きりんの脱臼
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2005年06月09日(木) 村上きわみ

晴れときどき曇り 息をする空と     なかはられいこ


*


裏庭は荒れ放題になっている。
丈の高い草。
ところどころに白い野の花、赤い野の花。
二階の物干台からながめていた。
均一店で購った缶の灰皿には「し」のかたちに歪んだいくつもの吸殻。
訪ねてくるのを待っていた。
いつ訪ねてくるのかはわからない。
今日なのか、来年なのか。あるいは十年後。
高い場所から眺める裏庭は、みどりいろの湖のようだ。
風の舌先にあそばれて、水面、いっせいに波立つ。
草も花も気持ちよく翻弄されている。
風の、恣意。
からだをうねらせながら竜が目の前を通りぬける。
竜の腹はおそろしく白い。



  おいで。
  わたし?
  そう、お前。おいで、ここに。
  わたしでいいの?
  お前でなくちゃできないことだよ。だから、呼ぶ。
  わたしになにができる?
  ありとあらゆること。あるいはたったひとつのこと。
  むずかしいね。
  とてもむずかしい。とてもかんたん。
  ねえ。
  なんだろう。なにを問う?
  ぜんぶ。あるいはたったひとつ。知りたい。教えて。
  お前はお利口。お前はばかだね。



草のあいだを蜘蛛が走る。
遠い林ではやわらかな蝉の幼虫が地中深く身震いする。
ぬるいものと冷たいものがいりまじる。
水のような風だ。
桔梗をかかえた男がむこうからやってくる。
裏庭がいっせいに濡れ始める。
ありとあらゆるもの。たったひとつのもの。
まだなにもはじまっていない。
なにもかもこれからはじまるのだ。


*


ただ一度つよく呼べ 老いた竜王のようにするどくひくく名を呼べ  村上きわみ



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