【シュークリーム作成日誌】

2002年09月18日(水) SSS#23「瀬戸口×速水 ほのぼの?」

【teach】





優しい午後の日差しの中、日曜日の教室には暖かな光が満ちていた。
遠くの喧騒が小さく響く。

「あーあ。なんか眠くなって来ちゃったな」

窓際の自分の席に腰掛けて、速水は小さくあくびをした。
午前中を仕事で潰して、たった今弁当を食べ終わったところだった。
また、ハンガーに戻って午前中の続きをしなくてはならなかったが、お腹がいっぱいになった上に、なにやらよい天気で、速水はすっかり眠くなってしまった。

「30分だけ…寝よう。それから仕事…」

もう半分眠りの世界に足を突っ込んでそう呟くと、速水は窓枠に頭を預けて目を閉じた。
それから、どれぐらい経っただろう。
たぶん15分ぐらいしか経っていなかっただろうが。
なにやら額をくすぐる柔らかい感触に、速水は目を覚ました。
目を開けると驚くほど近くに顔があり、仰天して飛び起きる。

「ぎゃあ!?」

「ぎゃあとは何だ、色気の無い…」

残念そうな顔をして身を起こしたのは、レディーキラーを自称する、小隊一の色男だった。

「せ、瀬戸口さんっ」

どうやら、額にあたった感触は彼の前髪らしい。
つまり、前髪が当たるほど至近距離に顔を寄せていたという事だ。

「な、なにしようとしてたの?」

訊くのが怖いような気もしたが、一応訊いてみる。

「うん。俺のバンビちゃんがあんまり無防備に眠ってたもんで、ちょっと可愛い唇を頂いておこうかと思っ…」

瀬戸口は最後まで発言できなかった。速水の鉄拳がみぞおちにクリティカルヒットしたので。
体を二つに折って呻く瀬戸口をそのままに、速水は足音も勇ましく教室を後にした。

「全く、瀬戸口さんたら冗談が過ぎるよ…」

階段を降りて、溜息をつく。
別に速水は瀬戸口を嫌っている訳ではない。
だが、それとこれとは話が別だ。
経験豊富な瀬戸口にとっては、キスの一つや二つ挨拶みたいな物なのだろうが、そういう事には初心者の速水にとっては一大事である。
ファーストキスをよりによって男に奪われたりしたら、泣くに泣けない。
…それはそうと、瀬戸口は大丈夫だろうか。
最近、岩田とどつき漫才を繰り広げているせいで、ツッコミがきつくなったような。
自分でも感動するほど見事にみぞおちに入ったが、ちょっとやり過ぎたかも…。
速水がこっそり反省していると、誰かに後ろからトンと肩を叩かれた。
振り向けば、瀬戸口が白い歯を見せて爽やかに笑っている。
立ち直りの早い男だ。

「あ。瀬戸口さん大丈夫だった?」
「大丈夫じゃないさ。あっちゃんの冷たい態度にこの胸は張り裂けんばかり…」

ずいぶん元気そうだ。
だが、一応謝っておく。

「ごめん。ちょっとやり過ぎだった」
「そうだぞ。俺はまだ何もしてないんだからな」

瀬戸口は『まだ』にアクセントをつけて答える。だが、速水の冷たい視線に気付いてあさっての方を見た。

「…何かされてからじゃ遅いよ」
「しかしな、速水。俺はただ、お前の寝顔見てただけで殴られたんだぞ。
 客観的に見て俺のほうが被害者だとは思わんか?」
「……」
「ああ、苦しかったな…」

瀬戸口はわざとらしく、みぞおちの上に手を当てる。
速水は眉を曇らせた。

「…ごめんね」

速水は素直に悪いと思ってしまったようだ。こんなところが瀬戸口に遊ばれる原因なのだが。
瀬戸口はしてやったり、という思いをつゆ程も漏らさず、真顔で訊いた。

「ほんとに悪いと思ってる?」
「うん。ごめん」
「じゃあ、埋め合わせに一つ言う事訊いてくれないかな?」
「何?」

きょとんとする速水に、とりあえず瀬戸口は自分の目的を優先させた。
速水の腕を掴んで引き寄せる。
びっくりして固まっている速水をかき抱くようにして、くちづけた。
硬直している背を柔らかく撫でながら、甘い唇を撫でるように味わう。
速水に渾身の力で突き飛ばされる寸前、それを察知した瀬戸口は素早くに身体を離し、いけしゃあしゃあと言ってのけた。

「ごちそうさま。これで貸し借り無しだな」
「……!!」

次の瞬間、瀬戸口の頬が鋭く鳴った。
速水はじんじんと痛む手を無視して、ぎらりと相手を睨みつける。

「冗談でやっていい事と悪い事があるでしょう!?」

濡れた唇を片手で隠し、烈火の如く怒り狂って、目にはうっすらと涙さえ浮かんでいる。

「僕は…!」

ファーストキスだったのに、という言葉はあまりにも情けないこの状況に更に拍車を掛けそうで、速水は言葉を切る。
代わりに迫力ある大きな瞳で瀬戸口を睨み付けた。

「まあまあ、そう怒るなって。
 これで将来可愛いお嬢さんとキスする事になっても、うろたえずに済むって物じゃないか。
 バンビちゃんがお望みなら、喜んでもっと先までご教授させて戴くが?」

しれっとしてそんな事を言う瀬戸口を、速水はもう一発平手で殴っておいて遁走した。
もし速水が拳銃を持っていたら、瀬戸口は蜂の巣にされていたに違いない。
その背中を見送って瀬戸口は頬に触れる。叩かれた左頬が熱い。

「…冗談で男にキスするほど、俺は悪趣味じゃないけどな」

瀬戸口はすこし残念そうにそう呟いて、落日色の髪をかきあげた。                   





Fin
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もっとSSSらしいすぱっと短いギャグを書きたいんですけど…。現在進行中の裏ギャグSSでネタ切れ気味です。はふ。
つーかこの話、オチがないんですけど…(苦)


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