あきれるほど遠くに
心なんか言葉にならなくていい。

2006年11月28日(火) 華の中 






いやに忙しく充実した一日。
こういう日は不自然なまでに昂揚した気分で、その一方でこのテンションを維持したまま一日を終えるのが難しい。
仕事が片付いていくのを見るのは妙に嬉しい。
できあがった報告書と起案書と、回付されてきた資料の山。
なんだか明日には仕事が無くなってしまっていそうで少しく不安だ。
この歳にして仕事に溺れたいと思うのってどうなんだろう。
まぁまだこの歳だから許されるという気もする。
何とも我ながら可愛らしい。









↑あえて言葉はなくても。

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些細なもの以外に不満はないのは、きっと僕に野心がないからだ。
野心も好奇心も、分不相応な願望もない。
ただせめて生きていければいいと思っている。
生きて、とりあえずの存在意義だけ満たして、苦しみや悲しみは薄く、穏やかに毎日に満足であればいい。
そうして終わらせた一日の眠り際に、今日と同じように明日が控えていることを諦める、それが生きていくということなのだと思う。

 かみさま、

もうあなたを恨まない。
もうあなたに何も求めない。
神様はいない。ただ信じ頼みすがりつくひとがひとり、褪せた華の中にいるだけだ。






2006年11月27日(月) ただそれだけ。






夢を見た。

そう気付いたのはもう起きてから1時間ばかりも経った後で、むしろそのことに驚いて足が止まってしまう。


 なにやら幸福な匂いがしていたのだ。


目を覚ますともう少し眠りたいと思った、わけもわからず幸福なまま。
昨日の僕を苦しめた微熱はすこし、治まっていて、とりあえず起きぬけの体温を測ろうと僕は細いガラスの体温計を探す。
時間も計らず適当に脇の下から引き抜くと、管の中の水銀は36℃までしか上がっていなくて何故か憮然としてしまう。
たぶん僕にはこれでも微熱なのだ、とおかしな理屈で納得して、明けきらぬ夜の空気にぼんやりとする。
何故かやわらかく満ち足りていた。
あわあわとした憂欝さと、はかない期待のような希望のような穏やかさに。


雨上がりの道を僕は歩いていた。
いつもは走る道を穏やかに、弾むように歩いた。
誰かがななめ後ろで言った。

 「そうやって、きみは目覚めた後でも笑うんだろう」


ふ、と息が止まった。
誰の声でもないのは知っていた。それはあのひとが言った言葉だ。
そうして、夢の中であのひとと笑っていたことを思い出す。






僕は泣かなかった。
夢が夢でしかないことをもうわかっていたので。
起き抜けに思い出していたらきっとつらかった。
だけど今はもう、くすんだ空の下なので、明けきった夜の後なので、僕は泣かないで済んだ。
ただ、
ななめ後ろにいたあのひとのことを思い出す。
苦しいほどの愛しさに困ることもなかった自分のことを思い出す。
ただそれを、幸せだったと思い出す。


夜になると胸が痛い。
街は霧に沈んでいて、どこか夢の中のように見えるからだ。
今僕が何を言ってもあのひとには聞こえない。
だけど僕が今、アイシテイマスとささやけば、あのひとに届くような気がする。あのひとの夢に届くような気がする。
それでも僕は何も言わない。
ただあのひとに、この心が、もう届いているのを知っているだけだ。

そしてそれがもう何にもならないことを知っているだけだ。










↑僕は優しいと皆は言う、たとえ嘘でも

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アイシテル、あいしてる、ただこの言葉にならないだけ。








2006年11月25日(土) 断章��





青く晴れた空が広く見える部屋に静かに座っていた。
陽射しにビルの外壁が白く照らされて眩しく見えた。

時が経つにつれて、空には薄く雲がかかるのがわかった。
このままいくと帰る頃には雨になるのかもしれない、と軽く憂欝になる。
ようやく効き出した暖房に背を抱かれて、薄れてゆく陽射しを惜しむようにずっと、空を見ていた。




想いが言葉になったらどんなに楽だろう、とよく思う。
言語化の作業はとても大変だ。
それはつまり普遍化であり、一般化であり、低層化であるのだと思う。
考えは当然のことながらただの微弱な電気信号で、それが第1次の変換で日本語の形を取りうるに過ぎない。
もちろん僕は日本語が好きだ。
けれど言葉を愛し使いこなすことと、この感情や思考や想念を言語化することとは、当たり前だけどまったく違うから、ひどく不自由な感覚を抱く。
いつも僕は、思考していることからはどこか遠くにある言葉の概念を引きずり寄せるようにして、まるで捩れた足で必死に歩くみたいに言葉に仮託した想いを述べている気がする。

それはまだ僕が子供だということかもしれないけど。

それならそれで、少し救われるような気がするけど。





その部屋の壁にあいた大きな穴からは、絶えずごうごうという風の音がして座っている人間に温風が吹きつけてくる。
すこし息苦しい、と思いながら空を眺めて座っている。
空はもう、陽射しをやわらかくさえぎって雲が広がっていて、最初見えた晴々とした町並みは生気を失って灰色に澱んでいる。
これから僕はあそこへ帰ってゆくのだ、と思うと何やらとても淋しい









↑告げたい想いがあっても。

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2006年11月23日(木) ふゆのけはい






冬は指が細くなってしまうので、気を緩めると指輪が関節から落ちてしまって危うい。

せめてなくさないように手袋をはめれば指先に宝石のようにわだかまる、その気配に少し口元が緩む。





仕事が少し、とても急に暇になってしまって、不意に弛んだ空気の中を泳ぐように歩く。

たぶん、少し立てばまた元のように忙しくなるのだろうし、現実には仕事以外でもとても忙しいので、そんなに気を緩めてはいないのだろうと思う。

だけど職場で考えることが何処の端緒からか不意にあのひとのことにすり替わってしまって動揺する、まるで麻薬のように甘い一瞬。

それは禁忌を犯したときの呆然とした気持ちに似ている、今の一瞬自分は何を考えていただろうと愕然とする自らを頬の熱さが裏切る。

何処へでも行ってしまえそうな浮揚感、行けない現実は忘れたように遠い。




あのひとに会いたいのに、
会いたいのに、

会えないでいることの絶望的な恋。




何処へでも行ってしまえ、と呟く言葉が声になることは決して無い。

けれど心が緩んだように甘い気配がする、目の前のモノは何もかも、要らないものだと考えるときの罪悪感の軽さ。

早くとてもとても忙しくなればいい、そうして何だか吐き気のするこの微妙な多幸感から逃れてしまえればいい、はやくはやくはやく。









↑不意に目を覚ましたような茫然自失は、

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落とした手袋に指輪が残されていたらたぶんそれは僕のものです、

とてもそっけなくアリガトウと言うだけでも。






2006年11月11日(土) まだここにいますただここにいます





風の冷たく凍える夜空の下を帰る道々
このこころの 浅ましさに気付いて唇を噛む


ここへ
ひとを
ひきずりおろしたいと思うのは
自分が満ちていないせいだと わかっているのに
相も変わらず それを恋だと見紛う


たぶん
淋しいので恋をしたい と
思うことは間違っていないと思う
けれど
淋しいことを恋だと見紛うことは
もういい加減学習すべきことだと思う
ので




時々不意に空しく虚しくなる


恋を
このこころは
どこに置いてきてしまったんでしょうね、なんて

  あぁなんでこのひとはこんなにもやさしいのだろう と

思うたびに
こころはただ呆気なく砕けて
せかいは暗く収縮する 穏やかな笑みと言葉のあいだ





さがす
ことばをさがす
ことばを
あのひとをとりもどすことばを
このこころをいかすことばを
あのひとの
やさしくもないそんざいにかわることばを
さがす

いつかこころがちぎれてしまえばいいとおもっていた









↑信じていれば、いつか

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あのひとにあいたいとおもうたび
あのひとをさがすたび
あのひとをどうにかわすれたいとおもうたび
恋にこころが ひきずり起こされるたびに

我に返ったように
ただ
単に思い出したように

もう生きてはゆけないとおもうのに






まだここにいます
ただここにいます






2006年11月07日(火) はきけ






この季節になると食べ物が嫌いになるらしい。

食欲の秋、と言うけれど、薄い吐き気が喉元に満ちていてやりきれない。
食事はきちんとしている。
何事もなく。
けれど酒も飲まず車にも乗らない僕の喉元で、茶の一杯ですら拒みたい空気がせめぎ合うのだ。

キンモクセイは終わり、クチナシも散った。
今朝からきいんと風が冷たい。


ストレスか何かでこんな気分になるのかしら、と思っても思い当たる節はなし。
淋しさ、とか? そんなやわな人間でもなし。


ただ今も薄く、拒絶が喉に渦巻いている。










↑愛すべきは冬でも

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満月を

待っている。

十六夜の月は奇妙に大きく夜空を渡るので
僕は穏やかに眠ることもできずに目を見開いている。

皓々と、月光は夜道に僕を照らし

その光に身を焼いて 逃げていく場所のことを思う






2006年11月02日(木) なまえ





  不意にアナタの名を呼んだ僕を赦してください。



呼びかける名なんかもう忘れたと思っていた。
その名を呼ばなくなってもうどのくらい経つというのだろう。
愛情、とかじゃなくて
なんて嘯いてしまう僕を半分蔑むように見つめた、アナタを憎んでいないと言えば嘘になるので。




  たぶんそばにいてほしかった。

それくらいの不確実さを内包する気持ち。
現実感の薄い手のひらの感触。

あたたかさはなんだか奇跡のようだった。
だから、なのか、

  アナタが笑うとどこか幸せな感触がした





アナタの名を呼ぶ機会があるなんて考えてもみなかった。
それがまず致命的なロス。

アナタは幼子イエスみたいに、死んでようやく人の心に残るのだと思っていた。

そんな不遜な、脱力感みたいな排除。

愛して、いるとかいないとか、
アナタは僕を欲していないのに(たとえ欲していてもそれを絶対に口にはしないのに)
そんなくだらないことに拘らないでほしいと笑った。


世界は暗く、シェルタは狭く小さい。











↑なんという現実感

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