一年半前の事象 誰もが忘れてかけていた
彼は知りすぎていた 辞めた後もマークされ 口封じのためか脅しのためか告訴された
もしかすると帰っては来れないかもしれない 会社には迷惑はかけない 俺の仕事内容はファイリングしておいた 名刺ケースと一緒に受け取っておいてくれ 負債が婚約者に漏れ 結果、婚約解消になったが良い機会だったのかもな
彼は淡々と杯を重ね思い出すように 一つ一つ言葉にしていった
酔うためではなく味を覚えておくための 末期の酒
終電が出てしまう時間を軽く超え 店を出て通りでタクシーを探す 審問まですでに12時間を切っていた
通りを楽しそうに歩く女の子二人を眺め 普段なら走ってでも声かけてたな と言う言葉を鼻で笑って相づちを打つ
それじゃまた
タクシーに乗り込む彼に声をかける
ちょっと考え
またな
と笑顔で応える彼
手は振らない 窓越しにこぶしを突きつけ合う
さよならは言わない
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