台所のすみっちょ...風子

 

 

駅 - 2005年01月09日(日)

母は駅が好きだと言う。

そこにはいつも旅立ちがあり、何か新しい始まりの予感がある。

新潟からめったに出ることのない母にとって、

駅は自分を一時でもワクワクさせてくれるのだと言う。

だからなのだろう。母は私が東京に戻る時は必ず見送りに来る。

「いいなぁ〜、おまえは東京に行けて」と何度も言いながら。


母は大抵、新幹線に私と一緒に乗り込み、そして発車の7分ぐらい前になると、

ホームへと降りて行く。

ガラス越しに見る、年老いた母はしょんぼりと小さい。

私はそんな彼女から寂しさと悲しさとあったかさを

めいっぱい感じながら、発車までの数分を過ごすのが常だ。


だが、昨日は少し違った。

母が新幹線から降りた後、私が荷物を棚に置き、コートを脱いで

改めてホームを見ると、そこに立つ彼女はいつもより百倍楽しそうであった。

ゲラゲラとさえ笑っていた。

隣には体は熊、顔は豚、といった感じの温和そうなおじさん。

母はその人と大いに喋っていたのである。

警察官のような格好をした、たぶん鉄道警備の人だと思われる。

「誰を見送るんだね〜」
「娘ですてぇ〜」
「どの人だね〜」
「あの子、あの向こうの窓際に座ってる子」

そんな会話が交わされたのだろう。暫くするとその警備のおじさんが

私に笑顔を向けた。そして手ま振ってくれた。


発車のベルが鳴り、新幹線がゆっくりすべり出した。

私は手を振り続けた。

母と赤の他人の熊吾郎のような警備員さんに。

いつまでも、いつまでも、彼らが視界から消えるまで・・。


「おめさん、これから家までどうやって帰るんだね〜」
「バスで帰りますてぇ〜」
「さ〜むいっけ気をつけなせ〜」
「ありがと〜」

新幹線の中で、残された母と警備員のおじさんが

そう話しているような気がして、私はなんだか可笑しかった。

分かっていたことだが、

新潟から出ずとも母は充分楽しく生きていける、と。


おしまい。


あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします!

風子



...




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