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2003年01月26日(日) ■ |
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「学園祭」編(高二) その6 <白雪姫の劇だってば> |
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おそるおそる、ジリジリと『白雪姫』に近付く小人=小林。 その歩みは遅々として、まさに蝸牛の如し。 物陰に隠れながら怖々と顔を覗かせては、観客の視線を思い出し、びくぅ!と身を竦める。
(・・・・・・・・・・・・遅ぇ!!)
舞台の上の(簡易)ベットに横になっている佐藤は、薄目を開けて小林の動きを観察していたが、そのあまりの遅さに募ってくるイライラをもてあまし始めていた。 実際はそれほどの時間は経っていないが、待っている人間の立場としては、時間経過がやたらと長く感じられるものである。
「森は危険が一杯なんでしょーかー。やたらと用心深い小人だなーもー。遅っ」
あくび混じりのナレーションの言葉に、またしても観客から笑いが起きる。 色々と問題のある配役だが、この面子で劇をするなら絶妙の配置だったかもしれない。 さすが、高橋女史といったところか。 ようやく小人が小屋に入ってくる気配を感じた佐藤は、シナリオ外の行動に出ることにした。 (近くに来るまで待ってられるか!) 「不測の事態が生じた時には、随時現場の判断に任せるわ」 という、委員長の『ありがたい』お達しもある。 ・・・自分から行動を起こさねばならないというのも、微妙に嫌な気持ちではあったが。
小人がそろりと『小屋』に足を踏み入れた瞬間、白雪姫がベットから身を起こした。 その勢いは、ガバッ!とムクッの中間あたり。 アドリブに極めて弱い、というより対応出来ずに硬直している小人に、よほど待ちくたびれていたらしい白雪姫はニコリと微笑んでみせた。 (女の子らしく笑えって無茶な要求すんなよな、委員長・・・) と「特訓」を思い出して内心ゲッソリしながら。
「まぁ・・・もしかして、こちらにお住まいの方ですか?」 首を傾げて問われた小人は、強ばった手をギクシャクと動かしてなにやら小さな道具を取り出した。 ポチ。
――ピンポーン!
「・・・それは、そのとおりということですか?」 ピンポーン! 「あの、ここで勝手に眠ってしまっていたのですが・・・怒っていらっしゃいますか?」 ブブーッ! 「怒ってはおられないということですか。良かった」
胸に手を当てほっと息を吐く白雪姫は、ベットを降り、ボタンを押す以外は硬直したままの小人に歩み寄る。 何気に自然な流れで場面が進展しているが、正解不正解の音で応えるだけの相手との『会話』というのもどんなもんだ。 「おーっ、内気な小人のナイスな道具だね! なるほど、これなら意思疎通もバッチリだ!」
納得するな、ナレーション。 というか、それではこちらが全部質問を投げてやらねば意思疎通できないということか? (・・・めちゃくちゃ不便だっつーの) 内心突っ込みつつ、溜め息を殺して、白雪姫は小人に三歩を残して立ち止まった。 どうやら、小林は見慣れない佐藤の姿にも「人見知り」スキルを発動しかけているらしい。 あまり近付くとますます硬直しそうな気配だったので、それ以上は近付かない方がいいだろうという佐藤の判断である。
「あの・・・勝手なお願いなのですが、私をここに置いてはいただけませんか。 行くところがないんです・・・」 途方に暮れたような、健気な白雪姫の姿に頷く小人。
劇がようやくシナリオ通りのセリフに戻った。 やっと「白雪姫」らしいシーンに遭遇したような気がする ―― が、今後もそんなシーンは稀少だったりする。 シナリオ通りだとしても。
どうなる白雪姫!!(色々な意味で)
(続くったら続く)
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2003年01月19日(日) ■ |
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「学園祭」編(高二) その5 <舞台裏と我等が小人> |
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さて、その頃舞台裏では、 「まったくもう・・・手間のかかる白雪姫なんだから。 往生際悪いったらないわね」
つい先ほど、白雪姫を舞台に蹴り出した「王子」が、腰に手を当てて劇の成り行きを見守っている。 が・・・なにやら、舞台裏があわただしい。 あれこれと声を潜めて指示を飛ばす裏方の一人に、高橋女史は不安げに尋ねた。 「まだ見つからないの?」 「出番が近いから近くにいるとは思うんだが・・・」 「アレだけは、絶対に舞台に上げちゃダメよ?! これ以上、わけのわかんない劇になって収拾つかなくなるなんてゴメンだわ」 「まさか、佐藤があそこまで化けるなんて思わなかったからなぁ・・・」 「あれはちょっと、計算外っていうか予想以上だったわね。佐藤君が『ヒロイン』だったから、あのロクでなしでも狩人の役をさせたんだけど」 高橋女史と舞台担当の間で交わされる謎の会話。 しかし、二人とも表情はいたって深刻である。 「このままじゃ、舞台の上で見境なく白雪姫を口説きそうだもんなぁ」 「ホンットに・・・あのロクでもない副担任。何が『愛の狩人』だか・・・!」 こめかみを押さえる高橋女史。
確かに、端役が突然ヒロインを口説きはじめても周りは困るだろう。 しかも『ヒロイン』が今回のような場合は特に。
そんな真剣な話し合いの最中、 「狩人、発見しましたー!」 という報告が飛び込むと、女史はようやく大きく息をついた。 「しっかり縛ったうえに、さるぐつわ噛ませておいてちょうだい」 「おいおい、じゃ『狩人』はどうするんだ」 「そうねぇ、今更の話だからシナリオ変えましょ。・・・はい、これ。山本君に渡して」 一瞬あっけにとられた舞台担当だったが、頷いて委員長の指示書を受け取る。 「私は、小人の出番以降の進行が早くなったって伝えてくるから、山本君のほう頼むわね。 あっ! 鈴木君、そのへんのものに触らないでくれる?!」 足早にナレーションの元へと急ぐ舞台担当を視界の端に捉える高橋女史は、舞台から一端退いた鈴木の動きを牽制しながら次の手配に忙しい。 舞台に出ない間も、「王子」は八面六臂の活躍であった。
−−−−−−−−−−
「さて、おきさきサマの『ワルダクミ』に気付いたお城の人に逃がしてもらった白雪姫は、森へと逃げ込みました。 えーと、本当ならここで狩人登場〜ってことになるんですけど、ちょっと事情でお城の狩人がクビになっちゃってー」
観客たちからは、またドッと笑いが起きる。 が、舞台裏でこんな深刻なやりとりが交わされた結果のシナリオだとは、夢にも思うまい。 イマイチ事情を知らない佐藤も、やや訝しげな面持ちながら、ナレーション(の指示)通りに演技を続行する。 舞台のセットは『森の中』へと変わった。
「森の中で迷った白雪姫は、やがて小さな一軒家を見つけまーす。 ノックしても誰も出てきませんが、疲れきっていた白雪姫は小屋の中のちーさなベッドで眠ってしまいましたー。 家宅不法侵入ですけどー、まぁ童話だし白雪姫のすることなのでオールオッケイてことで! これがおきさきサマだったら、なにふざけてんだーとか言われるところかもー。可愛いっていいよねー!」
(いいのかよ、オイ。ていうか、可愛いっての勘弁してくれ・・・) 舞台セットに横になりつつ、白雪姫=佐藤は内心で疲れたように呟く。 本当に口に出さないあたりが、鈴木との決定的な違いだろう。 (さてと、ここからがまた難関だな・・・。この劇の小人がまた・・・) 佐藤は、溜め息混じりでナレーションを聞きつつタイミングを計る。
「白雪姫がグッスリと眠っている間に、小屋のあるじが帰ってきましたー。 働き者の小人でー、いつも森の中に働きに出てまーす。 今日も一日働いて帰ってきたところー、小屋の中に知らない女の子が寝ててビックリー! ・・・なんだけど。えーっ、小人まだステージに出てないのー?!」
そう、どんどん進むナレーションに対して、小人本人はまだ影も形も見当たらない。 どうした、何をしている小人。
「しょーがないなーもー。 ちょっとシャイなのが玉にきずの人見知り屋さんが、ウチの小人でーす!」
こびとー、こびとやーい! ナレーションが名を連呼していると、こそこそと動く影がセットの隅をよぎった。
「あ、小人はっけーん! ライトさーん、小屋裏の木の陰照らしてーっ」
目ざといナレーションの指示に従い、ライトが照らした先には・・・。 「・・・なんで家に戻るのに、そんな物影に隠れながら帰ってくるかなぁー。まぁウチの小人らしいけどー。 あはははは、逃げちゃダメだよーこびとさーん」 ビクッと身を竦ませ逃げようとして、ナレーションに先手を打たれた『森の小人』小林の姿があった。
陽気で朗らか、遠慮会釈ない突っ込みの嵐なナレーション=鏡の精。 ぞんざいで表情と執着に乏しく、暇つぶしに白雪姫の暗殺を企てる継母。 そして、超絶人見知りな森の小人・・・。
かつて、このような『白雪姫』があっただろうか。 佐藤はめまいを覚えながら、一刻も早く舞台から降りることだけを願い続けていた。
(まだまだ続く)
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2003年01月12日(日) ■ |
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「学園祭」編(高二) その4 <ヒロイン登場> |
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「ところでっ!ウチの白雪姫って、ほんっとに往生際が悪くってー実は僕ら男子連中まだ白雪姫の晴れ姿見てないんだよねー」
女子ばっかズルイー!と叫ぶ『ナレーション』。 既にナレーションではなくなっているが、最初からという話もあるのでそれはさておき。 なるべくなら第三者の目に晒される時間を最小限で済ませたいという、『白雪姫』の気持ちも判らなくはない。 そんな白雪姫の気持ちを知ってか知らずか(いや、多分知らない)ナレーションは再び叫んだ。
「ここはひとつ!みんなに協力してもらおーと!」
待てこら、と舞台袖で誰かが呟いた。 が、そんなこと山本の知ったことではない。 某所で見たような勢いで、ナレーションは突っ走る。
「それじゃーみんなーっ!白雪姫に会いたいかー!」 「おーっ!!」 「白雪姫の怒りは怖くないかーっ!」
白雪姫の怒り?と会場を一瞬疑問符の嵐が走り抜けるが、すぐさま「おーっ!!」と理事長を筆頭にノリの良い大きな声が返ってくる。 山本のノリについていけるとは、さすが「自由」な校風をウリにしているだけは(?)ある。
「それじゃあもしもの時はみんな一蓮托生だよー。ウチのちーさくて可愛い白雪姫はこんな姫様でしたー!」
ナレーションが不吉な一言を吐いた後、継母を照らしているのとは別のライトがパッと舞台袖近くを照らし出す。 「・・・・・・?」 すぐに姿を見せないヒロインに観客が首を傾げた時、 「うわあっ!」 という声とともに、二拍遅れて舞台にひとつの影が転がり出てきた。 まるで蹴りだされる勢いで表れた姿に、会場から静かなどよめきが生じた。
艶やかな長い黒髪、目鼻立ちのはっきりとした面立ちに上品なメイク、細い身体に映えるドレス姿。 ライトと観衆の視線を一身に浴びて、カーッと顔を真っ赤にしたまま、フイと目を逸らす『美少女』がそこにいた。 誰だアレ、あんな女子がウチにいたか?! そんなやや本気の呟きがあちらこちらで上がる中、山本までが「おーっ!」と歓声を上げている。
「白雪姫、かーわいー!やーホントに『ちーさくて可愛い』んだもんなービックリビックリ!」 頷く継母。 そして継母は、いつものごとく ―― さらりと爆弾を投下した。
「さすがだな、佐藤」 「テメェ、ばらしてんじゃねぇ!!」 「あはははははは、ていうか、今のでバレたしー」 「うっ・・・!!」
切実な絶叫を含むステージ上のやりとりに、観客が再び大きくどよめいた。 「佐藤?!」 「佐藤ってあの佐藤か?!」 「佐藤にドレス着せたらあんなになるのか?!」 「ていうか、さすがってどういう・・・?」 大抵の者からは驚愕と好奇の声が、本気でヨロメキかかっていた者からは悲痛な叫びが、一風変わったところからは冷静な指摘がそれぞれから飛びだす。 そんな観衆を置き去りに話は進む。 というか、話を進めるつもりらしい、この面子。
「てことでー、こんなかわいー姫サマじゃー、おきさきサマが敵うわけないありません。ねー」 「同意を求められても、ふむ、それはそうだな、としか言えないな」 「でしょーやっぱりー。 でも、このおきさきサマは、ウチの白雪姫とは別の意味で往生際が悪かったらしいですよー」 「往生際が悪いというか、私が負ける相手が目の前にいるというのもつまらない話。ここはひとつ・・・暇つぶしを兼ねて暗殺などしてみようか、とな」 「えーヒマつぶしー?ていうか、ホントに往生際が悪いなーもー、素直に認めちゃえばラクなのにー」
暇つぶしで暗殺を計画してたなんて、初耳だぞ。 ていうか、そこで継母が「素直に認め」たら話が終るだろうがオイ。
舞台の上の白雪姫は、アドリブどころか台本すら軒並み無視した二人の会話に、遠い目でそんなことをポツリと呟いていた。
(容赦なく、続く)
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2003年01月05日(日) ■ |
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「学園祭」編(高二) その3 <劇本番開始> |
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・・・ビーーッ
『ただいまより、二年五組の劇「白雪姫」の上演を開始いたします。 なお、出演者及び観客の皆様の保安対策上、舞台に向かって観客席から物を投げ込まないよう、また規程の白線より舞台に近付かないよう、加えて皆様各自の判断により、危険物にはくれぐれもご注意くださいますようお願いいたします』
なんだそれは、な口上ではあるが、語り手はひどく真剣な声音であった。 ・・・二年五組である。 ただのウケ狙いでも過剰な脅し文句でもないということを、在校生と関係者総員はよく心得ている。 理事長の笑い声があがった以外に、異論はどこからも出なかった。 そして ―― 後々まで『語り草』となる舞台の幕が上がった・・・。
「昔々、あるところに・・・・・・ていうか、すっごく曖昧だけど見当付かないくらい昔、多分どこかの国に、白雪姫という名前の、それはもう愛らしい姫サマがいたらしいです。 まとりあえず、居たってことにしておいてくださいねー」
じゃないと話が進まないんでー、とマイクを握ってナレーションだかなんだかよくわからない語りを、いつもよりは一般向けのスピードと口調で喋りたてる山本。 誰がこいつにそんな役を割り振ったんだ、と頭の痛い向きもあろうが、鈴木が絡むからにはアドリブOKな人間を配置したが良かろうという、無謀ともいえる高橋女史の『英断』であった。 とりあえず、理事長とPTA会長にはのっけからウケまくっているらしいので、別方面で貢献はしている模様である。 ・・・もう既に、この段階で普通の劇とはかけ離れていると思うが。
「黒髪に白い肌、赤いホッペと唇の、姫様を産んだ王妃様が、カミサマにお願いしたとーりのキレイなお姫サマでしたが、白雪姫が生まれてすぐに王妃様は死んでしまいます。うわー可愛そうですねー。 さて。 奥さんに先立たれたオウサマは、後妻さんを迎えましたー。 で、とりあえず白雪姫が大きくなるまでは、細かい夫婦喧嘩は知りませんけど、一応なんの家庭争議もなくそれなりに平和に時が過ぎたんでしょーね。 お話には出てこないし」
間違いではないだろうが、山本にかかるとなぜこうもファンタジー色が薄れるのであろうか。 正統派童話・・・のはずだが。 劇は続く。というより、始まってもいないのになぜ実況に疲れてくるのだ。
「そんな家庭カンキョーで、白雪姫は美しく育ちました。 多分、そんなある日のことー。 おきさきサマは、魔法の鏡に向かっていつもこんな質問をしていましたー」
そのセリフと同時に、暗かったステージ上にパッとスポットライトが当たる。 ドレス姿の・・・・・・やたらとデカい、威圧感すら漂わせるひとつの影が照らし出されると、その人物は縦長の大きな姿見に向かって仁王立ちのままで口を開いた。
「鏡よ鏡よ鏡さん。 世界で一番、という大言壮語は望まないが、町内、もとい、校内で一番美しいのはだぁれ」
淡々と抑揚乏しく、しかし声量だけは豊かに朗々とセリフを吐いているのは、ご存知のとおり二年五組の歩くワームホール、鈴木である。 それにしても、どんどんスケールダウンして現実じみてくる継母のセリフなど滅多に聞けるものではなかろう。 実に鈴木らしい継母といえなくもないが、誰が考えたんだこんなシナリオ。 ちなみにこの姿見、ツテ(鈴木)を介して山本が理事長室から『一時無料借用』してきたものである。 無料、と条件を確定して借り出しているあたり、さすが守銭奴・・・いや、勤労少年であった。 勤労少年は『ナレーション』を続ける。
「どんな近眼だか世間知らずだかしらないけれど、この質問に鏡の精から返る答えは決まってました。 『それはお妃様、あなたです』 ていうかーおきさきサマってもしかしてヒマー?」
ナレーションの声に、くるりと振り返る180プラス3cm(ヒール高さ)のデカいドレス姿。 かつらをかぶりメイクも施された顔は、怪物か?!・・・と思いきや、意外と見苦しさはない。 が、ぞんざいな仕種や、いつもと変わらず周辺に漂う、傍若無人なまでの理不尽さがまかり通りそうな雰囲気が、その姿を見るものに何ともいえぬ暑苦しさ、もしくは何かの強迫観念を感じさせていた。 ドレス姿の大魔神は、ステージ上に仁王立ちで腕を組んで首をかしげ、ナレーションに律儀に答えた。
「かもしれない。が、もとよりそうしないと話が進まないらしいからな。 しかし、見上げた根気の女性だな」 「っておきさきサマのことでしょー」 「そうか、そうだったな」
劇だか素の会話だか、よくわからなくなり始めているが、一応二人は劇を続けようという気があるらしい。
「ま、とにかくおきさきサマはいつもの通り鏡に向かって質問しました。 すると、その日に限っていつもと違う答えが返ったんですねー」
「・・・」 「・・・・・・」 「・・・ああ、もう一度言うのか。・・・・・・面倒だな。 鏡よ鏡よ鏡さん。 中略、校内で一番美しいのはだぁれ」
注を加えると、これは全て上演された時のセリフそのままである。
「すると鏡の精は、開き直ったのか何かに吹っ切れたのか、こんな答えを返します。 『えー、そりゃ白雪姫に決まってるじゃないですかー! なんたって、ちーさくて素直で可愛いし』」 「なんと、私ではダメなのか。・・・いや、私ではないのか」 「『だってー! おきさきサマ、デカくてゴツくて愛想なくて可愛くないんだもん!』 ああ、なんて素直な鏡の精なんでしょーか!」
・・・・・・いや、それは素直すぎだろう。 というより、『ちーさくて可愛い』のセリフの時、舞台袖でなにやら物音がしたのは気のせいだろうか。
「えー、さて」 ナレーションはコホンと咳払いの後、ふふふ、と不気味な含み笑いを漏らして笑いさざめく観客たちに問うた。
(続く)
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