目の前にいるのに、気付きませんでした。あまつさえ、目が合ったというのに。声を掛けられても、気付きませんでした。あまつさえ、聞き慣れたはずの声なのに。視力のせいであるとか、考え事をしていたせいであるとか、言い訳はいくらでもできるけれど。存在そのものを感知することが出来なくなってしまっている、その事実に、あたしは激しく動揺した。