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マチュアー - 2002年10月11日(金) 激しいスコールも昼過ぎにはすっかりあがったので 愛車・ペルダナのエンジンオイル・チェンジのため 会社を抜け出す。 フランス車・シトロエン公認のいつもの自動車修理 屋へ。1時間ほどの外出。 オイル交換の間、ペルダナのそばで作業が終わる のを待っていた。 ふと隣の車を見ると ぼろぼろの3ドア 白のシトロ エン車が置かれてある。その持ち主がニコニコしな がらこちらに向かってきた。 陸(ローク) 義光。チャイニーズにしては珍しい 名前だ。親、親戚、日本との関係はないという。 60歳。前に勤めていた工場は日系電気メーカー。 ファクトリー・マネージャーとして勤務。 日本人が嫌がることをしているのか、甲高い(かん だかい)声でまくし立てない。落ち着いた話し方に 好感がもてる。 彼の前の仕事のこと、家族のこと、僕の仕事のこと、 など他愛ない話のあと、僕の年齢の話になった。 ローク:「君は年、いくつなんだ?」 僕 :「当ててみて。」 ローク:「...40歳か?」 僕 :「まだ35歳にもなってないよ。」 彼は少し天を仰ぎ、意外な言葉を返してきた。 ローク:「話の内容から察して、君は マチュアー (mature)だと感じてた。もっと年をと ってると思ったんだ。」 "マチュアー(mature)" とは「成熟した」「円熟し た」「大人びた」という意味。若い人にも使われる 誉め言葉だ。 フランスの女性は実年齢より下にみられることを嫌 がり、むしろ上にみられる事を好むそうだ。 彼女らにとって年をとる、という事はすなわち 成熟 や円熟そして大人である事を意味するのだろう。 最近は若く見られる事が多かった。そしてそれを喜 んでいた。 「成熟」や「円熟」ではあまりにダイレクトで、言う 方も、言われる方も少し照れくさい。 "マチュアー" が外来語として 日本でも使われる様に なれば 年をとる事に誇りを持てる大人達が増えると 思うのだが。 僕の車の方が先に仕上がった。 他人と話す機会があまりなかったのだろうか。別れ の握手の時も嬉しそうにニコニコ笑う。 運転席からバックミラーを覗く。まだ彼はこっちを みてる。車中から手を振った。 そして彼は、その年にしては少しぎこちないかな と 思わせるぐらいの満面の笑みで 僕に手を振っていた。 ...
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