ぎらぎら光る青い眼を俺は好きになったのかもしれない。なんでももってるくせにあたりまえのものはなんにももっていない海馬のことを、俺は俺なりに哀れんだのかもしれない。 「俺が貴様を手放すとでも?」 怒ったらしい海馬は俺の胸ぐらをつかんで、歯軋りの音が聞こえそうな形相でそう言った、けど。その手は震えてて。 俺はなんて可哀想なんだろうと思った。この生き物は本当にかわいそうだ。 だから胸ぐらを掴む手をできるだけやさしく掴んで、体温を馴染ませるように皮膚をあわせて。 「お前こそ、わかってんの?」 そのあわれな生き物が自分の手を振り払わないことを願って、離させた手にキスをした。
嫌だと全身で抵抗する海馬を押さえ込み、横たわった奴の太腿に腰を下ろした。長い足が多少ばたつくが俺の体重を蹴り上げられるぐらいの力はその足にはないらしい。 骨張った腕を頭の上にもちあげさせて、俺は噛み付いた。鼻先で奴の耳もとをさぐり、耳朶を見つけて、噛んだ。軽くじゃない。血が出てもおかしくないぐらい強く噛んだ。そうして海馬が声を殺して悲鳴をあげた。俺はおもわず唇の端がつり上がるのを感じて、自分に嗜虐趣味があったのかとぼんやり考えながらも抵抗を諦めない海馬を見下ろした。 「なぁ、犬にマウントポジションとられんのって、どんな気分なんだ?」 嘲笑まじりに尋ねると、ぐ、とその喉が詰まったようだった。いわゆる、屈辱をこらえるとか、そんな顔。でもそんな顔でも海馬の顔はきれいだから不思議だ。俺は片手で細いおとがいをひきあげて、黒いタートルネックからすこしだけ見えたのど仏に吸い付くようにキスをした。その刺激にその喉が震えるのを感じるのは楽しかった。
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