f_の日記
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 こんな話

まあ或る会社の
かなり上の方の人で

その人はやさしくて
いつもにこにこしていて
何でも赦してくれた

きっと何不自由ない
幸せな暮らしを
続けてきたんだろうと

僕は最初
そんな風に思っていたんだけれど


一度だけ
激怒されたことがあって

それは仕事について
ちょっと生意気な口をきいた時だったっけ


後で聞いた話じゃ
その人は若い頃
鬼、と言われていて

仕事にとても厳しい人だったらしい

休日も返上
家族を顧みることなく


でもそんな或る日

息子さんを亡くされてな

と古い人がぽつり
と教えてくれた

その日から抜け殻のようになって
誰かを怒ったりすることは
なくなったんだよ



この間
駅のホームで
その人を見かけた

少し老け込んだように見えたけど

奥さんと二人
佇んでいる姿は
幸せそうで

でも

あのどんなに笑っていても
悲しそうだった眼差しは

今でも変わらなくて



人生には
色々なことがある

それがすべて必要なことだなんて
ほんとうは僕には言えないんだけど

悲しみだとか
幸せだとか

そんなこともほんとうは
口に出すのも憚られるんだけど

けれど

2004年12月03日(金)
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