蛇腹食堂
書人*なび太

   

  




赤色のおもひで
2003年07月21日(月)
「おもひで」という物は色々な形があるが、
「切っても切れない」という点で、
食べ物に纏わる思い出というものは、
誰しも一つや二つは持っているんじゃないかと思う。

今日は両親ともに出かけていたので、
コンビニで昼食を調達してきた。
レンジでチン。
やや時間を長めにとり過ぎたか、
若干焦げ臭さを放つソースを、
麺の上にかけて、
ハイ、出来上がり。
スパゲティー・ミートソース。

もうね、ミートソース大好き。
スパゲテーといえば、ミートソース。
ペペロンチーニ?
ナンデスカ、ソレハ?
日本男児たるもの、
黙ってミートソースってれば良いのである。
お子様はナポリタンでも食べてらっしゃい。
口の端にケチャップでもつけてらっしゃい。

と、
鼻息も荒く、
口の周りにソースを飛ばしつつ、
スパゲティー・ミートソースをたいらげる。
満足。

随分前置きが長くなったが、
ここで初めてのデートのことを思い出した。
当時まだ十代で、
前を向いても後ろを向いても、
ピンク色の妄想しか浮かばない血気盛ん君だった僕は、
初めて体験する「おデート」というシチュエーションに、
大いに舞い上がった。もうきりきり舞い。
アリガチではあるが、何を話したのかもよく覚えていない。
ただ、注文した食べ物が、
僕も彼女も、「スパゲティー・ミートソース」だった。
それだけはよく覚えている。

彼女は言った。
「わたし、スパゲティー食べるの下手なんだよねぇ」
照れ笑いをしながら、
ぎこちない動作でフォークとスプーンを使い、
スパゲティーを巻き取ろうとしては落とす仕草が、
僕には可愛くて仕方がなかった(当時)。
「あ、俺もあんまりうまくないから」
確か、こんなことを言ったと思う。
おべっかとか、媚びとか、
そんなものでもなんでもなく、
事実、僕はスパゲティーを食べるのが恐ろしく下手だ。
自分と彼女が同じ「下手」を持っているだけでも、
嬉しかったりするのだから、恋とはいやはや、恐ろしい。

彼女はスパゲティーを
取ろうとしては落とし、取ろうとしては落とし、
口に運べているのはほんの数本。
これが通常の心理状態だったら、
「なんだよ、どんくせぇなぁ」と思うかもしれない。
だが僕(当時)の心にはパァーッとお花が咲き乱れていた。
「あー、また落とした。ガンバレー」
彼女は僕の視線に気付いて、
再び照れ笑いを浮かべながら、
一層力を込めてスパゲティーをフォークに巻きつけた。
グルグルグルグルグルグル。
「あ、それはちょっとやり過ぎでは…」
そう思った次の瞬間、
まるで糸巻き車の如く麺を豪快に絡め取ったフォークが、
宙を舞った。
そして、俺直撃。

「あああっ!」
とてもこの世の物とは思えない悲鳴を上げつつ、
彼女は飛び散ったソースを慌てて拭き取った。
自分の服を、
俺のハンカチで。

そして、彼女はすさまじく憮然とした表情で、
勝手に奪い取ったハンカチを僕に突き返しながら、
「だからスパゲティー苦手なんだよね!」
とのたまわった…。




プラスチックのカップに僅かに残った、
赤色のソースを眺めながら、
当時の自分を省みる。
思わず顔も赤くなることばかりだ。
「そんなもんだよ」
そう思えれば楽なものを、
いつまでも同じミスを繰り返す自分がいた。




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