ハラグロ日誌
書人*ちる

   

  




東京タワー
2001年12月10日(月)
「知ってる?でも私はあなたの未来に嫉妬しているのよ。」
今日読んだ、江國香織氏の「東京タワー」の中でいちばん印象的だった台詞だ。
少年(と言っても大学生なのだが。)と恋に墜ちた人妻が言うのだ。「あなたの未来に嫉妬している」と。恋に墜ちて、翻弄され、もがいているのは少年の方なのに。
うんと年の離れた恋人と恋をしている時、年上側は、そういう感情を持ちやすいのかもしれない。不倫関係ならば、尚の事、相手の未来に自分がいない事が、当然の事なのに、不本意でもあるのだろう。
試しに隊長に「私の未来を、どう思う?」と尋ねてみると、「かわいい、お婆ちゃんになってくれる事を期待している。」と言う。「あ、でもずっと、かわいいお姉さんでいてくれる方がいいな。」なんて阿呆な事も言っていたが。
一緒に暮らしたり、ケッコンするという事は、自分の未来に相手を置き、相手の未来に自分を置く事だ。
恋のさなかにいて、互いが一緒にいる未来を見ていられる、というのは、こんなにも当たり前で幸福なことなのだと改めて思う。この幸福を忘れずに、ずっといられると良いのだが。
物語の登場人物たちは、そんな普通の幸福を見つける事ができないまま、物語の幕を下ろす。
普通の幸福を既に手に入れている女たちと、それを手に入れるには早過ぎる少年たちの結末は、読者の想像を羽ばたかせる。









設計*しゑ(繊細恋愛詩)
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