2003年12月07日(日) |
SSS#58「瀬戸口×速水 切ない傾向」 |
本用に書いたのですが、あまりにも酷い話なので保存に耐えず、こちらにアップすることにしました。死にネタです。ご注意下さい。
【青空の下で】
何度振り払っても差し伸べてくれる、その手が愛しくて。
「厚志」
もう、上手くその声に答えることは出来ないけれど。
「どこにいるっ!!!」
君の後ろだ。 瓦礫の下。腰から下が半分潰されてしまって、這い出す事も叶わない。 醜い姿は、きっと僕の心に似合いだろう。 だから見つかりたくはない。 どうか貴方の中でだけは、綺麗な人間で居させて。
「厚志!厚志!!返事をしてくれ!」
・・・泣いているの?瀬戸口さん。 君が泣く必要なんてどこにもないよ。僕なんか居なくたって、貴方を愛してくれる人はちゃんと居るから。 ああ、でも少しだけ嬉しいな。 僕なんて、生きてても死んでても、誰にも関係ないって思ってたのに。 貴方は、泣いてくれるんだ。 嬉しいなあ・・・。 ・・・。 ・・・・・・酷い・・・奴だね、僕は。 大切な人が悲しんでるのに、それを嬉しいなんて・・・。 僕ってやっぱり、汚い人間だな・・・。 瀬戸口さん、僕はね。 貴方の愛に、値する人間じゃなかったんだ。 貴方を拒まなかったのは、貴方を好きだったからじゃなくて。 怖かったからかもしれない。 貴方を、じゃなくて。 多分、何もかもが。 拒んで、責められる事が。
「厚志!返事してくれ。 お前が居ないと・・・俺は・・・!」
・・・幸せに、なれない? そんなことないよ。君はきっと、もっと違う人に好きになってもらえる。 僕なんかみたいのじゃなくて、もっと優しくて綺麗な、ちゃんとした人に。
遠ざかる、足音。
そう、行ってしまって。 僕のこんな姿は見ずに。 ・・・探しにきてくれたこと、嬉しかったよ。 幸せ、だったのかもしれない。 僕の人生は。 みんなが、優しくしてくれたから。 貴方が、好きになってくれたから。 実験動物として生まれたのに、人として死ねるのだから。 大好きな人を守って、死ねるのだから。 世界中を見守る、何者かに感謝したい。 僕の人生は悲惨なものだったかもしれないけれど、最後の最後に、こんなに満ち足りた気持ちになれたのだから。
ふいに、視界が明るくなった。 急なまばゆい光に、しばらくは何も見えない。 ・・・誰かが僕を見ている。 息も出来ず、声を殺して僕を見ている。
「あ・・・つし・・・」
掠れた声が、僕の名前を呼んだ。 暈けた視界に、ぼんやりと焦点が合う。 片方の目は見えなくて。 もう片方も、血が入ってしまっていて、どうにも上手くいかない。 震える手が頬を撫で、懐かしい感触にその持ち主を知る。
(瀬戸口さん)
声は出なかった。 喋れたら、たくさん言いたい事があったんだけどな。
こんなに醜い姿を見せて、驚かせてごめんね。 ずっと嘘ついててごめんね。 綺麗な人間のふりしててごめんね。 いっぱい優しくしてくれたのに、何もしてあげられなくてごめんね。 好きに、なってくれたのに・・・愛してあげられなくて・・・ごめんね。
ひゅるひゅると喉から空気が漏れるばかりで、ささやき声すら出てこない。
ぽたぽたと、僕の頬に滴が落ちる。 瀬戸口さん、やっぱり泣いてるんだね。 ねえ、どうか僕に、本当にヒーローの資格があるんなら。一言だけ、話す力を下さい。 どうか、どうか最後に一言だけ。 ・・・彼に。 彼が僕にくれた、すべての事に・・・。
裂けた咽喉から溢れる血が、こぽこぽと音を立てる。 男はもう何も言えず、ただ涙を零しながら少年の頬を撫で続けていた。 震える唇。 零れる最期の吐息で、少年は言葉を形作ろうとする。
「・・・・・・っ・・・」
蒼天を切り取ったような瞳は、瞬きもせずに大切な人を見上げている。 華奢な胸が一度だけ大きく上下し、ひゅっ…と息の音がした。 それきり。 「ありがとう」の言葉は、伝えられないままで。
男はまた、ひとりぼっちで取り残された。 広い広い焼け野原の中、まだ暖かな骸を潰れるほどに抱き締めて。
Fin
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