+ 空の向こう +
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HONKY TONKのカウンターで金髪の少年はすねていた。 外は生憎の天気だった。 「ったく、いつまでもいじけてんじゃねーよ。」 横から蛮の拳が飛ぶ。 「何すんの!蛮ちゃんの意地悪。」 「うっせー!雨が降ってただでさえじめじめしてんのにお前までいじけられてりゃこっちが迷惑なんだよ。」 そう言い捨てると蛮はタバコに火をつけた。 機嫌の悪い蛮を横目に、銀次はまた溜め息をつく。 一週間前の天気予報では、今日は晴れだった。だからこの日に予定を入れたのだ。
今日は赤屍と出かけるはずだった。
だが、それは晴れていたらの予定だった。 突然雨が降れば傘もささずにかまうこと無く濡れるくせに、雨の日にわざわざ出かけるのは好きではないらしい。 そのため、二人が出かける日のほとんどが雨以外の日だった。もちろん、 例外はある。―――流石に仕事のときはそういう我が儘は言わないらしい。 とはいえ、楽しみにしていた外出が突然の雨で流れてしまった。 雨に予定が流されるなど、皮肉もいいところだ。 銀次は本日何度目かの溜め息をまたついた。 蛮はあきれ果てて、これ以上言葉をかけるつもりはないらしい。 カラン・・・。 店のドアが開いたのはそんなじめじめした空気が蔓延していたときだっ た。 「いらっしゃ・・・・・・。」 波児の言葉が途切れる。 突然の来客に二の句が継げなかった。 「ここにいらしたんですか。」 そっぽを向いていた銀次は聞こえてきた声に思わず振り向いた。蛮はというといよいよ嫌な顔をする。 「あ・・・かばねさん・・・?」 店の入り口に立っていた赤屍はあろうことかずぶ濡れだった。 帽子も、コートも。漆黒の髪から頬へと水滴が落ちる。 「どうしたの?そんなに濡れて?」 「今日は出かける約束をしていたので待っていたのですが。」 「だって、今日は雨だよ!?」 思いもよらない言葉に銀次は声を大きくして訊いた。雨の日は予定が延期になるものだと彼は思っていた。 だが、そんな彼に赤屍は表情一つ崩さずに言った。 「雨ですが、それがどうかしましたか?」 銀次は驚きのあまり琥珀の瞳を大きく開いた。 「だって、赤屍さん、雨は嫌いだから出かけたくないって・・・。」 語尾が次第に小声になっていく。それと同時に赤屍のくすくすという笑い声が聞こえてきた。 「確かに、雨の日に出かけるのはあまり好きではありませんが、それも時と場合によるでしょう?」 銀次と外出できるならば雨が振ろうが槍が降ろうが彼には関係ない。ということだった。 「俺と出かけるのは・・・でも・・・。」 「せっかく銀次クンを束縛できるのに、雨のせいでその機会を逃すのはあまりに惜しいですよ。」 赤屍は珍しくも素で微笑んだ。 その様子に蛮と波児の顔がありえないくらい崩れた。それとは逆に、銀次の顔は茹蛸となる。 その様子を全く眼中に入れずに赤屍はドアを開けた。扉の向こう側から雨独特の音が聞こえてくる。 「では行きましょうか?」 「へっ?でも・・・。」 ためらう銀次に手招きをする。銀次は思わず椅子から飛び降りて駆け寄った。 「そういえば、赤屍さん。傘は・・・?」 びしょぬれの男を見上げて今更ながらに訊く。 「初めはさしていたんですけどね。あまりにも濡れるので捨ててきまし た。」 「あ、そうですか。」 あまりにもらしいのでそれ以上答えられなかった。 赤屍を見上げ、銀次は笑った。 「じゃあ、おそろいの傘を買いましょう。」 「それはいい考えですね。」 ほんとにそうなのか、と突っ込みたそうなギャラリーをよそに二人は微笑う。 「じゃ、行ってくるね、蛮ちゃん。」 赤屍の腕を引っ張りながらさっきまでこの湿気にも負けないくらい鬱陶しかった銀次が手を振っていた。 蛮はそっぽを向きながら手だけひらひらと振ってやる。どうせ止めたって聞くようなやつじゃない。 銀次が嬉しそうな顔をしながら店を出て行くのを、蛮の代わりに波児が見守った。 「いいのか、あんなんで・・・。」 不安そうに訊ねる波児を蛮は無視する。 ここでうじうじと落ち込んでいるのを見ているよりは幾分ましだった。
二人は雨に濡れながら歩いていていった。 冷たい雨も、時にはいいのかもしれない。 終わり
誕生日なんで、何かしら書きたくて。 と思ったらこうなった。。。 一日中家でぼ―――――っとしてるのは少々さびしかったのよ。 買い物行きたかった―――!!
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