりの突然の話で、「本当だろうか!」 私は思わず呟いて(つぶやいて)いるのでした。
博士はそれには答えず「君に、新しい国を作ってあげよう」
私は「え!どのような手段で?」と尋ねますと、博士は「天空に栄えたマチュピッツ遺跡のことを知っているだろう?」「ええ」と私。
博士は「あのように人間社会から隔絶したところに国をつくるのだよ、それは我々には難しいことではないのだ」と断定的に話すのでした。そして暫く沈黙が訪れました。

老博士の話から分かったことは、つまり此れまで謎とされてきた地球上の遺跡は、 “異次元の世界”の存在を考えることで理解可能になると言うこと---でした。

とすると---日本の古事記---つまり日本国創生の下りは---神話ではなかったのか?あの「天照大神」の話が本当だったとしたら。
そしてパトラが「天照大神」とすれば「私は?――いったい誰なのだ?」ドーム越しに夜空を眺めていますと、慌ただしく銀色に輝く甲冑に身を包んだパトラとベンが部屋に入ってきました。
パトラの鎧の合間から見える、筋肉質な腕、すらりとサラブレットのように伸びた脚が、息を呑むほど凛々しく(りりしく)輝いて見えました。博士の話を聞いた後だったこともあって、今から生死を賭けて出陣しょうとしているパトラに言葉では言い尽くないほどの愛しさ(いとしさ)を感じるのでした。
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 少し話が横道にそれていましたが、話を元に戻しましょう。いよいよオメガ国とラムダ国の決戦が始まろうとしていました。パトラは私に「戦争に参加することは許しません」と再度命令しました。しかし私が納得する訳がありません。「私もラムダ国の為に戦いたい」と強く主張しましたが、ベンは「気持ちは、ありがたい。が、あなたには戦後に果たす役割が残っている」と、老博士の方へ振り返りながら落ち着いた口調で同意を求めました。老博士も、同じ口調で「その通り、ドクターはこの場に残って戦争の状況をしっかり見守ってほしい」
「今回の戦争は、ドクターが想像できる範囲を超えている」と彼。「しかし今回の戦争でラムダ国が負けてしまえば、私はどうなるのでしょう?---私は皆と同じ運命を共有したいのです」と私。
「戦争でラムダ国が負けるようなことがあっても、ドクターの役割がなくなるわけではない」と老博士。
「ドクター!私の命令を聞けないのですか?」パトラが少し苛立った口調で私を見つめる。私が一瞬口をつぐみますと、彼女は少し笑みを浮かべ「心配しないで。私は負けません」と、一転して優しいが力強い口調で言うのでした。
私は、これまでのパトラの超人的な働きを思い出していました。陸上での剣捌き、水中での活躍、この美しい女王に何処にそんな力があるのかと、何度も驚いたことがありました。確かにパトラは戦に負けたことがありませんでした。
私は彼女の命令に服従するしかありませんでした。
ベンとパトラは、私に決して戦争に参加してはいけないと言い残し、老博士に一礼して部屋を出て行きました。部屋を去る直前、彼女は振り向きました。一瞬彼女の目が「きらっ」と光った気がしました。その光が私の心奥深くに突き刺さるのでした。
 博士が私に「戦場の様子を見よう」と語るや否や、部屋のスクリーンに戦場の様子が映し出されていました。
 本部(H山)が中央に位置し、海岸線から本部に至るまでに300メートル級の丘陵(X,Y,Z)が砦のように取り囲む様子が見えました。
それぞれの丘陵には、京都の大文字焼きのような灯りが幾重にも渦巻状に並ぶ様が見えました。新月ということもあって、風に揺れる黒い木々の合間に燃えさかるような火が地獄の火の様に見えましたが、大都会の夜景の様でもありました。怖くもあり、美しくもある灯(あか)りに見えるのでした。
 暫くして、ほら貝が海岸の方角から聞こえてきました。「すると!」海岸線の火の灯りが激しく揺れ動き始めるのが確認されました。私の緊張を察知したのか、老博士は「いよいよ開戦だ」と落ち着いた声で囁きました。
見方の軍は赤く光る火、敵方は青い火です。
海のほうから青い光が続々と上陸して来る。赤い光が彼らを取り囲もうとしているが、あちこちで赤い光の前線が崩れ、青い光の流れが瞬く間に怒涛の様に流れ込んでくる。海岸線では敵兵士の数が上回っているようでした。
それにしても何処から敵は上陸してくるのだろう?--- と、老博士が遠くの海面を見るように指示しました。
「あっ!」円盤状の飛行物体が海面すれすれに飛んで来るのです。「アレだよ、アレが地球人たちの言っているUFOだ。ドクターにも見えるかい?」
私は興奮しながら「ハイ!」と夢中で叫んでいました。「よろしい君も、もう立派なラムダ国人だ。UFOから敵兵が上陸してきているのだ」
しかし今私の気持ちは、それどころでは、ありませんでした。
「見方は大丈夫でしょうか?」青い光の一団がすでにX山の麓に達しようとしていたのです。「ここからは敵も苦労すると思う。山の頂上へ向かう道は細くて、切り立っている一人ずつしか登れない」。
しかし博士の言葉と裏腹に、どうしたことか、青い光が瞬く間に頂上へ攻め上っていくではありませんか。私は矢も楯もいられない気持ちになりました。
と、Y山の山頂から飛行機のような大型の鳥がまるでカラスの群れの様に集団を成し、飛び出し青い光の敵軍に突進していくのが見えたのです。するとX山の中腹まで来ていた敵の進攻が瞬く間に鈍り始めました。大カラスたちが敵兵に襲い掛かっているようでした。老博士は私のほうを振り向くと「君の残してくれた大型動物作成に関する研究成果だよ」
「え!」私は言葉に詰まりました。
「カラスは鷲や、鷹と違って集団で敵を襲う、そして想像以上に獰猛で、賢い鳥なのだ」 
「彼らは飢えてくると、どんな敵に対しても恐れずに戦いを挑む。負ける怖さを知らない。私たちは其処に目をつけたのだ」
「しかし敵味方の区別は出来るのでしょうか?」
「彼らは犬、いや馬にも劣らない知性を持っている。味方を襲うことは決してないよう訓練されている。問題は体が大きい分、餌の消費が多すぎる、しかし戦士の一人と考えれば問題はない」
「カラスがドクターの代わりに活躍してくれているのだよ」
「だから私は参戦しなくても良いのですか?」
老博士は、私の質問があまりに単純すぎて可笑しかったのか、声をたてて笑うのでした。
 戦局は混沌とし始めていました。戦場では赤い光が勢いを盛り返そうとしていました。私はパトラのことが心配で、胸が張り裂けそうでした。

 X山、Y山に位置する赤の集団が徐々に青の集団を目がけて移動していく。戦況が刻々と移り変わっていく。画面で見ていますと事態は事務的に進んでいるように見えますが、戦場ではかなり激しい戦いが繰り広げられていました。
 生か死かの何れしかない戦場を見ていると、平常なら恐怖心か嫌悪感をもよおすでしょう。しかし当時私は若かったのでしょうか、戦にも参加せず、安全なところでじっと眺めている自分がとても悔しく情けなく思えるのでした。現場を知らない無謀さもあったのかも知れません。パトラの為なら、生死を問わない気持ちの方がずっと強かったのです。
「私にも参戦させてください」と再度言いますと「戦場をもう少しズームアップしてみよう」と老博士は言うのです。すると画面に甲冑で身を固めた、戦士達が槍、刀や盾で戦う姿が画面上に飛び込んできました。戦いに敗れもがき苦しんでいる戦士には目もくれないで、戦闘能力のある戦士達が次の敵に突進していく。
 一人の戦士が数人の戦士に取り囲まれて戦っている。一人の戦士が倒れると“アッ”という間に数人の敵の餌食になる。しかし彼等は倒れても、倒されてもすぐ立ち上がり渾身の戦いを続けていました。
こんな凄まじい場景は、確かに私の想像の域をはるかに超えていました。勿論映画で見る場面とは訳が違っていました。
「こんな状況でも、ドクターは戦場に行くかね」私の気持ちを確かめるように老博士が尋ねました。咄嗟に「勿論です!パトラの為に!」と、勇んで答えていました。その時私はパトラを助けたい気持ちが恐怖心よりもはるかに勝っていたのです。
「ラムダ国のためじゃないのかね?」彼は少し笑みを浮かべながら言いました。
「いえ、パトラのために戦うことが国の為になると信じています?」すると、老博士は「その通り」と言う素振りを示しながら小さく頷くのでした。
ところで、この国の戦争について、もう少し話さなければなりません。
 すなわち、戦っているのは人間ばかりではありませんでした。動物達も戦士たちと一緒に戦っていたのです。ラムダ国からは大型のカラスが参戦したことを話しましたが、ズームアップした画面をよく見ると小さなネズミの様な動物が戦場を駆け回っていたのです。老博士によると、彼らはオメガ国が上陸に際して連れてきた大型のラットだったのです。最初味方の守りが総崩れになったのは、彼らのせいでした。戦闘の最中、足元で例えラットとは言え走り回られると気が散って存分に戦えません・ さらに彼らが攻撃を仕掛けてくるとなると、一応防戦しなければなりません。それが戦士の集中力を分散させるのです。そのことで最初敵の攻撃を優勢にし、味方の前線が総崩れになった要因だったのです。しかしそれに対抗して放たれたラムダ国のカラスがネズミ軍団に攻撃をしかけ、彼らが逃げ始めると、ラムダ国の戦士たちも敵戦士との戦いに集中出来るようになったのです。
 動物と人間が渾然一体となったまるで御伽噺(おとぎばなし)の様な戦(いくさ)でした。
それに最初赤や青の火と考えていた灯りは、実は戦士が着用している甲冑から発せられる蛍光のような光でした。それが戦士の動きで火のように見えたのです。それが暗夜でも敵、味方の区別を可能にしていたのです。
私が「相手の鎧を身に着けて敵を欺くことだって可能ではないですか?」と尋ねますと、老博士は「いや、ラムダ国とオメガ国の戦争では、そのようなことはない。彼らは正々堂々と戦うことに誇りにしている戦士達だから。そのような行為をした場合、その戦士は双方から相手にされなくなるだろう」と、彼は断言するのでした。
「この国の科学技術の水準から考えて、さらに効率の良い兵器だって開発可能なのではないのですか?」
老博士は少し間を置いて「ドクターの言っているのは、鉄砲や大砲の様な近代兵器を使っての戦争のことかね?」と語気を強めました。
「そうです」すると彼は首を左右に振りながら「現代の地球人の戦争には哲学がない。大量破壊兵器を使って無差別に人間のみならず多くの生物を虐殺する。このことが地球にとってどんな結果をもたらすか考えたことがあるかね?」と私の顔を見据えるように言いました。
「---」老博士の強い言葉の勢いに押されて、私は答えることが出来ませんでした。
「先にも言ったとおり、人間の遺伝子システムは人間のためにのみ設計されたされたものではないのだ。すべて生態系のシステムの一環として設計されたものなのだ」続けて
「20世紀の戦争による、想像を絶する生態系の無差別破壊は、人間の企業開発が及ぼす気候や生態系への影響だけではないのだよ。もうすでにどれだけ多くの重要な遺伝子が、地球上から消失したか。その意味では最初に火薬やダイナマイト発見したことが間違っていたと言えるだろう。ノーベルはそのことを分かっていたようだが---」一瞬口をつぐむと続けて「その損失は計り知れないものがある」と悔しそうに話すのでした。「ただし戦が悪だと言っているのではないのだよ。どのような形であれ人と人との争い、あるいは生物間の争いは進化論的に正当化されている」と博士。
「消えた遺伝子は、人の未来に何らかの影響を及ぼすのでしょうか?」
博士は少し沈黙していましたが、静かな口調で「勿論だとも、人間も含めて、生物界の遺伝子は相互に交換したり、増えたり、減ったり長い目で見れば、絶えず交流していると言っても過言はないのだ」と言う。「とすると、重要な遺伝子が消失していくと、人間はどうなるのでしょう?将来的には絶滅の方向へ進んでいくと言うことですか?」
「いや生命のシステム全体が崩壊するのだ!だからこそ、今新たに人間を設計し直さなければならないのだ」
「そのような危機感があって、オメガ国やラムダ国の生態系システムの研究・開発に拍車がかかっているのですね!」
「---」
「今はその実験中と言う訳ですね!」
「---」
「それでその実験は成功しつつあるのでしょうか?」
 老博士は、一瞬口をつぐんだ後「良い方向に進みつつあるとだけ言っておこう」少し躊躇う(ためらう)ように言うのでした。さらに「これからラムダ国人やオメガ国人を地球に送り出すに当たって橋渡し出来る人間が必要なのだよ」と私を見つめるのでした。


2010年03月15日(月) オーロラの伝説ー人類滅亡のレクイエム

あまりの揺れの大きさに私は一瞬失神しそうになったほどでした。
 「どうする!」と、ベンのほうに振り向きますが、彼は攻撃の指示を出しません。
 怒りに猛ったイカはエイの翼に食いついている。イカの力が加わるたびにエイ戦闘機は木の葉のように翻弄され内部は地震のように激しく揺れる。 
「エイの翼がイカに食いちぎられないか?」、私は“死ぬこと”さえ意識したのでした。
「外に出て戦うべきではないか!」と進言しますと、ベンは「落ち着いて!この戦いはこちらの勝利だ」と断言しました。私にはベンの自信の根拠が分かりませんでした。しかしベンは「大丈夫!」と言い切ったのです。


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一時は「もうだめか!」と思うほど私達の機は揺れましたが、ベンも戦士達も不思議なほど冷静でした。
 すると突然機の揺れが止まりモンスターイカの吸盤が窓から離れ、そして・・司令室の窓から見ていると、 一瞬でしたが、シャチを繰る機敏で勇敢な戦士の姿が目に飛び込んできました。

 シャチの胴には、金具や鎖が付いた幅広いバンドが装着されていました。戦士は身体を鎖でバンドに繋ぎとめ、手足を使ってシャチを操縦しているようでした。
 それにしても、速くて機敏なシャチの動きに戦士が対応出来なければ、たちどころに投げ出されてしまうでしょう。
モニターで彼らの戦いを見ていたより、実際目の前で見ると、迫力は違っていました。
 海戦戦士は複雑なシャチの動きに体の動きを合わせることが可能なだけでなく、鎖を使って自在にシャチを繰ることが出来たのです。
 話を元に戻します。
私達の頭上を通り過ぎて行った戦士はパトラでした。何時ものことながら、味方が危機に瀕すると、必ず彼女が現れるのです。
彼女はヘルメット、袖なし、短パンのウエットスーツ、腰には短剣、片手に槍、そして足ヒレを着用していました。海中では彼女は想像以上に大きく見えました。
しなやかな身のこなしでシャチを繰り、逃げるモンスターイカを追っかける。サーチライトの光を受けた彼女の槍や剣が時折光る。彼女の素早い動きに腕や脚が白く生々しく弾け、シャチと絡みながら戦う姿は官能的にさえ見えるのでした。
 彼女の姿を見ていると再び気力が漲って(みなぎって)くるのでした。
モンスターイカの襲撃で一度は「駄目か」と思ったほどでした。だから彼女の出現は、私にはパトラがまるで女神の化身ようにさえ見えるのでした。ベンや他の戦士達が落ち着いていたのも、パトラを信じていたからかもしれません。
 ところで、パトラが使っていたヘルメットについて少し説明しておきましょう。ギリシャ戦士が使っていた冑に形は似ていました。しかしそれは単に防御の為に使うだけではなく海水中の酸素を取り出す、魚の鰓(えら)のような機能(はたらき)を果たしていたのです。
 私は、このヘルメットは地球温暖化に伴い陸地が水没するような時には「人類が生き残るための強力な武器になるのでは?」と考えたほどでした。

  つい先程まで、辺りを席捲していたモンスターイカは、シャチ部隊の反撃にあって霧散して行きました。
 私達の潜水艇が態勢を立て直そうとしていますと、パトラがシャチを繰りながら司令艦艇に近づいて来ました。
すると機内の戦士達は一斉に立ち上がり、大歓声を上げるのでした。私も自然にこぼれ落ちる感動の涙を抑えることは出来ませんでした。
 

大混乱を来たしたエイ部隊でしたが、態勢を立て直して進行、その夜の内に無事Dランドに上陸することが出来ました。
ドーターランドは、2000m級の高山があり、山から海辺までの間に、大波、小波がうねるような丘陵が続き、合間の平地には農地や牧草地が広がっていました。
山から湧き出る冷たい水が網目の様に張りめぐられた灌漑用の川に流れ込み島全体を潤していました。牧草地には多数の動物たちが放牧されていました。極めて奇妙な形をした動物達で、例えて言えばイグアナ、亀、ワニのような姿に見えました。私は「御伽噺に出てくるような国だ」と可笑しくなるのでした。
 山の裾野には熱帯特有の大型の木々が太陽の光も通さないほど茂り、昼間も肌がひんやりと感じられる微風が絶えず吹き山肌には丈の低いシダの様な隠花植物がわずかな陽の光を求めてあちこちに分散、集落を形成していました。花の甘い香りがほんのり漂い、本当に平和そのものの島のように思えるのでした。地質はマザーランドに似ていました。
 私達が島に上陸した時刻は、薄暗い明け方でしたが、東の水平線はすでに朱に染まり雲や波が金色に輝き始めていました。

 地下都市に築かれた建造物のホールはドーム状で、観覧席には夥しい数のラムダ国の子供達が集まり、大歓声で戦士達を迎えていました。まるで戦勝した兵士たちが凱旋する映画のシーンを見ているような雰囲気で、私の気持ちはいやが上にも高揚するのでした。
パトラが壇上に立つと、一段と高い声援と拍手が沸き起こりました。パトラは子供達にとっても英雄だったのです。パトラが手を上げると、瞬時に騒ぎは静まりました。
 パトラはラムダ国の言葉で演説していました。私には話しの詳細は不明でしたが戦士や子供たちの反応からは、ラムダ国の戦況が、必ずしも芳しくないらしいこと、だからラムダ国戦士がこの島に上陸したことと、そしてそれでもラムダ国はこの戦争に必ず勝利すると宣言したようでした。戦士も子供たちもパトラの言葉に地響きのような歓声を上げるのでした。
それからベンが、兵の配置、作戦などについて簡単に説明し、子供たちに何か指示を出したようでした。
それが終わると、子供達はホールからガヤガヤ何かを話しながら、それでも秩序を乱すことなく整然と引き上げていきました。

 この国では、陸上戦は夜と決まっていました。だから戦士は夕暮れ時まで休息する。私には、仮眠部屋を与えられていました。小さな部屋でしたがホテルの様に必要な家具類は一通り揃っていました。
 私はベッドに横になりましたが 昨日からの激しい戦闘シーンが思い出され、気持ちが高揚していました。
更に今夜の陸上戦のことを考えると睡眠が絶対に必要なのでした。第2次世界大戦中、ラバウルで戦っていた戦闘機搭乗員達も度重なる敵の攻撃に出撃が余儀なくされ睡眠不足が高じてくると撃墜されることが多かったのです。パイロットの良し悪しは、どんな環境下でもすぐ睡眠できる図太い精神の持ち主か如何かできまると聞いたことがありました。
しかし、私は気が焦ればあせるほど眠れなくなるのでした。
 私は無心になろうと、剣の素振もしました。しかし眠ることが出来ませんでした。
 少し意識が遠くなり、うとうとしたようでした—と、その時誰かが近づいて来る人の気配がしたのです。ハット目を開けますと、其処に戦闘服姿のパトラが立っていたのです。
「眠れないようね」と彼女は囁きながら、スルスルと戦闘服を脱ぐとベッドに入って来ました。

 私は一瞬息を呑みました。以前に見た姿とは随分変わっていたのです。顔、腕、太腿などは陽に焼けて黒褐色でしたが、衣服に隠れた部分は、対照的に一層眩しく白く輝いていました。
オリンピックの水泳選手のような筋肉が一層逞しく盛り上がり、一度(ひとたび)動くと、連動する筋肉の盛り上がりは疾走するサラブレッドのように見えるのでした。
彼女から無尽蔵なパワーが溢れ出ていました。
胸の膨らみも豊かで、女性らしくなだらかな円錐形を描いていましたが、しっかりと胸に収まっていました。
まるで女性ボデービルダーのように見えるのでした。
そんな姿に私は圧倒されたのです。
ヴィーナスとは違った力強い肢体、これまで見たパトラとはまったく違った姿に、私は新鮮な魅力を感じました。しかし悪魔のような怖い魅力でもありした。
彼女の来室はとても嬉しかったのですが、咄嗟のことで(その喜びは)言葉にはなりませんでした。
彼女は私に服を脱がせますと、牝豹のように、やさしく私を愛し始めたのです。
 嬉しさと驚きが重なり合って、最初は緊張していましたが、不思議なことに、彼女に愛撫されているうちに張りつめていた気持ちがほぐれ、やがて全身に力が甦って(よみがえって)くるのを感じるのでした。
その日、私はベッドに拘束されていませんでした。私には自由がありました。一方的な愛撫だけではなく、今はパトラも私の動きを受け入れなければなりませんでした。
私がパトらを自由に愛せるのです!
私は夢中でパトラを抱き締めていました。最初、私の積極的な動きに戸惑って(とまどって)いたパトラも、やがて素直に私を受け入れ始めたのです。
何時の間にか、私の戦に対する恐怖心は失せているのでした。
私は「パトラのためなら死んでも本望です」と耳元で囁いていました。
行為が終わった時、パトラの顔は少し上気していました。少し眼が潤んでいるようにさえ見えました。
それから暫くして、思い出したようにパトラが枕元にあるキーボードを叩きました。すると、空間に私達の姿がまるで幻のように浮かびあがったのです。先程まで繰り広げられた二人の行為が、まるで舞台で見るショウのように展開していたのです。
その光景があまりに、官能的でしたので、私は注視することが出来ませんでした。
 しかし私が「ヴァーチャル映像ですね!」と思わず声を出しますと、パトラは「この映像が見えるのですね!」と念を押すように尋ねるのです。
「勿論です」と答えますと、彼女は「想像していた通り、あなたはやはり私達と同じ能力を備えた人だったのね」と頷いたのです。
「どういう意味ですか?」
「詳しい話は、いずれ科学者から話してもらいましょう」とパトラは話題を変えるのでした。
そして暫く何かを考えているようでしたが、「今夜の戦いにあなたは参加しないようにして下さい」
「あなたには生きて故国に帰っていただきます」
「え!」私は咄嗟に「私は貴女の為に戦いたいのです」と言い張りましたが、パトラは微笑みながら「ありがとう。でも、あなたを私達の戦争に巻き込むことは出来ません」と答えるのでした。
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 話は変わりますが、パトラが私に「私達と同じ能力を備えた人」と言った理由について、少し説明しておきます。それは私が今回皆様に話したかった最も核心に触れる部分だからです。
これまで歴史上発見された地上の色々な遺物や遺跡が、どんな経緯(いきさつ)があって、誰が、何の目的があって建造したのか?科学者がそれこそ真剣に研究してきたにも関わらず、未だに謎に包まれたまま残っていることは周知のとおりです。
 例えば南米のマチュピッツ遺跡、ユカタン半島に栄えたマヤ遺跡、エジプトのギザのピラミッド等など--。現代人類の祖先がまだ文明を十分開化していていたとは思えない時代に「如何してこれほどの数学的にも物理学的にも精密な遺跡が建造されたのか?」
 現代の科学水準から考えても、なお多くの根本的な疑問が解決されないまま(勿論夥しい数の仮説が提起されてはいますが)現在に至っているのです。
 それも、例えば「奇跡としか説明出来ない」という常識論から、もう少し興味本位の話では「宇宙人が建造し、地球を去るときに残した」とか、少し突飛な説明としては「我々人類の祖先とは直接かかわりのない文明人が活躍していた時代があって、彼等が高い文明を築いていた」など、根拠に乏しい感情的・情緒的な話が多かったように思います。 
 特に一度は栄えた文明が地球から消えた理由については恐竜の絶滅と同じ理由、つまり地上を襲った何らかの天変地異が彼らを絶滅させたと考える等(例えばノアの箱舟の伝説のような)—現代の常識からでも想像出来ない荒唐無稽な話がありました。
 ただ、こんなスケールの大きいテーマを私の研究対象とするには荷が重過ぎる、これは今後のロマンとして残しておくべきだ。
しかしそれでも何時かとてつもない天才が現れて解決する日がくるかも知れないと考えることもありました。それまで待っていたほうが賢明---と!
 ところが、パトラが紹介してくれた科学者から、この件に関連する驚くべき話を聞いたのです。それは私が想像したこともない考え方でした。
 「これまで謎だった歴史上のミステリーは、あなた方が発展させてきた新しい遺伝子工学に基づく進化論で説明可能になる」と言うのでした。
 私達がミステリーとして積み残してきた歴史上の出来事すべてが、生物学の一分野、進化論で説明できると言うのです。

 彼は、高齢の科学者で、額は広く白髪で、顔には年相応に思慮深そうな皺(しわ)が刻み込まれていました。その一本一本の皺が彼の真摯な知的活動の年輪のように見えました。 晩年のアインシュタインのような風貌でありました。細い眼裂の合間から、赤い虹彩、深く黒く輝く瞳が私の心を射通すかのように覗き込んでいました。
彼は机からゆっくり立ち上がりながら「君はUFOの話を聞いたことがあるかね?」と問いかけてきました。
私が、話や科学雑誌、SF小説などで読んだことがあります。しかし殆ど興味本位の「話」位にしか受け止めていなかったと答えますと、
彼は少し笑顔を浮かべ「UFOは、本当に存在するのだよ」と断言しながら、中央のテーブルの傍にあるソファーにゆっくり腰を下ろしました。
「だが、ほんの一握りの地球人にしかUFOを見ることが出来ないのだ」と、私に座るよう目で合図をしつつ、しかし目線は崩さず穏やかな口調で話し始めました。
 私が一瞬「!」と無言で驚きの表情を見せますと、彼は少し肩をすぼめ「その理由を、これから話そう」と一息入れ「それがパトラからのお願いだから」と、この時彼は少し人間らしい老人の素振りを見せました。
 私は直感的にこの老科学者を好きになりました。
 広い研究室の天井はガラス張りで夜空に瞬く星が透けて見えていました。私の心が和み、徐々に落ち着きを取り戻してくるのが感じられました。
 中央には大きな円形の大理石のテーブル、ソファー、周囲の一角には仕事机、壁の一部には大型スクリーン、そして壁側にグラスや飲み物を収める戸棚や冷蔵庫が配置されていました。 又、一方の壁側には不思議な形状の置物が飾られ、大型の抽象的な壁画も描かれていました。
 その絵は、何処からともなく流れ込む水のように私の心の扉を徐々に押し広げる謎めいた魔力をたたえているのでした。
 部屋には静かなメロディ―が流れていました。それは波の音、いや森の音かも知れませんでした。人の気持ちをやわらげる美しいハーモニーの音色でした。
しかし私は「如何して、UFOを見える人と、見えない人が地球上に存在するのでしょう?」と尋ねますと、彼は少し思案している風でした。
 やがて、おもむろに彼は「ドクター、君は地球上、いや宇宙と言った方が正しいかもしれないが、に存在する生物は、あなたが知っている生物だけだと思っているのかね?」
 「それはどう言う意味ですか?私たちが知っている生物以外に何か存在すると言うこと---ですか?」
 すると彼は真剣な顔で頷き(うなずき)、「君は気付いていないと思うが、現在ドクターも含めてラムダ国に住む人間は普通の人には見えない存在なのだよ。」
「!」と私。
「私も彼等には見えないのですか?」
「左様、君は人間社会にあって特別な能力を獲得した人間だ。無論君の家族も日本では珍しい突然変異種だがね。」
「透明人間ということですか?」
 「いや、そのような意味ではなく、私たちは、人の棲む3次元の世界とは全く異なった次元に棲んでいるのだ。時間を含む4次元以外に、宇宙エネルギーをも一つの次元として認識する、そしてそれを容易に利用できる能力を持っているということなのだ。この能力は所謂(いわゆる)宇宙をも支配できる能力といっても良いだろう。この能力を持っていれば、自然界の物質を自在に利用して何でも創造出来る。生命の創造も例外ではないのだよ」
「!」
「私達は人間も含めて地球上のあらゆる生物の設計図を書き実際に作り出してきたのだ。」
「それじゃあなた方は人間にとって神の国の住人になるじゃないですか?」
「 少なくとも地球人達にはそう思えるかも知れない。形の見えない天上に住む神と!」さらに続けて「人間は昔から神様が天地創造をした--と考えてきた。その考えは確かにあたらずとも遠からず--だ。もし地球人が自分達に見えない存在を神と呼ぶなら--」
「神!」
「そう! 私達は、これまで私達が設計した地球上の生物は、私達の予想通りに生きてくれると考えてきた。しかし、実際には少し計算違いだった」
此処で彼は深い溜息をついた。そして憂いに満ちた表情を浮かべながら、
「私達が想像していた以上に人間の進化が誤った方向に進んで、このままでいくと私達が想像もつかなかった能力のある人間が続々と出現してくる可能性がある」と天上を仰ぎ見ながら話した。
「これは私達の予想外のミスだった」
「それで今後、人間はどうなるのでしょう?」と私。「このまま行けば、絶滅した恐竜と全く同じ理由ではないが、やはり滅びてしまうだろう」と彼。
「それがラムダ国やオメガ国を作って実験している理由ですか?」
「その通りだ」彼は確信的な口調で頷くのでした。 
「しかしもし地球上で核戦争が勃発し地球全体が破壊されたらラムダ国やオメガ国はどうなるのでしょう?」彼は私の話を遮るように手を横に振りながら「いや、恐竜達と同様地球全体が滅びる前に、人の生命維持システムを破壊することになるだろう----どんな手段で? それは簡単だよ。私たちが設計したのだから---このシステムの弱点もよく把握している---」
彼の冷徹な言葉に、私の人間的な気持ちはズタズタに切り裂かれてしまうのでした。
 この時、私は計り知れない寂しさ(私は単なる製品だったのか?)と、心の奥底から湧き上がる説明のつかない恐怖心(博士の言葉に対する)に身震いしたのでした。
「で、UFOが見えることとどんな関係があるのでしょう?」やっとの思いで質問しますと、彼は「UFOは私達が設計した飛行体で、普通の地球人には見えないが、ドクターのようなヴァリアント(突然変異種)には見えるのだよ」
 「!」
とするなら前世紀中頃からUFOの存否が騒がれ始めていたが、その頃から人間社会にヴァリアントが出現していたと言うことなのだろうか?で、私もそんな仲間なのだろうか?私は自分自身を今迄 “普通の人間”と思ってきました!が---私は宇宙人なのかもしれない!
「人間はあなたが創造された作品だったのですか?」と私。
「いや、生命全体が長年かけて創造してきた私達の作品なのだ」
「各種生命体相互に方向付けられた作用力によって人間も含めた生命の進化が平等に進むように設計されていたのだ。この方向付けは、料理に例えればサジ加減程度のつもりだったが、ドクターのように我々と同様5次元の世界を認識できる生命体まで出現したことは想定外のことだった」と博士。
「しかし私は、飛行物体UFOを見たこともないのです」と反問すると、博士は笑みを浮かべながら「新しい次元を認識する能力を引き出すには、やはりそれなりの訓練が必要なのだ。ドクターはその訓練の方法を知らなかっただけなのだよ」
「ところで


2010年03月08日(月) オーロラの伝説ー人類滅亡のレクイエム

  後になって分かったことですが、この国では子供社会と大人社会が完全に切り離されていました。大人はマザーランド(母島)で、子供は大人になるまではドーターランド(娘島)で教育をされていたのです。
しかも子供達は大人になるまで男女別々の島で育てられていました。
 子供は個性に応じて教育を受けていました。戦士に関して言えば、海中戦戦士は女性、陸上戦戦士は男性でした。言葉は私には理解不能な人造言語のようでした。同僚の話では、少年や少女が地球で広く使われている言語を理解出来ないことは、私のように地球から来た人間から「有害な知識や情報が伝わらない」という意味で、必要な事なのだというのでした。
  さらに驚いたことは、この国の子供達に親と呼ぶ概念がなかったことです。その理由は(驚愕したのですが)、子供達は母の胎内で育つのではなく、なんと体外受精と人口胎盤で育っていたのです。
 「人口胎盤とは!」
人間がまるで鳥やトカゲのように卵を産み落とし、体外で受精させ人口胎盤で子供を育てる! とすれば、人類は進化の過程を逆戻りして鳥類や爬虫類になるということなのだろうか?
 なるほど女性が、子供を生む労力や危険を避けることが出来る、という意味では進歩と言えない訳ではないが・・・?
「進化の過程で哺乳動物が獲得してきた受胎の本質的な意味は何だったのか?」疑問が浮かぶのでした。
ただ人類などの哺乳類と爬虫類とでは、前者が固体の発生時に環境の影響を受けることが少ない。この点は確かに哺乳類のほうが環境に適応しやすい。しかしそれだけが、受胎・出産の生物学的な意味(哺乳動物が生き残った理由)だったのだろうか?
地球上の生命の起源や進化が誰によって、どんな設計で進められてきたのか(色々な学説が提起されていますが)本当のところは、私には分かりませんでした。誰がこのように整然とした緻密な生命のシステムを構築したのか?
環境の変化と化学反応によってもたらされた・・・という単純な説だけでは、とても理解し難いように考えていました。たとえ地球創世記や氷河時代のようにドラスチックな環境や気候の激変が地球上にあったとしても・・・。
ただラムダ国では、人を含めて生物の進化を強引に進めていました。今回の戦争では、その成果が如実に示されていました。
例えば今回、オメガ国のほうがマンモスザメを開発した点でラムダ国より戦争をはるかに有利に進めていました。
 この国が体外受精を推し進める理由は、たった一つ、遺伝子工学を色々な生物に対してより効率的に、より迅速に遂行、進化のプロセスを簡略化するためだとしか考えられませんでした。
だとすれば「この国に見られるあの激しい性行為は一体何なのか?必要なことなのだろうか?」、ある時元老に尋ねますと「勿論だよ、男が男として、女が女として機能し、良い配偶子を造る為には質の高い性生活は必要不可欠なのだ?」と答えるのでした。(なるほど---それもそうか)この点については少し理解したような気がするのでした。
 
 しかしこの日、私が助けた戦士が人口胎盤で生まれてきた少女だとは知りませんでした。ただ、普通の子供とは「何か雰囲気が違う、変わっている!」との印象は受けたのです。
 私は彼女の興奮を鎮めるように、出来るだけ優しく話しかけようとしました。しかし彼女には私が話す言葉が全く理解出来ませんでした。
 剥ぎ取られた戦闘服を拾い手渡しますと、私の眼前で躊躇う(ためらう)様子もなく衣服を身に着けるのでした。「帰ろう」と促しますと、私に助けを借りるようにして歩き出しました。それはまるで子供の仕草でした。
 木々の葉の合間から差し込む夕日に、ほんのリ朱に染まる白い肌、長いまつげ、アレクのような青い目、小さな鼻、昔何処かで見た天使のような可憐な顔立ちの少女でした。
こんないたいけな少女を、陵辱した男のことを思いだすと、こみ上げてくる憤りを禁じえませんでした。  
暫く、ゆっくりと歩いていましたが、彼女は突然立ち止まり、私の顔を見つめました。
「帰ろう」と促しますが、動こうとしません。
そして、腰の剣を引き抜くと、攻撃するような仕草をするのです。私が「やめるのだ!」と近づいていきますと、彼女は大きな瞳をいっそう大きくして、突然自分の左胸に剣を突き立てたのです。
 一瞬の出来事でした。私が慌てて彼女を抱き上げ、剣を引き抜きましたが、彼女は何も言わず、何か訴えるような目で私を見つめていましたが、やがて静かに目を閉じたのです。
 私の悲しみが如何ばかりだったか想像していただけるでしょうか?私には訳が分かりませんでした。
 突然恋人が死んだような悲しみで、私は完全に打ちのめされたのでした。
この国で研究を続けることだけで、私の気持ちを納得させることは、最早出来そうもありませんでした。この少女の死を無駄にすることは看過できないと思ったのです。何時の間にか、私は理屈を超えた本能の世界へ引きずり込まれようとしていました。
18
モンスターザメの出現で、海中戦が不利になったラムダ国は、敵の波状攻撃が続き、かなり逼迫(ひっぱく)した状況に陥っていました。戦で多くの戦士を失っていましたが、  パトラの片腕と目されるアレクがモンスターザメとの戦いで、深い傷を負ったことは、この国の戦力、いや”勢い”に著しい悪影響を及ぼしていました。
 さらに作戦会議で大問題になったことは「敵戦士がドーターランド(Dランド)に上陸し始めた」という報告でした。Dランドには子供たちを育てる最も重要な組織・機関があったのです。
 この島が占領されることは、ラムダ国の敗戦を意味していました。
 私達の国では、通常大人と子供が同じ場所・空間で生活しているので、たとえ国の一部が攻撃され、その地域が全滅することになっても、直ちに国全体の敗北を意味することにはなりません。
しかしラムダ国では、子供達はDランドでまとめて育てられていたのです。だからこの島が占領されると、ラムダ国の未来が失われることを意味していました。
 参謀長は「Dランドで敵を迎え撃とう」と深刻な表情を見せました。
 すると参謀の一人が「Dランドは山が多く、作戦が立てやすい。海中戦では確かに、我々は遅れを取っている。しかしDランドでは新しい動物を使って戦う訓練をしている。彼らを投入すれば戦況が好転するかもしれない」と発言しました。
 パトラは「訓練中の部隊が出撃するのは、危険です。私が行きましょう」と断固とした表情で宣言したのです。
 何人かの将軍が反対しましたが、パトラは意見を変えることはありませんでした。私も「パトラと一緒に参戦したい」と勇んで発言しますと、何時も反対していたパトラもベンも「ありがたい」と今回は歓迎してくれたのでした。

 Dランドへの輸送には水中戦闘機が使われていました。水中戦闘機は、単に戦(たたかう)だけではなく戦士を一度に多数輸送するときにも使うのです。形は大型のエイに似ていて、エイの目の部分に主操縦席、副操縦席があり、情報収集・解析室は司令塔と共に頭の中央部にありました。外からの攻撃に対し反撃できる水中銃も設置されていました。 水中銃を発射するための座席は、上下・前後左右に、それぞれ4基ずつ設置されていました。座席の前にはモニターが設置されていて、敵の攻撃に対し発砲方向を指示するのです。モニターは360度、どの角度から攻撃されても対応できるように設置されていました。司令塔は周囲を360度監視できるようになっていました。本土からの司令や周囲からの情報を収集、作戦を立て、そして海中戦士や他の戦闘機に指令を出すのです。一機の水中戦闘機で30人余りの陸上戦士を輸送することが出来ました。
私は、この戦闘機のことをエイ戦闘機と呼ぶことにしていました。

 上陸作戦は夜に実行することになりました。昼間はモンスターザメの攻撃が激しくエイ戦闘機と雖も(いえども)、安全とは言えないからです。それに、我方の防衛部隊、サメ部隊はほとんど壊滅状態でシャチ部隊だけが健全でしたがその数は少なく、昼間の輸送は味方に甚大な被害を与えること意味していたからです。
 私は、陸上戦士として戦闘に参加することになりました。
 地下の出撃基地からは戦士が粛々と潜水艇に乗り込んでいました。私はベンと一緒のエイ戦闘機に乗り込むことになりました。
出撃の際に使われる潜水艇は(以前見たことがありましたが、それ自身が外界に出撃するための乗り物ではなく、地下都市と海中をつなぐエレベーターのような機能を果たしていました)円筒状のトンネル内を滑るように進みますと、2箇所の出撃口がありました。
一方は海戦戦士のための出撃口(E-�機法�他方は陸上戦士が水中戦闘機に乗り込むための出撃口(E-�供砲任靴拭�
 E-�兇砲牢�にエイ戦闘機が待機していました。潜水艇とエイ戦闘機は、連絡路でつながり、戦士はこの通路から戦闘機に乗り込むのです。
 ベンは私を司令室に案内してくれました。夜の海は不気味なほど静かな暗闇で、私には何も見えませんでした。しかし、準備されている特殊メガネを着用すると海中の様子が手に取るように遠くまですっきり見えたのです。
 周囲に魚の泳ぐ姿は見えませんでしたが、既に出撃・待機しているエイ戦闘機数機が上方を緩やかに旋回している模様が見えました。
 そして私たちの戦闘機が、戦闘機群に加わりますと、他の戦闘機は、旋回しながらベンの戦闘機を先頭に15機が1機、2機、4機、8機と三角形の形に並ぶのです。ベンの指示で青い光が翼の先端から発せられますとそれに呼応するように列機も一斉に青い光を発する。それを確認するとベンは直ちに出撃命令を出しました。
 司令室から眺めると、我が軍はベンの部隊を先頭に左右に三角形状、上下に段々畑のように段差をつけ緩やかに進行している。その姿は勇壮で、この部隊がDランドに上陸すれば、オメガ国との戦いは「我が軍が勝利するのではないか」と思えるほど頼もしく見えるのでした。
この夜の出撃はあくまでモンスターザメの攻撃を避けるのが目的でした。エイ戦闘機は大型で防御体制が整備されていましたが、あくまで陸上戦士を輸送するのが目的で機敏な動作が出来ません。
 静かな航行が続いていました。ベンは安全を確認すると、浮上するように命令をだしました。運行速度を上げるためには海上が有利なのです。
 やがて満天下の空に星が降るように見え始めました。新月の夜でした。波の動きも穏やかで、まるで砂漠を進軍しているような錯覚に陥ったほどでした。
 
私はもともと科学者として微生物学を研究する予定でした。この国には、高度な技術、十分な実験施設があり科学者として魅力が一杯あったのです?しかも彼らは、私の能力を高く評価してくれていました。研究者として研究を続けることも可能だったのです。
しかし何時の間にかこの国の戦争に巻き込まれようとしていました。
何故こんなことになったのか?
パトラがいたから? それとも可愛いい少女が勇敢に戦い死ぬ姿を見たから?
「戦わねばならぬ事態が起こった時、如何行動するかで、男の価値が決まるものだ」
昔、父が話していたのを思い出しました。
「でなければ、昔の戦国時代の武将は何も歴史的な役割を果たさなかったことなる」と---あれは男としての本能的行動の価値を言っていたのだろうか?
本能こそ動物の最も重要な行動原理だと---。パトラや元老が戦争を肯定するのもそのことなのだろうか? 元老は現代の戦争は高度な武器に頼る科学戦で人間同士の″本能“に基づく戦ではない。それが問題なのだと指摘したかったのだろうか?
日頃あまり考えもしなかった人間の行動原理について自問自答していました。
 その時でした。ベンが突然私の肩をたたきました。「前方から、大群が押し寄せて来ている」と!
 と、間髪をいれず、パトラから「前方に敵あり、戦闘準備!」との連絡が入りました。
 「この時刻に、一体何が攻めてくるのだ!」ベンは直ちにシートベルトを装着し、急速潜航するよう命令を出しました。

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  偵察に出ていた先方隊から、逼迫した声で「相手は大イカの大群」との伝令が飛んできましたが、それっきり通信が途絶えてしまいました。しかしそれは味方の隊形を決定する上で極めて重要な情報になりました。ベンは進行を停止すると、あらかじめ決まっていたのか「B隊形!」との指示をだしました。
 見ているとエイ部隊は速やかに中央部を中心に”お椀型”の隊形を取りました。
 全体を確認すると、ベンは直ちに中央の編隊に「灯りを点灯するよう」命令を出しました。
 恐らく相手はイカ部隊なので”灯り”で相手をおびき寄せ、中央の部隊がしばらく戦うとみせ退却する、相手がさらに追跡して来るのを見計らって、背後から一気に攻撃するのだろうか---。しばらくすると司令室から作戦上、「最初は水中銃を使用しない」との指令が届きました。「最初はトロール網作戦をする」ベンは命令を出しました。
すると左右の部隊が動き、中央の部隊の前方にみるみる網が張りめぐらされました。モンスターザメの場合は、網を簡単に破るがイカの場合は、この方法で戦えると判断したのでしょう。
 モニターを見ていると彼我の差がみるみる縮まって来る。敵は予想通り灯りの中心を目指して突進してきました。船内は緊迫した雰囲気に包まれました。司令室には本部から伝令が飛び込んで来る。それをまとめて伝令が周囲に情報を送信する。
 接近して来たイカを見た時、私はモンスターザメを見たときと同様の衝撃を受けました。昔、映画で怪物イカが船を転覆させる場面を見たことがありました。あれと変わらないほどの怪物イカが、群をなして押し寄せてきたのです。
 「我々のエイ戦闘機が、彼らに吸い付かれたら身動きできなくなるのでは?」ベンに尋ねると、ベンは黙って頷くのでした。
(我々はDランドに上陸する前に沈められる可能性も!)
私は窒息しそうな緊張感のため、握り締めた手が汗でびっしょり濡れてくるのを感じるのでした。
 一方、作戦は功を奏しそうでした。
イカの大群を網の中に閉じ込める隊形をあらかじめ準備していたからですが、それだけではありませんでした。イカが網から逃げ出す前に、網の口を塞がなければならなかったのです。その作戦はエイ戦闘機だけでは無理でした。行動が鈍いからです。
作戦を察知した後方に布陣していた大イカは、反転逃げ出すだろう。
しかし作戦が成功したのは、シャチ部隊が護衛に参加していたからでした。パトラがシャチ部隊を指揮していました。彼女の部隊はエイ戦闘機の外側に布陣していて、最後のイカが網に入った瞬間、逃げる怪物イカを網へ閉じる動きに出たのです。
 (パトラまで参加している、私はラムダ国が”背水の陣”をしいている”悲壮な覚悟”を感じるのでした)
パトラの部隊が活躍してくれたお陰で大半のイカの捕獲に成功しましたが、逃げ出したイカも相当数に上リました。しかしラムダ国の作戦としては大成功でした。
 ただ問題は、捕らえられたイカへ水中銃が一斉に発射されると、墨を吐き出したことでした。周辺の海は瞬時に真暗闇になりました。
 「これが、エイ部隊が最初水中銃を使わなかった理由だったのか」
 しかし周囲の状況が墨のため分からなくなっていました。
 「見方同士の衝突が危険だ」一瞬不安がよぎりましたが、ベンは落ち着いていました。直ちに味方に超音波探査の命令を出しました。
すると敵味方の位置を画像上確認できるようになったのです。そして網に包まれもがきながらイカの大集団が海底に沈んで行く様が確認されるのでした。
 と!突然、私たちの水中戦闘機が上下左右に大きく揺れ始めました。そして機は大きく回転しながら沈み始めたのです。
 ”何だ!”と窓を見ますと、なんと20cmはあるかと思える、化物の様なイカの吸盤が吸い付いているのです。


2010年03月03日(水) オーロラの伝説ー人類滅亡のレクイエム

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ラムダ国は地下都市だったのですが、山の一角を利用した部分は、一見地上に聳え立つビルのようで、山の斜面には採光窓、外部が一望できる会議室、それにライブラリーやバーまでもが設けられていました。勿論、外からそのような地下建築物が存在すことは分かりませんでしたが---。
 戦が激しさを増すに連れ、軍部、政治指導部、科学技術部とそれに関連する各部署から代表が招集され、戦争状況の分析と対応策について話し合いが連日もたれていました。私が戦争の状況を視察したその夜、会議に参加するよう要請を受けました。
 展望会議室からは、海岸線が一望出来ました。
 音も無く不気味に揺れ動く黒い椰子の木々、ほのかに光る月明かりにわずかに白く反射する海岸線、それにアメーバの捕食膜の蠢き(うごめき)のような、何物をも容易に飲み込みそうな黒い波、その波間には亡くなった戦士達の亡霊が潜んでいるようで身震いするのでした。
しかし一方、煌々(こうこう)と輝く三日月や、宝石のように煌く(きらめく)星の世界は、何故か“少年の頃、愛読したギリシャ神話”への強いノスタルジアを感じさせるのでした。
会議では白熱した議論が展開されていました。
席上、戦況についての危機的状況が議論されていました。とりわけ相手国が今回開発した新兵器“モンスターザメ”について議論が集中していました。
 アレクは彼らと戦った感触から、ラムダ国が今回開発したシャチ部隊で対応できると答えましたが、しかし相手の数が問題だ、との見解を示したのです。「わが国のシャチ部隊はまだ実験段階で、少数部隊だ、こちらの対応能力を超える程の数の“モンスターザメ部隊”を相手国が投入してくれば、我々としても防ぎきれず敵の陸上部隊の侵入を許すことになるだろう」
するとパトラが引き継いで「現在この問題については、スパイ活動が展開されています、近いうちに正確な情報が入って来るでしょう。しかし陸上部隊の準備を早急に整えてなくては、手遅れになります」とベンの方へ向かって言う。するとベンは胸を張って「分かっています。モンスターザメから上陸してくる敵戦士は、楽な戦いをしているので疲労していない可能性があります。手強い相手と考えた方が良いでしょう。しかし我々の側の戦闘部隊も十分訓練を受けているので大丈夫だと思います」と冷静な口調で答えるのでした。
 すると、鷲のように鋭い眼光の白髪の参謀長が「いずれにしても科学技術部が“モンスターザメに対抗しうる生物兵器を開発することが急務だ」と思慮深い面持ちで、述べるのでした。「この件に関しては、当面はシャチ部隊の補強と訓練の強化が必要だが、さらにTドクターが分離した遺伝子を使った大型生物兵器の実用化が急務です」とパトラは私のほうに顔を向けました。
 「動物を使った遺伝子組み換え実験は、機械の組み立てのように簡単に進められる訳ではありません。生物が相手である以上、ある程度の時間が必要、受精だけでも大変ですが、受精に成功したとしても目的の遺伝子組み換え生物を発育、成長させるには相当の時間がかかるのです。良い結果を得るには数年、数十年のスパンで考えるのが常識です」
私がこの種の研究の難しさを訴えますと、発生学を担当している科学者は「その点についてはあなたが心配しなくて良い。遺伝子組み換え受精卵さえ準備してくれれば、あとの作業は私達が担当する」と強い口調で答えるのでした。
 この日、ラムダ国の動物改造システムについて、その目的の一部を知ることになりましたが、それは やはり“生態学の本来の目的”を逸脱した、許されない実験だと思うのでした。
ただ会議に出席して、私が不思議に思ったことは、アレクが危険な戦場から帰ってきたばかりだというのに、戦争の現状分析を、興奮した様子もなく、冷静に淡々と話すことでした。
勿論パトラも、何事もなかったように議事の進行を玉座から見守っていました。
 アレクやパトラのように生死を賭けた戦(いくさ)から帰ってきたばかりならば、通常、何らかの感情の昂ぶりがあってもよいと思うのですが---、彼らの示す冷静さが不思議でなりませんでした。
単に戦の視察に参加した私でさえ、まだ興奮冷めやらぬ状態が続いていたのです。
 会議の後、元老と話す機会がありました。 この点について「どのように考えているのですか」と、質し(ただし)ますと「あなたは戦争を知らない国から来た人だから無理もないと思う」がと苦笑しながら「この国では王も含め戦士は”戦う”ことが任務、とりわけ”将”は戦闘能力が卓越していると考えているので、戦うことが嫌ではないのです」
 「しかし、女王が戦死すれば、この国は如何なるのです?」と尋ねますと即座に「勿論この国は、属国に成り下がる」と肩をすくめて、静かではあるがしかし厳然とした口調で話すのでした。
 「・・・」
 退席途中、会話に加わったパトラは「しかし私は、ラムダ国が敗北すると考えたことがありません」と嗜める(たしなめる)様な口調で言うのでした。
 しかし私には疑問が残りました。
「この国は豊かで、生活に困窮しているわけではない。どうして戦争する必要があるのでしょう?」
「相手が攻めてくるからです」と簡単に答えるパトラ。
「話し合いで解決出来ないのですか?」と、元老は「それは無理だ。どちらの国がより優れているのか知りたいのだ」さらに続けて、彼は戦争の必然性について興味ある考え方を示したのです。
「生物は絶えず進化し続けなければ絶滅してしまう。生物は自然淘汰の原理で種の保存が決定されている。つまりどの種の生物が保存される資格があるか?は“遺伝子の変異と生存競争で選択淘汰”される。この原理のお蔭で、生物界はバランスの取れた生態系が守られているのだ。ただ現代の地球では人類が科学技術を利用するようになって、人類だけが異常に繁殖、生物界に君臨するようになった。ある種の生物は次々絶滅しているが、これは、正当な理由による絶滅ではなく人類が作り出した、「人為的、歪んだ絶滅」なのだ。一方生命の裾野に位置する微生物、殊にウイルス、細菌などの下等生物は、単純な遺伝構成と言うこともあって、人類の科学技術に影響を受けずに絶滅するどころか、むしろエネルギッシュに増殖・進化を続けている。つまり高等生物を取り巻く環境の中で微生物だけが活発に進化している。一方高等生物(植物も含めて)が進化するには時間がかかる。だから環境変化についていけなった高等生物は滅びていくのだ。現在多くの高等生物は人為的に引き起こされた急速な環境変化や、変異で強くなった微生物の出現に適応しきれず絶滅しつつある。これが私の最も危惧していることだ。
つまり人類は、他の生物種とのバランスを考えないまま自己の利益を守るためにのみ技術開発を追及してきた。そして他の有用な生物種を、意識してか無意識なのかわからないが滅ぼしてきた。結果、人類は最も繁栄する生物種になったが、これは進化の原理からは誤った繁栄と言える。とりわけ科学技術の誤用は、人類のみならず他の生物界の進化をも狂わせつつある。このまま事態が進めば、いずれ人類も自然淘汰のサイクルの波間に沈んでいくことになるだろう。(科学文明の進歩が皮肉にも人類の破滅を招くのだ)
 私達は、生物界を救う為には常套手段だけでは無理だと考えている。現状を打開し、生命の絶滅を防ぐ手立てはひとつ、それは生物界が進化する機構、つまりそのシステムとそれを動かすエンジンを健全に取り戻すことだ。
 自然との戦いで真に勝ち残るエネルギーを失った人類は、いずれ進化のエンジンを失い、絶滅する」と元老は確信的な口調で話すのでした。
 「人類は他の生物種と公正な競争(戦い)の末、勝ち残るシステムを守らなければなりません。それが人類の遺伝子を良質に維持する手段なのです」と、パトラも元老と似たような口調でつぎウインクして部屋を出て行きました。
 私は意外な話の展開に、驚きました。
なぜなら、今までこの国が遂行してきた人工的な動物進化の方向こそ、自然淘汰の理論を無視した方向だと考えていたからです。
 しかし、元老は数理進化論の大家でもありました。彼の予測によると、エゴに満ちた科学技術の進歩によって、人類は明らかに破滅の方向に向かっていると言うのでした。
一方ラムダ国では、少なくとも人類が犯してきた誤りを正す方向を模索しているらしいのでした。
最後に、老博士は「生態系の維持と生物の正しい進化の為には、正当な戦いは絶対に必要なのだ。ドクターは競争のない世界を想像できるかい?---出来ないだろう?ただ現在地球で起っている戦争は、生物界の進化の原理から外れていると言うことなのだ。それを我々は正そうと言うのだ」と付け足すのでした。

16
 この国へ来てから、私は研究者として研究を遂行する立場にあったのですが、この国の技術者は、私がいなくても研究を継続する能力をすでに獲得していました。
最近では、私が研究に関わる時間は少なくなっていました。
一方 モンスターザメを使って海戦を有利にしたオメガ国の戦士がラムダ国に度々上陸するようになって、陸上戦が頻繁に起こり始めていました。ラムダ国は陸戦の準備をしなければなりませんでした。
 ある日、戦士の訓練所に立ち寄った時のこと、彼らに剣術の指南をすることになりました。
 私は少年の頃から剣道を習っていました。一時佐々木小次郎の”ツバメ返し”に興味があって、その習得に没頭したことがありました。
 ″ツバメ返し”は相手の攻めを誘い、相手が“決まった”と気を抜いた瞬間、返し剣で相手を攻撃する所に極意がありました。
それを習熟するには、剣を自在に繰る豪腕が必要でした。
 私がたまたま訓練に参加した日、私の“ツバメ返し”が面白いように決まりました。パトラもアレクもベンでさえ驚きを隠しませんでした。是非その技を教えて欲しいと言うのです。
 彼らの剣の使い方は” 突きと防御”が基本で”切り倒す”日本の剣を教えるのに少し時間をかかりましたが、彼らの運動神経は並外れていましたので、瞬く間にマスターしてしまいました。
 私は真剣で戦ったことがないので、技術は教えるが戦争には参加出来ないと言いますと、それで良いということでした。
 しかしパトラは不思議そうに、「あなたは戦争が誤っていると考えているようですね・・・あなた方の世界では戦争に爆弾、ミサイル、さらに原子力兵器などを使うので、公平な戦とは言えませんが、私達の世界では、人と人が自分の能力で戦い、優劣を決めるのです。戦いたくない人は戦士になる必要もありません。ただ戦士でありながら戦わなければ、この国の法で戦士の資格は剥奪されます。そして遺伝子も抹殺されます。彼等の遺伝子の増殖は、我々の能力の向上に障害となるからです」、続けて「自分の遺伝子を残したければ、この国では、能力をアピールする必要があります」「・・・」私が黙っていますと、ベンが「あなたは研究者としてだけではなく、戦士としても高い能力があると思います」と話をつぎました。
 ラムダ国では、戦争は"悪”ではありませんでした。彼らの話から判断すると良い遺伝子残すための手段だったのです。だから彼らは武器として個人の能力が試される槍や剣のような武器しか使わなかったのです。
彼らにも一理はあるように思いました。だが少し違和感も残りました。それは人類が一度犯した誤り、つまり優生学の復活を考えているように思えたからです。しかし人の優劣を個人の能力差で決める考え方、それはそれで正しいように思えるのでした。
17
 地上戦が始まると、国は敗色が濃厚になる可能性がありました。しかし私が指導した”ツバメ返し”が意外にも有効な戦法となり、地上戦はラムダ国有利に展開し始めていました。それでも上陸してくる敵を可能な限り減らすことが重要でした。
 ラムダ国は海中戦で多くの戦士を失っていました。しかも海中戦が主力の少女戦士たちは生きて上陸することはほとんどありませんでした。
モンスターザメとの戦いで、サメから振り落とされた少女戦士が、上陸を潔(いさぎ)よしとせず戦死するケースが増加していたのです。
これは日本が太平洋戦争の初期にベテランの戦闘機搭乗員が戦い終わって帰艦した時、敵の攻撃を受けた味方の空母が沈没していたため着陸できず無駄な攻撃を敢行、散っていった経緯をふと思い出しました。一流の戦闘機搭乗員を育てることは容易なことではありません。日本は万難を排してでも彼らを助ける必要があったのです。彼らの緒戦の無駄死が後の日本の航空戦に重大な影響を及ぼしたことは疑う余地もありません。
ラムダ国も緒戦で有能な海中戦士を多数失っていました。
私は、直ちにパトラに海中戦士は万難を排しても救うべきだと進言しました。いろいろ議論が分かれましたが最終的に私の意見が採用されました(議論が分かれた理由は、この国の成り立ちが自然淘汰の理論に基礎があったことに関係していたのです)。
 陸上戦は夜間に行われるので、捜索隊は昼間に地下要塞から出て、海中戦から上陸した戦士の捜索に森に入ることになりました。
 森には、見たこともない椰子のような背の高い植物や蘇鉄のような刺々しい葉の植物が密に茂っていました。
巨木の下では木の香が高く、雑草も少なく、戦争でもなければ散策するのにうってつけの自然の小径がありました。日陰にはコケやシダ、僅かに太陽が差し込む所では真っ赤に開く大型の花が潅木を彩り、さながら南国の楽園に来た印象受けるのでした。
 その上火山で出来たラムダ国の生態系は非常に変わっていて、人を襲う動物や昆虫は存在しませんでした。
 湿度も低く温暖、この国は戦争さえなければ人々の生活は快適なはずでした。
こんな理想郷ともいえるラムダ国に戦争があることがとても残念に思えるのでした。
 
 ある日、私が山肌から突出した瘤(こぶ)のような岩の上に腰をかけていますと、突然、下の方角から人の争う声が聞こえてきたのです。
「 何?」 とその方向を見ますと、ラムダ国戦士と敵国戦士とが戦っているのです。しかもラムダ国戦士は少女のようでした。
昼間に海中戦の戦士がこんな所で戦う姿を見ることはありませんでした。恐らく敵国戦士がラムダ国の少女戦死を“ある目的の為”に強制連行して来たに違いありませんでした。
 相手は陸上戦戦士で、海中戦なら兎も角、その勝敗は決まったのも同然でした。少女戦士は海中戦用の短剣しか身につけていなかったのです。しかも敵戦士は陸上戦に備えて鎧・冑で身を固めていたのです。
彼が本気になれば一撃で少女を倒していたでしょう。しかし彼には別の意図があったのです。戦(あらそい)は縺(もつれ)ていました。男は、彼女の剣を取り上げようとしていたのです。(私は直ちに助けに行くべきだったのですが---)やがて体力に劣る少女に徐々に疲れが見え始め、最後に、敵戦士は彼女の剣を取り上げ、投げ倒したのです。
 失神したのか、彼女の動きが一瞬止まりました。
すかさず男が襲い掛かかりました。
息を吹き返した少女が再び抵抗を試みましたが、無駄でした。戦闘服は剥ぎ取られ、彼女の肌が露出したのです。
少女の肌はまぶしいほど白く輝いていました。
均整のとれた、可愛いさが漂う裸身が露わになったのです。敵戦士はおもむろに、彼女の腕を固めると、自らも器用に戦闘服を脱ぎました。
それから後の光景を私は見続けることが出来ませんでした。
 衣服を剥ぎ取られた少女は抵抗をやめ、彼を受け入れたようでした。
彼女は、これまで女性ばかりの集団で生活していた筈で陸上での男との戦闘訓練は受けていない筈でした。
私は、悔しさで胸が張り裂けそうになりました。
時間が経ち、ようやく太陽が西に傾き始めた頃、男はゆっくり立ち上がると戦闘服、冑、鎧で身を固め、ぐったりしている少女を他所(よそ)に帰ろうとしていました。
 西空に太陽が没しようとしていました。
雲や海の波が眩しく異様に赤く輝いていました。
 それは少女の痛ましい姿とはかけ離れた静かな自然の姿でした。
私は敵戦士に対する怒りが爆発しました。
(相手は歴戦の戦士、戦えば私は命を落とすことになるかもしれません。
私の抱いてきた夢や人生を放棄することになるかもしれません)
 しかし、私にはそんな恐怖心や理性は吹き飛んでいました。何時の時代でもよくある戦争の残酷なシーンが私の闘争心に火をつけたのです。
私は「待て!」と大声で叫んでいました。
男は一瞬驚いて振り返り、小さな相手と見下したのでしょうか、不敵な笑いを浮かべ、恐ろしい形相に変わると、一撃で倒そうと、切りかかってきました。
しかし、それは私が待っていた瞬間でした。男の剣を激しく受け止めると、目にも止まらぬ返し剣で彼の腕を切り落としていました。男は恐怖の表情を浮かべ、余程驚いたのか慌てて逃げていきました。
私は怒りの虫が収まりませんでした、が少女のことも心配でした。
 急いで少女の所へ戻ってみますと、彼女は強いショックの為か、死のうとしているではありませんか。私は彼女から剣を取り上げ「死ななくても良いのです」と抱きかかえました。すると少女は顔を背け(そむけ)、涙を見せるだけで何も答えませんでした。私の言葉が通じなかったのです。
彼女には私が敵なのか味方なのか分からなかったかも知れません。ただ私の行動から、私を味方と判断してくれたとは思いますが---。
この国へ来てから、彼女のような少女の姿を眼前で見たことがありませんでした。彼等が何処で生活しているのかさえ知る機会がありませんでした。
だから海戦に出撃して行く戦士が少女だと知った時は驚いたのでした。今助けようとしている戦士も、おそらく10代後半と思える少女でした。


ジョージ北峰 |MAIL