まずやってきたのが母の弟である叔父さんだった。当時としては晩婚の部類であった彼は私たち姉弟の相手をよくしてくれた。その記憶は父のものよりも明らかに鮮明で、小学校5年生あたりまでは一族が平穏な日々を送っていた。 叔父と私の父は同業であったが、叔父の独立を機に絶縁状態になり、かれこれ7年ぶりくらいの再会だったように思う。久しぶりに会った彼は太っていた(笑)。
次にやってきたのが暇を持て余していた?ラザと山ちゃん。突然のことで友人たちに連絡出来ずにいたので、彼らの訪問は唐突だった。どうもタケダから母に連絡があったようで、当時の情報棟であったラザの耳に入れればそのまま各方面へと情報が流れて行った次第であろう。 寄ってきたコンビニで運転を誤りボンネットを潰してしまった、とまるで他人事のように明るく話す彼らのほうが心配であった(笑)。
入院から1週間ほどがたった。何かと目をかけてくれ、気さくに話すようになったナースのBさんが昼頃に私を呼びに来た。病室を出るとすぐ玄関なのだが、「訪問者」と呼ばれた輩がいないのでロビーから身を乗り出して外をうかがった。程なくして現れたのが舞ちゃんと住吉だった。彼女らは周さんの車で来たと告げただけだったが、全く予期していない彼女らの訪問を素直に喜ぶ気持ちと裏腹に、結局姿を現さなかった周さんの存在を不気味に思ったものだ(笑)。
最後に来たのがタケダだった。彼は私と同じで新聞配達をしていたので週1の休みの日にわざわざ都内からやってきた。私が脚色のない本音を吐露できたのは彼に対してだけだったように思う。こんな形で挫折してしまった自分の不甲斐なさへの弁明が私の彼に対するその態度だったか、そこで私は自分以外の人間にはじめて「気力がない」旨をポツポツと語った。ただこの頃にはもう胸の痛みはなく、肺から空気が漏れそうにない状況だったが(笑)。
タケダが来た次の日に、彼が持ってきてくれたメロンを食べた。あれは私の生涯で未だに最も美味いメロンである。そして彼の置き土産である村上春樹の「ノルウェーの森」の上巻を読んでみることにした。「主人公があおちゃんみたいだから読んでみてよ」という台詞を残して。
来てくれた人々のおかげで退屈だった入院生活にも彩りがあったように思う。わずらわしい虚無感から開放してくれるひと時であったが、彼らの励ましを重荷に感じた自分がいた。
|