あまおと、あまあし
あまおと、あまあし
 枝の上の天 2002年01月26日(土)

ふと気づけば
娘も七歳になって
教えてやらなければならないだろう
なぜ<まいまい>などという
名前を与えたのか

美しい名前なら
いくらでもあった
「美代」「さくら」「弘美」
お前の未来が美しさと優しさで
満たされるようにと願う
祖母や祖父の反対を押し切って
私はお前に与えたのだ
小さく無力な生き物の名を

娘よ

昔、偉大な詩人がうたった
雲雀が空を舞い
蝸牛が枝を這う
平安なる世界の様を
そうだ
娘よ
世界はそのような物で
雲雀は大地に安らぐことはなく
蝸牛は馬の速さで駆けることはない
神はただ御座の上に座して
世界の成り行きを眺めているだけで
お前を守るために
その手を動かすことはないのだ

そして私も
お前を守るための
家になることは出来ない
お前は蝸牛の背負う家を
自分で見つけなければならない
それは
たった六畳の小さな部屋なのかもしれない
誰かの書いた他愛の無い詩なのかもしれない
とにかく
お前が安らうことの出来る世界を
一つでいいから見つけなさい

冷たい雨粒がお前を打った時
太陽がお前の心を渇かした時
乱暴な鳥がお前をついばもうとした時
恥じることは無い
その家の中に逃げ込みなさい
いつかお前の心が
立ち向かおうと奮い立つまで
傷つきやすい粘膜が
乗り越えてゆけると確信するまで
臆病なことは欠点ではない
卑小な生き物が
世界を歩くための大事な力なのだから

娘よ
蝸牛は歩いていく
柔らかな土の上も
冷たい石の上も
鋭い薔薇の刺の上も
全てをあの柔らかな皮膚に包み込んで
そして
私は願うのだ
お前もまた
刺だらけの世界を
柔らかな心にくるみこんで乗り越え
いつか頂きにある
花の上へと辿り着くようにと

娘よ









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 著者 : 和禾  Home : 雨渡宮  図案 : maybe