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「んで、無事お友達になれたワケです。ちゃんちゃん♪」 「そりゃ良かったな」 唄うように言葉を締めくくった千石に視線をやる事すらなく、南は相槌を打った。ノートにシャーペンを走らせて文字を綴っている彼は、自分の前の席で延々と自分の作業の邪魔をするような行動をとっている千石に対して冷たい反応を返す事に決めていたのだ。 しかしそのつれない態度に千石はムッと表情を曇らす。 「何、リアクション薄いね……さすが地味'Sの片割れなだけあってリアクションも地味だ」 「失礼な事さらりと言うなよお前……別に、俺は興味ないだけ」 「えッなんで! 俺が殴られたらどうしようとか、そういうのはないわけ?」 か弱いキヨたんが亜久津に襲われたらどうしてくれるの!と再びテンションを高めたように高い声をだして抗議する千石に、南は思わず手を止めて彼の顔をまじまじと見た。 「……お前が?」 「……その視線はどういう意味…?」 「……そういう意味…つーかお前さっさと練習行けよ。さぼんなよな、エースのくせに」 そして書く事をやめたシャーペンを手の上でくるくると回しながら、南は深く溜め息をついた。 「南だってさぼってんじゃん」 「俺はお前とは違って日直日誌のために部活の時間を割いてる」 「……やだなーもう冷たい!南ったら最近つめたい!」 「お前は最近拍車をかけて近寄りたくなくなったな」 「……どういう意味?」 「そういう意味」 「…………ッ南のいじわる!お前なんか死んじゃえ!」 「ぐだぐだ言ってないでいい加減部活行け!」 捨て台詞のように叫んで走り去っていった千石の後ろ姿にむかって、南は思いきり叫んだ。千石の返答は聞こえなかったが、恐らく部活には出るだろう。 静かになった教室内で、南はもう一度深く溜め息をついた。 * 恋愛〜の。もう千石と亜久津親子ぐらいしか出ない話にしようと思って没。
こんなに泣ける人間だったのか、と。 まるで他人事のように自分が泣いている事に気付いて思わず笑った。 嗚咽まじりで笑い声だか鳴声だかわかりもしなかったけれど、たしかに俺はもうおかしくておかしくてたまらなかった。 まだ濡れてなんとなく重い髪をかきあげた。 水滴が外気で冷えて、指先を冷やす。 溢れて頬を伝う涙は温かくて、それでも体はひどく寒い。 その差すらもおかしく思える。 世界が愉快に歪んで見える。 それがまた、おかしい。 ひとしきり笑いながら、ふらつきながら、空をあおぎながら歩く。 ゆっくりと、あるく。 ああなんて愉快なんだろう。 くるくると不安定に回りながら、酔っぱらいのようにふらついて歩く。 まるで危ない人間みたいだ、と思えばさらにおかしい。 ああ俺は、俺はね。 やっぱりお前の言うとおり頭がおかしいんだよ。いくら罵られたって、構わないと思う。 お前になら。 お前になら。 ねぇ、亜久津。 罵ってもいい、見下してもいい、愛さなくてもいいんだ。 ただ側にいることを許して欲しいだけなんだよ。 お前の側にいられたらそれだけでいいんだ。 甘えられなくてもいい。 本心なんてお互いに隠していても良い。 本当はお前が俺なんか嫌いでもいい。 ただ俺をお前の側にいさせてもらえたらそれ以上なんて。 どうか、亜久津。 「……拒絶しないでよぅ…」 呟きがやたら響いたような気がして、それがまた情けないやらおかしいやらでまた笑った。 嗚呼、のらりくらりと歩き続けてどれぐらいたっただろう。 もううまく視点が定まらない。 酔いがまわったみたいだ。 世界が回る。 世界が歪む。 それでも明日からまた世界は元通り。 涙がこの夜のうちに、この体からすべてでていってくれるだろうか。 夜が明けて、朝日が登って空の色が変わって。 そしたら俺はまた、いつもみたいに綺麗に笑えるんだろう。 笑わなくちゃいけないんだろう。 滑稽な自分をおかしく思って、今夜だけでも弱い自分をだし尽くしてしまえば。 きっと明日からもうまく生きていける。 日付が変わって夜が明けて朝日が登って空の色が変わって。 明日だって世界は美しいふりをしたまま。 夜が終ればまた世界は仮面をかぶる。 取り残されたら最後なんだ。 -- いつもながらわけがわからん…。
い つ の 日 も 君 に 光 の 恩 寵 が あ る よ う に 。 毎年毎年、こなければいいとすら思っている。 呪っていた程ではないが、少なくとも自分にとっては誕生日などという日は歓迎できる日ではない。 祝いという名目のパーティーで、彼らは一体何を祝っているのだろうかと思いながら過ごす数時間を今年もまた無駄に繰り返すのだろうかと思うと、うんざりした気分になった。 学校があっても、それは別段変わらない。学校に行けば誰かしらには確実に祝いの言葉か何かを与えられ、代わりに感謝の言葉を述べる。 相手には失礼だとは思ったが、その繰り返しには飽き飽きしていた。 感情が欠落したやりとり。そんなものを繰り返すのは嫌だった。そしてまた、それを隠すようにわざとらしい程完璧に笑顔を浮かべる事も嫌だったし、それができる自分への嫌悪感も拭いきれない。 跡部は溜め息を吐き出すと同時に後ろの机に肘をついて天井を仰ぐ。そして目を閉じ、自分の机に足をのせる。 なんだかんだで結局今年もその繰り返しをしている。 放課後だがこういう日にかぎって部活動はなくなり、パーティーに遅れる口実を作る事もできなくなる。 事実を確認すると余計にうんざりとした気分となり、思わず舌打ちをすると聞き覚えのある声がした。 「みけんにしわ、よってる」 「……………慈郎」 せめて足音ぐらいはたてて欲しいと内心思いながら、できるだけ平然とした態度で跡部は目を開き、足を机から降ろした。 「おはよ」 「もう午後だ」 「うん、だから一緒に帰ろー?」 にこにこと笑っている慈郎と自分の温度差に思わず目線をそらしたが、出そうになった溜め息は飲み込んだ。おかげで妙な間を開けながらも跡部は視線を慈郎に戻した。 「……ぁあ」 「…………帰りたくないの?」 正直に答える事に対する罪悪感。何故だかそうとしか表現出来ない息苦しさを感じて、跡部は言葉を濁した。 答を、濁してしまうのは一体なんの罪悪感からなんだろうか。 嘘をついても見破られるとわかっているからなのか、それとも嘘をつこうとする事自体へのものだろうか。 「それも、嘘じゃない」 「……そっか……あ、そうだ飴あげる」 「飴?」 「だって今日誕生日でしょ? 前祝い」 「前祝い?」 「前祝い。あとでちゃんとしたのもあげる」 とりあえずおめでと、と慈郎は言い終わらぬうちに、跡部の口になかに無理矢理飴玉を押し込んだ。 「……甘い」 当たり前の感想に慈郎は笑い、顔を顰めた跡部の腕を引いた。 「俺ンち寄ってから帰んない?」 「フン、ちゃんとしたプレゼントでも?」 「もちろん」 「……ま、今日だけな」 跡部はそう答えて眉間の皺を消して微笑んだ。 言葉か何かを与えられる代わりに、社交辞令の感謝の言葉を述べる、感情が欠落したやりとり。そんなものを繰り返すのは嫌だ。 だからと言って急にそうでないことをするのも気がひける。 きっとそれが罪悪感に捕われる理由。 けれど、だからこそ自分は彼に甘いのだろう。 (いつだって、彼から与えられるのは甘い暖かさばかり。) 「もらうまで期待しといてやるよ、慈郎」 うわべだけでない、暖かな感情さえあれば誕生日だって喜ばしい日に変わるのだ。 -- 結局うまくオチてないけどおめでとう、おめでとう、大好きだぜ! (誤魔化さないでください…)
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