戯言。
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2003年12月31日(水) 051.気の狂いそうな平凡な日常[テニプリ/跡宍]
跡部の機嫌が悪い。
放課後の部活が始まって、部員たち(主にレギュラー)はそれに身をもって気付かされた。
そしてその原因は大抵の場合彼に起因する。
「岳人に郁士にジロー、もうへばってんのか?激ダサだな」
と言いながら笑いかけるこの少年、宍戸亮に。
「....宍戸、頭でも打ったんか?」
「いきなりどうしたんだよ、俺らのこと名前で呼ぶなんて」
普段から名前で呼ばれているジローはさておき、聞きなれない呼び方をされた忍足と向日は驚きを隠せない。
「....あ?こんなの普通だって、なぁ景吾?」
「........てめぇ」
「し、宍戸さん今何て....!?俺以外の男の名前を呼ばないでください!」
「五月蝿ぇぞ鳳....練習に戻れ」
終始こんな調子で宍戸が皆の名前を呼び笑顔を振り撒き、跡部が眉間の皺を深くしていく。
更に鳳が騒ぎ、次第に目つきまで剣呑なものとなり。
そしてその全てが部員たちの練習メニューに跳ね返ってきていた。
「し、死ぬ....」
「今日はまた一段ときっついなあ」
「跡部怖くて寝てられないC!」
「部活中は寝なくてええんよジロちゃん....」
やっと宣言された休憩時間。
地獄のような練習メニューをこなす羽目になったレギュラーの面々は疲れ果てていた。
暫し無言で休息を取っていたが、自然と今日の跡部の機嫌の悪さについて語し始める。
「で、今日は何や?」
「俺分かんない....寝てたし」
「あ、俺それらしいこと知ってるぜ」
同じクラスの奴から聞いたんだけど、と前置きをして話し出した。
昼休み。
宍戸は昼食を一緒にとる為に跡部のクラスに来て、跡部に声をかけた。
ここまではいつも通り。
だがちょうどその時跡部は生徒会の書類をチェックしてたらしいんだな。
しかも他の役員が跡部に渡すの忘れてた上提出期限が今日の昼までってやつ。
渡しに来た奴、顔面蒼白だったらしいぜ?
『二度目はねぇぞ』って受け取ってもらえて教室出た途端に安堵のあまり腰抜かしたって話。
....それはさておき跡部だ跡部。
まぁそんな訳でイライラしつつ書類に集中してて、珍しく注意力散漫になっていたらしい。
そして....
「跡部、皆の前で宍戸のこと名前で呼んじゃったんだってさ」
「あ〜....そりゃ怒るやろな、宍戸は」
「そ、で『何考えてやがんだてめぇは!』って言い捨てて退場」
「そんなに過剰に反応せんでもええのに....」
「だよな。だから話聞いた奴はなんで宍戸が怒ったのか分からなくて俺に聞いてきたみたいなんだけどさ」
「そんなん本人に聞けや」
「え〜でも俺、いっつも亮ちゃんのこと亮ちゃんって呼んでるよ?」
「ジロちゃんはええんよ、ジロちゃんは」
「ていうか跡部が別格なんだろ」
「ずるいよね〜跡部。亮ちゃんはみんなの亮ちゃんなのに!」
「............いや、それも違うとるんやないか?」
「違わないっ!」
「....あ〜もうええわ。で、何て答えたん自分?」
「俺も困ったんだけどさ....仕方ないから『わざわざ迎えに行ったのにからかわれたからキレたんじゃないか?朝から虫の居所悪かったみたいだし』って言ってみたらなんとなく納得したっぽい」
「その辺が妥当なとこやろな。お疲れさん」
「ああ、ほんと疲れたぜ....って寝てんなジロー!くそくそ!」
「Zzzz....」
「....................」
「ま、まあそんな訳で宍戸を怒らしちまっただろ?で、」
「それに対して跡部が『知らねぇ仲でもない、名前で呼ぶのに何の不都合があるんだ』とでも言いよった、と」
「そういうこと。そんな訳で宍戸の奴は俺たちまで名前で呼び出して、」
「報復しとるんか....自分ら巻き込まんといて欲しいわ」
「だよな。跡部に八つ当たりされる俺らの身にもなれってんだ」
その頃宍戸は一人で部室にいた。
そして忍足たちの予想通り怒っていた。
だが実は宍戸がキレた原因は他にもある。
目撃者が向日に話した情報は正しい、だが全てではなかった。
真実はこうである。
「跡部」
「何だ?」
「何だ....って昼メシ。食わねぇのか?」
「ああ....もうすぐ終わるから先行ってろ、亮」
「........................おい」
「あぁん?....何だ、俺様が一緒じゃなくて拗ねてんのか?」
そう言って、空いた方の手で宍戸の頭を撫でたのだ。
これは二人きりの時の跡部の癖。
跡部は宍戸の髪を触るのが好きだった。
宍戸も跡部に触られるのは嫌いではない、いや実は寧ろ好きだったので普段はされるがままにしている。
だがしかしここは学校で跡部のクラスで昼休みな訳で。
「何考えてやがんだてめぇは!」
そう言い捨てて帰るのも仕方が無いだろう。
だいたい跡部が悪い。
時と場所を考えて行動してくれ、と常日頃から言っているのに。
あんな風に名前を呼んで、髪を撫でて....そう、こんな風に。
「.......................!!」
気付けば跡部に抱きしめられていた。
「亮」
「.............んだよ」
「他のヤツの名前なんざ呼んでんじゃねぇ」
ソファーの背越しに、耳元で囁く。
その声にすぐにも陥ちてしまいそうになったが、なんとか言い返す。
「....お前だって呼んでるだろ、向日とかジローとか」
「俺様はいいんだよ」
「何だよソレ、横暴すぎ」
すると暫し何かを考えるように沈黙した後。
「仕方ねぇな....譲歩してやるよ」
「....え?」
「呼べよ、俺の名前」
「跡部?」
「違ぇよ、そっちじゃねぇ」
先ほどまで普通に呼べていたのに、何故か声が出なかった。
跡部は2人きりになると宍戸を名前で呼ぶが、宍戸はそうしたことが無かったから。
困り果てた宍戸が思わず後ろを振り返ると、跡部はしょうがねぇな、とでも言いたげに苦笑して宍戸を抱きしめる腕を離した。
離れた温もりに寂しさを感じる間もなく宍戸の隣に腰を下ろし、抱き寄せる。
怜悧なまでに整った顔はそのままだが、見つめる青い瞳は宍戸だけに見せる穏やかさを湛え、跡部の思いを伝えている。
何を今更躊躇う必要がある、安心して呼べば良いだろう、と。
「....景吾」
「そうだ。お前にだけ、許してやる」
「景吾」
「ああ。だからてめぇも他の奴に呼ばせんなよ、亮」
互いの名を呼べるのは互いだけ。
それが特別の証だと跡部は言う。
「....ジローは?」
「あいつか....五月蝿ぇからな。しょうがねぇ、あいつだけは見逃してやる」
「景吾」
「何だ?」
「でも人前では今まで通り呼べよ」
「何でだよ」
「.........聞くのも俺だけで良い」
自分の名前を呼ぶその声さえ、他人に聞かせたくない。
言外にそう告げた宍戸を、跡部は更に強く抱きしめた。
「ったく仕方ねぇな....譲歩してやるよ」
そして休憩後。
先ほどのピリピリした雰囲気が消えうせた跡部と、いつも通り自分たちを呼ぶ宍戸を見て、部員たちは安堵の溜息をついた。
「お、復縁したみたいやな」
「今日は早かったな、助かったぜ」
「宍戸の呼び方も直ったみたいやな」
「良かったぁー、なんか変な感じで調子出なくってさ」
「せやな」
「Zzzzzzzz..................」
「....ジロちゃん、いい加減起きぃや」
徹底した実力主義で無類の強さを誇る氷帝学園テニス部。
その日常は。
「喧嘩するほど仲が良いっちゃ言うけどさ....」
「あれも一種の愛情表現なんやろな」
「だよな、なんだかんだいって喧嘩する毎に糖度上がってるし」
「違いますよ、本当は迷惑してるに違いありません!でも宍戸さんは優しいから我慢しているだけなんです」
「鳳....いい加減諦めろよ」
「岳人、言うだけ無駄や」
「俺は絶対に諦めませんよ、宍戸さんにふさわしいのは俺だって分かってもらうんですから」
「お前その根性もっとテニスに使えよ....」
「だから言うだけ無駄やて」
「てめぇら、何サボッてやがる。そんなに走りたいのか、あぁん?」
「げ、跡部」
「....そうか、走りたいのか。しょうがねぇな、走らせてやるよ」
「ちょい待ち跡部!」
「向日と忍足20周、鳳50周。行って来い」
「「....に、20周?」」
「なんだ、20周じゃ足りねぇか?なら」
「い、いや充分だ。行くぞ鳳!」
「ちょっと待ってくださいよ、まだ俺は言.....」
「ええ男は無駄口叩かんとき、ほな行くで」
「........諦めませんからね、跡部さん!」
「いつもの事とはいえ....なぁ」
「ああもう、気ぃ狂いそうやわ」
***
前回のレゴフロ上げてからなんと1ヶ月超。
とりあえず書いてみて合うお題に使おうと思ったら....無えよおい。
仕方が無いので最後に無理矢理忍足に言って頂いた。
そして今回は笑い系でいこうと思ったのだがあえなく玉砕。
という訳で何があろうと跡宍。跡宍でよろしく(爆
しかもカッコ良い跡部様を目指していた筈なのにああなった。
少なくとも跡宍で笑い系は不可能かもしれない....というかカッコ良い跡部様と笑いは両立しないだろうが。
ちなみに忍足の関西弁は似非だと思うがご容赦をば。
この際標準語で通そうかと思ったがあまりに酷いことになったのでそれよりはマシだろうか、と。
まぁそんな訳で新年早々跡宍萌えしていたのだった。