2003年07月23日(水) |
SSS#53「瀬戸口×速水。明るい雰囲気」 |
今年はあまり夏の予定もない私。 現在確定している行事は、夏コミだけという寂しさです(笑) しかし我が家の人々は旅行が好きなので、多分強制的に一泊旅行ぐらいは連れ出される事になるんじゃないでしょうか…。 それはそうと、やっと夏の打ち上げのご案内をアップしました。 皆さんお気軽に問い合わせしてみて下さい。
それと、暫く更新していないので、ここでSSSでも。
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【愛のあいさつ】
朝、目が覚めて一番に見たい景色? 日向の匂いのする布団にくるまって、目の前に最愛の人の穏やかな寝顔が見られたら最高だね。
…叶わないと思っていたから、そんな夢を軽く語れた。
瀬戸口は、布団の中で微動だにしなかった。 目の前に、眠っている人。 昨夜自分がどうやって家に帰り着いて、どうやってベッドに入ったのか思い出せない。 ふわりと揺れる柔らかな前髪が、また、茫然自失する男の鼻先をくすぐった。 白い滑らかな頬が、日の光を弾いている。 長いまつげがその頬に更に長く影を落とし…。 うっすらと開いたつやつやの薄桃色の唇からは、規則正しい寝息が零れていた。
「…速水?」
殆ど無声音で囁く声は、動揺のあまり、わずかに裏返っている。 同じベッドの中。同じ布団の中。 とすれば、この布団の心地よい温もりは、速水の体温でもある。 瀬戸口の体温が一気に上がる。 だが次の瞬間にある可能性に思い当たり、ざっと血が下がった。 とりあえず、最重要事項を確認する。 両手で恐る恐る自分の身体を触ってみた。そして…瀬戸口は青くなった。 手で確認してみる限り瀬戸口が身に付けているものは、「下着」…以上。 服を着ていない。パジャマも着ていない。 殆ど裸の状態である。 震える手で布団の端を掴む。 そっと持ち上げてみた。 速水の丸みを帯びた滑らかな肩が、朝の光の中で白く光を反射する。 瀬戸口は呼吸を止めたままで、先程と丁度反対の仕草で布団を元に戻した。 取り合えず、寝転んだ姿勢のまま、固まる。 もしも男女が朝目が覚めて同じ布団に殆ど裸で眠っていたら、ある可能性について疑わなくてはならないであろう。 しかし、この場合は男同士、しかも親友同士である。 特に疑わなくてはならないような事実は、ないはずであった。 そのはず…なのだが。 瀬戸口が瞬間的に思い巡らせた可能性とは、やはりそっちの方であった。 半分以上は、疑いではなく、願望である。 速水がこうして裸で隣に眠っている以上、昨夜何らかの事件が起こったものと思われる。 しかし、瀬戸口を親友以上とは決して見なしていない普段の速水の態度を思う限り、速水が自ら望んでこのような事態を招いたものとは思われない。 つまり…。
「合意じゃ…ない?」
自分が酔っ払うか何かして、大事な可愛い可愛い可愛い(以下延々)速水をベッドに引っ張り込んだ挙句、無理矢理不逞な真似をしたのではないだろうか。 目を覚ました速水に、
「瀬戸口さん、酷い…。僕、嫌だっていったのに。無理矢理こんな酷い事するなんて最低だ! もう顔も見たくない。大っ嫌い!!」
なんて言われるのでは…。 上質紙よりも蒼白になって、瀬戸口はただただ速水の寝顔を見つめていた。 乱れて額に落ちかかる艶やかな黒い髪。 いつもは碧空を湛え、人を魅了せずには居られない大きな瞳は閉ざされ、薄い目蓋を長い睫毛が飾っている。 小さな鼻と小さな口。 さくらんぼのように艶やかで美味しそうな唇。 きっとさぞや甘い事だろう。 速水の手が、ぎゅっと枕の端を掴んだ。 ………可愛い………。 先程までの錯乱状態を綺麗に忘れ、瀬戸口はだらしなく笑み崩れる。 速水の目が、ぱちりと開いた。 物凄い勢いで後ずさりベッドの足元の方にぴたりと正座した瀬戸口を、速水は不思議そうに見ている。 眠そうに目をしぱしぱさせ、多目的結晶を見遣る。
「瀬戸口さん…まだ5時だよ…。もう起きるの?」 「い、いや…」 「じゃ、座ってないで寝たら?」 「…ああ」
カクカクと頷きつつも一向に動こうとしない瀬戸口に、速水は白い繊手を伸ばす。 瀬戸口の手首を掴んで、ひっぱる。 体力Sのほっそりした手に引かれ、瀬戸口はばたりと布団に倒れ付した。 枕に突っ伏した顔をそっと上げる。 目の前に、やはり可愛い速水の寝顔。 但し、先程よりずっと至近距離に。 すうすうと再び世にも平和な寝息を立て始めた速水を前にして、瀬戸口は息を殺してじっとしていた。
(怒って…なかったよな…?)
ドキドキどころかバクバクいっている心臓を抑えつつ、自問自答する。
(怒ってなかったってことは…合意の上…?)
もしかして、瀬戸口が気付かなかっただけで速水も瀬戸口の事を好きだったのだろうか。 それで、昨夜が記念すべき…初めての………。
「なんで覚えてないんだ!!俺は!!!」 「うるさい!」
がばりと身を起こして絶叫した瀬戸口の顔面を、ぼすっと枕が直撃した。
「もう!もうちょっと寝かせてよ!!」 「…すみません」
速水の怒った声に、身を縮めて謝罪する。 そして言われた通りに、ごそごそと布団に入った。 速水の隣。 すると、なんと速水が瀬戸口の胸元に擦り寄ってくるではないか。 硬直する瀬戸口の鎖骨の辺りに、速水の暖かい吐息が触れる。 思わず手を伸ばし、速水の華奢な身体を抱き寄せた。 速水は…逃げない。 もぞもぞと動いて、瀬戸口の腕のなかで落ち着く場所を探している。 やがて位置が決まったらしく、瀬戸口にぴったりと寄り添って大人しくなった。
「………」
完全に目が冴えてしまった瀬戸口は、薄闇の中で紫色の瞳をぱっちりと開いている。 やけにリアルな夢なんじゃないだろうか。 試しに自分の頬をぎゅーっと抓ってみる。 痛い。 ということは、この腕の中の柔らかい感触も現実の物だということだ。 何がどうなったのかさっぱり判らないが、たぶん、きっと…。
「速水が…俺の、恋人……?」
口に出した途端に感動が押し寄せた。 速水が瀬戸口の恋人になったということは、これからは…! Hし放題のキスし放題。速水の手作り弁当でいちゃいちゃおかず交換する事も出来るし、仲良く手をつないで帰宅する事も出来る。 クリスマスやら自分の誕生日やらには、速水にふりふり裸エプロンで、「お帰りなさい!ダーリンv」と迎えて貰う事だって出来てしまうのだ! 瀬戸口が現実そっちのけで妄想を爆発させていると、速水が腕のなかでぱちっと目を開けた。 瀬戸口を見上げる。 なんともだらしない顔をした瀬戸口に一瞬呆れた様子だったが、すぐに申し訳無さそうな顔になった。
「どうした?バンビちゃん」
背後にバラの花でも舞いそうな蕩けるような笑顔で覗き込んでくる瀬戸口に、速水が眉根を寄せる。
「あのね…ごめんね。瀬戸口さん」 「?…ごめんって?」 「…ごめんなさい」 「いや…何が?」 「だから…」
口篭もった速水の声は、固い板同士を打ち合わせたような、爆音にも似た音に遮られた。 ふたりの視線は、自然音源の方へと吸い寄せられる。 そこには、半分壊れたドアの隙間から入ってくる、大きな撮影用の機材を抱えた奥様戦隊の姿があった…。
「ごめん。瀬戸口さん…」 「うん、いや、こんなオチじゃないかって気はしてたから…」
ははは…と気の尽きた笑いを漏らす瀬戸口。 「ドッキリ」と大きく書かれた派手な原色の看板を持ち、ジャージの上にハッピを羽織った若宮の姿がますます気力を奪う。
「あのさ」 「何?」 「もしかして、速水も…共犯?」 「…うん」
速水は申し訳なさそうに首を竦め、大きな目を上目遣いにして瀬戸口を見遣った。 ちなみにいまだ彼は瀬戸口の腕の中にいる。 そんな彼らに、善行が大胆にもマイクを向けた。
「瀬戸口君!今のご感想は!?」
そう言って笑う善行の口で、真っ白な歯が光る。 瀬戸口は無言でにっこりと笑った。 目が笑っていなくて、とても…とても。 怖かった。 予想外の反応に怖くなった奥様戦隊隊長は、笑顔を引き攣らせ一歩あとずさる。 速水も抱き締められたまま硬直している。 瀬戸口はますます爽やかに微笑んで、片手を伸ばしてマイクごと善行の手を掴み引き寄せた。
「感想…が欲しいわけね」 「あ、いえ、あの、良かったら、でいいんですけれど!」
完全に腰が引けている善行に、言ってやるさと瀬戸口は肉食獣じみた笑顔を向ける。
「感想は…『いただきます』、だよ!」 「は…」
善行が目を剥く間もあらばこそ、瀬戸口は目にも止まらぬ早さで速水を自分の体の下へと引きずり込み、すっぽりと布団を被ってしまった。 なにやら速水の悲鳴が聞こえる。 恐らくベッドの中は奥様戦隊にとっては絶好のシャッターチャンスが目白押しだっただろうが、善行は辺りに漂う「邪魔したら殺す」オーラに気圧され、撤退を決断するしかなかった。 速水隊員は見捨てるしかない。 善行は、徐々に艶を帯びてくる、速水の助けを求める声に背中を押されながら、こけつまろびつ瀬戸口の部屋を後にしたのだった。
後日、口を訊いてくれなくなった速水に平身低頭で詫びる瀬戸口の姿が見られたとか見られなかったとか…。
Fin
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う〜ん、いまいちオチてない…かな…?(微苦笑)
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