形骸化した体が横たわっていた。
根拠の無いシグナルが脳内に有るべきでない分子を誘発させて、 深く眠り込んだ後のような感覚を起こした。 やがて、めまいの後の一瞬の空白を跨いで、 今まで見たことのない色の世界が広がった。
見たことの無い部屋。 僕の横には別の体が横たわっていた。 そして、こちらを見ていた。
この部屋にはふたりっきりしか居ないようだった。 ゆるりと体を持ち上げると、 今まで頭蓋に収まった脳に潤沢に血液を送っていた心臓が、 負荷に負けじと大きく鼓動した。 その鼓動は自分自身が驚くほどで、 それは、半ば死にかけていた体のどこに そこまで生きようとする力があったのか、 今まで考えていたことも無い想いを巡らさせた。
彼はゆっくりと体を起こすと、その美しさには不釣合いなほどの 大きな欠伸をして、何か言った。 犬がじゃれる時のような、ねっとりとした言葉。
部屋の空気はまた平静を装っているようだ。 朝なのか昼なのかもわからない、生活感の無い部屋。 無性に目の前にあったテレビの画面を割りたくなって、 テーブルの上のオイルライターを掴み上げ、 勢いよく叩きつけた。
塊が砕け散る音の変わりに、ガツッっと鈍い音を立てて また静寂が訪れた。
気が着くと、僕は一人だった。 こちらを見ていた目は、自分自身だった。 僕はそいつに面と向かって、 本当はどうしたかったんだい?と聞こうとしたが、やめた。
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