にっき日和
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どうしても思い出せないのです。
その交差点の角に、
真新しいコンビニができていたのです。
いつ開店したのかはわかりません。
たまにしか通らない道だけど、
10年位前には、頻繁に通った道でもありました。
なぜならその頃、
交差点の筋向いに、お友達のおうちがあったからです。
何度かお邪魔したことがあったし、
おうちの人から、自家製の野菜をいただいたこともありました。
今では、そのお友達とも疎遠になってしまい、
おうちもどこかへ引っ越してしまいました。
通いなれた交差点、
見慣れた街並み・・・・
それなのに、あの交差点の角に、
以前どんな建物があったのか、
どうしても思い出せずにいるのでした。
たしか、古い小さな町工場があったような気がしたけれど、
どんな工場だったやら、外壁の色は?建物の形は?
記憶の断片が、
そこだけ、すっぽり抜け落ちてしまったかのようです。
人の記憶って、こんなにもあいまいなものだったんですね。
ふと、思ったんです。
生きるってことは、
自分の居場所を求め、
それを、死守し続けることの連続なのかもしれないって。
それは自分自身のためだったり、
ときには、ほかの誰かのためだったりしますけど。
けれど、もしかしたら・・・・
それらは、案外脆いものなのかもしれません。
あの古い工場のように、
いつか、忽然と消えてなくなってしまうことも、
あり得るのかもしれないのです。
いつもの夕暮れ。
家路を急ぐ車の列・・・・・
あの交差点のコンビニは、
もうずっと以前から営業しているかのように、
町の風景に溶け合っています。
そして、わたしは・・・・
思い出の破片を拾い集めながら、
家路に、着きました。
ぴょん
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