【シュークリーム作成日誌】

2004年11月21日(日) 幻水小説

へヴンばっかり書いてるとたまにこういうのを書きたくなるのですよね。
非常に中途半端。でも続きを書く自信もないのでここに載せちゃう。





「聖ゲオルグの竜退治」



森の中は墨を流したような闇が支配する空間だった。
ざわめく木の葉の音は森全体が一つの生き物となったかのように、圧倒的な質量で五感に重く圧し掛かってくる。
木漏日色の髪や真紅の制服に木の葉を纏わせ、少年は休む事無く走り続けていた。
馬はすでに射られて久しい。
鼓動が休む事無く胸を叩き、呼吸は肺を破らんばかりだ。
少し遅れてその後を追いかける複数の足音は、すべてが彼の敵だった。
まだ16歳の彼にとっては、荷が重すぎる相手だ。
本来なら彼の大腿を激しく叩いていたであろう細身の鞘は見当らない。それどころか、その手には剣すら無かった。
途中で負傷のために動けなくなっていた戦友に、身を守れと剣を渡し、自分は身一つで囮として敵を引きつけて来たのだから当然だ。
彼の頬は泥と埃と返り血に汚れ、その容貌は判然としない。
しかし、ただまっすぐに前を見つめるエメラルドの瞳は、炎を封じ込めたかのように鋭く輝いていた。
そこに、諦めの色は欠片も見当らない。
軍靴に包まれた脚は的確に地を蹴り、その所有者の生命を一瞬でも永らえさせるべく努力している。
が、やがてその真剣な働きにも終わる時が来た。

進行方向に、人影があった。
ひとつ、ふたつ。そして次々と。
夜目にも鮮やかな、射るように眩い白い軍服、蒼のライン。白銀の甲冑の群れ。
ハイランド皇国軍。

彼は冴え渡る双眸を凛と光らせ、手甲を付けた右手を握り締める。
剣は無くとも無抵抗に殺されるのは趣味では無い。
しなやかなバネで、最期に続くであろう跳躍を踏み出そうとした瞬間、それは現れた。
銀の光が、夜を切り裂く。
どさりと重い物が倒れる音に、数人の呻き声が重なった。
彼を包囲していた殺気は、1分にも満たぬ間に半分以下となり、残りの半数は混乱の内に散らばる。
一番彼の近くにあった殺気は、獲物を逃がす事を惜しんで逃走を躊躇したがために、その迷いの代償として命を差し出すこととなった。
たったひとりで戦う少年と言って良い年齢の騎士の淡い色あいの頭部を撃砕するべく振り下ろされた剣は、瞬時に弾かれ、砕けた刃を光らせながら夜の闇に飲み込まれていく。
噎せ返る、血の香り。

「カミュー!!無事か!?」

らしくも無く息を乱し、少しだけ震えた声に名を呼ばれる。
声に顔を上げると、いつの間にか手を伸ばせば触れるほどに近くにいた影。
誰よりも頼みになる、見覚えのありすぎるその肩。
この上なく高潔な、青の騎士。

―――馬鹿だなあ。私が死にかけたぐらいでそんな顔をするなんて、まるで・・・

そんな場合ではないのに、カミューは己の思いつきの馬鹿馬鹿しさに失笑した。

―――まるで、私に忠誠を誓っているみたいじゃないか。

その「例え」が、紛れも無く真実であるなど、この時のカミューは微塵も気付かなかった。
頼りになる親友の顔を見上げたまま、その場に崩れるように膝を付く。
極度の疲労と緊張で、全身がガタガタだった。
座り込んでしまった彼に、マイクロトフは慌ててその前にひざまづく。
漆黒の瞳が、不安に揺れながら此方を覗き込んで来た。

「カミュー・・・?どこか怪我をしたのか!?・・・カミューっ・・・カミュー!」
「聞こえているよ」

無理矢理笑顔を作って片手をあげる。

「お前のおかげでこの通り無事だ。ありがとう。
 だからそんな泣きそうな顔をするな」
「・・・・・・っ!」

純朴な少年騎士は、薄暗い闇の中でもはっきり判るほどに顔面を朱に染めた。
赤の騎士が、それを見て汚れた顔のまま微笑みを深める。
マイクロトフは気付いて大きな手を伸ばした。汚れた頬を、細心の注意を払って拭う。
造作の整った顔が露わになって、カミューはもう一度礼を言った。
輝くような、その笑顔。
その頃のカミューはまだ若くて未熟で、自分の笑顔が他人にどのような効果を齎すのか、はっきりと認識していなかった。
大柄な少年は、眩いものを見たように目を逸らす。
他人の心の動きに敏いはずのカミューが全く気付かなかったが、マイクロトフの横顔は様々な感情が入り混じって複雑な色を刷いていた。
恋は綺麗な気持ちばかりでは出来ていないと、いつか知った風な口を訊いたのはカミューだった。
その時は同意出来なかったマイクロトフが、今は変わった事。
変えたのが、自分であることを。
カミューは夢にも知らない。
恋愛とは言えず、友情とも言い切れない感情は、憧憬に一番近かったかもしれない。
同い年でまだ騎士見習いから卒業したばかりのはずのカミューは、マイクロトフが漠然と抱いていた「理想の騎士」というものの幻想に、彼が知る中で最も似姿の人物だった。
青みがかった漆黒の瞳が、親友の美しい横顔を見ている。

「カミュー、俺は・・・」
「今の」

やや疲れた声が発言を遮った。

「戦況は、どうなってる?」
「・・・・・・ああ」

返答に、一瞬の間が空いた。
この時のカミューは心身ともに疲労困憊しており、その間を不審に思うだけの余裕が無かった。
普段の彼だったなら、その無限の重みに気付いただろうか。
カミューの「最も信頼する友人」である男は、枝を手にして地面に付近の地図を描いた。
説明を、始める。
さり気なく下を向き、逸らされた目。
隠された表情。
カミューは気付かない。



そして、それから10年近い歳月が流れた。


(略)

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何が言いたいの私。ここで切っちゃうとなんだかさっぱり判らないですね。
とりあえず、戦闘シーンの描写が好きなことだけは判る。


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