土曜日もパッとしない天気だった。 日曜日も分厚い雲におおわれていた。 午後からは大雨になる模様ありありだった。
部屋にいてもウズウズするし 散歩に出かけるにも どうせ午後から雨が降るときたもんだ。
ドライブしよう。
となりの国立駅のニッポンレンタカーに電話をし 車を予約し、電車に乗り、車を借りに行き チャイルドシートを借り、家に戻り、お気に入りのCDを持ち 子供たちを乗っけて母ちゃんを乗っけて、出発進行。
どこへ行こう? 海に行こう。
鎌倉街道 ⇒ 保土ヶ谷バイパス ⇒ 横浜新道 ⇒ 江ノ島
鎌倉街道を走らせている頃には既に大雨になった。 ワイパー最速になった。 そんな事、お構い無しに海へと走らせた。 子供たちに初めての海を見せてやろう。 2時間ちょっとで稲村ケ崎に到着した。
駐車場に車を止め 母ちゃんはシュウヘイをおんぶして傘をさし オレはヨシタロウに雨合羽を着させ、手をつなぎ傘をさし 海岸通り沿いの道へと出た。 大雨だった。風も吹いていた。海は波立っていた。
ほら海だよ。波打ち際を歩こう。
そう思い、海岸通り沿いの道から浜辺へ降りようとした。 でもヨシタロウは初めての海を怖がった。 浜辺へ降りようとしなかった。 アッチ イコウ アッチ イコウ と言って 海岸通り沿いの道を指差し、海を見ようともしなかった。
そしてオレ達はそのまま、大雨の中、400m程 母ちゃんはシュウヘイをおんぶして傘さして オレは雨合羽を着たヨシタロウと手をつないで傘さして 左手に波立つ海を感じながら 右手に行きかう車の流れを感じながら 海岸通り沿いの道をトボトボ歩いた。
なにもこんな大雨の日に海に来ることはなかったな〜 (しかもレンタカーで)なんて思いながら
♪海は広いな 大きいな〜 月は昇るし 陽は沈む〜
海に小舟を 浮かばせて〜 行ってみたいなよその国〜♪
なんて唄いながら この唄は悲しい唄だなと思いながら 「行ってみたいなよその国」のフレーズに 実は「帰りたいな祖国に」という気持ちが含まれている のだとしたら、今まで思っていた「海」の唄とは全然 違ってくるよと思いながら 車の止めてある駐車場に引き返した。
海の中には沢山のサーファーがいた。
この駐車場は以前 ジャンケンで負けたサイトデリックが壁際に立ち ルルルとテッペとオレがロケット花火を サイトデリックに向けて発射して そのロケット花火の一つが壁を越えて民家に入って行き 大慌てで逃げ、逃げながら笑いがこみ上げ、とまらなくなりながら走った 真夜中の出来事の場所だった事を思い出した。
それはついこの間のようだった。 あの夏の日、そのまま朝を迎え、そのままパンツいっちょで 波打ち際でハシャギ、テッペとオレはそのまま海に入って 泳いだ。
そこは遊泳禁止区域だった。 どんどん体が沖に流された。 どんどん浜辺が遠ざかっていった。 浜辺に戻ろうと泳げば泳ぐほど体は沖へ流されていき オレは「助けてくれ〜!」と叫んだ。
そしたらスーッとサーファーがやって来て サーフボードにつかまるように言った。 サーフボードにつかまったオレは 隣で溺れかけているテッペに「つかまれ!!」と叫んだ。 テッペは「もう少し頑張る」と言った。 サーファーは「駄目ですよ。ここで泳いだら」と言いながら オレ達を浜辺までエスコートしてくれた。 テッペはもう少し頑張ったかいあって、自力で踏ん張って 浜辺にたどり着いた。
だが、浜辺でずっとオレとテッペの溺れている姿を見ていた ルルルとサイトデリックは、ただ単にオレとテッペ2人が 海と戯れている様にしか見えなかったらしく 「なんであいつらサーファーと一緒になってんだ?」と 浜辺で話していたらしい。 オレはその時、自然の恐ろしさを知った。
そんな事を思い出しながら 母ちゃんとヨシタロウとシュウヘイを車に乗せ あてもなく再び海岸通り沿いで車を走らせた。
そうこうしているうちに、左手に水族館が見えてきた。 そして水族館に入った。
大きなエイを見た。大きなカニを見た。 イルカショーも見た。水族館は混んでいた。 ヨシタロウはイルカショーに興奮していた。 ショーが終わった後もステージに向かって バイバイ バイバイと言いながら手を振っていた。 それを見てオレはヨシタロウを食べたくなった。
夕方5時になっていた。 家路に戻ることにした。 相変わらずの大雨。 辺りは徐々に暗くなっていた。 ワイパー揺らしながら、対向車線のすれ違う車の ヘッドライトを感じながら車を走らせていると 子供達は自然とスヤスヤ寝だした。
オレは右手でハンドルを握り 左手でボリューム絞りながら そのまま左手でヨシタロウの手をつかんで車を走らせた。
オレは母ちゃんに 「なんか行き当たりバッタリだったな」と言ったら 母ちゃんは 「そんなときもあるよ〜」と言って笑った。 「これで良かったかな〜」と言ったら 「良かったんだと思うよ〜」と言ってまた笑った。
辺りはすっかり暗くなっていた。 今この車の中、この空間にまぎれもなくある現実。 自分が親であるということの何ともいえない不思議さを感じながら オムツとバスタオルと着替えと サンドイッチの入っていた空パックの入ったビニール袋とかで ゴチャゴチャしてる車の中で、しまいに母ちゃんも寝だして しばらくオレは黙って車を走らせた。
途中、デニーズで家族4人、初デニーズをして夜8時、家に着いた。 オレは母ちゃん、ヨシタロウ、シュウヘイを家に送り届けた後 も一度、車に乗りニッポンレンタカーに車を返しに行った。
途中、セルフサービスのガソリンスタンドで 初めて自分でガソリンを入れることに 「いきなり火が着いたらどうしよう」と思い、かなり緊張しながら 満タンにし、車を返し、飛んで家に帰った。
ヨシタロウはシュウヘイとじゃれあっていた。 ヨシタロウはピョンピョン跳ねていた。 シュウヘイはヨシタロウを見ながらニコニコしてた。
ヨシタロウは最近しゃべれるようになってきたとはいえ サンポとかネルとかダッコとかイヤとか単語だけだったり 感情のおもむくままに知っている言葉を羅列して発しながら 何かをうったえたり オレや母ちゃんの言った言葉の直後にそれを真似して ひたすら繰り返しているような状態だったが ヨシタロウ自身はずっと、オレ達と対等に会話をしていたんだな。
海に行った 大雨だった この日の夜
仮面ライダーの人形をつかみながら それまで、なにやらゴニョゴニョしゃべっていると思ったら いきなり はっきりした口調で、自分の声で 「銀の車 楽しかったね!」と言いだした。
レンタカーした車は確かに銀色をしていた。 一瞬時が止まった。 ヨシタロウがしゃべった。 「銀の車楽しかったね!」と。 その声はすがすがしい少年の声だった。 かわいらしい清らかな少年の声だった。
びっくりして丸くなった自分の目に わけもなく涙がたまってくるのを感じた。
いつまでもいつまでも もっともっともっともっと いろんな事をオマエと これからおしゃべりしていきたい。
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