+ 空の向こう +
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三日後。 結局銀次はメモに書かれた住所を頼りに赤屍の行っていた場所を探していた。 東京郊外。もちろん電車代など持ち合わせてはいないので蛮には内緒で士度にお金を借りた。前回の報酬はすでにパチンコと馬券に消えてしまっていた。 最寄りと書かれていた駅から歩くこと三十分。いまだにそこには着かない。 「おかしいなぁ。これには徒歩十分って・・・。」 駅から十分の場所にあろうとも銀次にかかればいくらでも所要時間は延ばせる。なんといっても転生の方向音痴だからだ。 すでに見覚えのある風景をぐるぐると回りながら銀次はある看板を見つける。 とある内科診療所の看板。そこには銀次が捜し求めている場所の住所と同じものが記載されていた。 「もしかして・・・・・・。」 矢印の方向へひたすら真っ直ぐ走っていく。すると先ほどの看板と同じ名前の診療所がたっていた。 白い壁の、いかにもといった感じの病院だが、大きくもなく奇麗なイメージを受ける。 銀次はまさか・・・と疑いつつもとりあえず中に入っていってみる。万に一つ、というかのせいもあるかもしれない。 出かけたのは午前中だったはずなのに既に時間はお昼を回っていた。ちょうど午前の診察が終わるころ。 入ってみると患者らしき人がいた。老人が一人と小さな女の子連れの親子が一組。そしてそのロビーにはこの間赤屍と見た雛人形。 銀次は無性に嬉しくなった。雛人形が飾ってある。 「すみません!赤屍さん・・・赤屍先生?いますか?」 衝動のまま受付の看護婦に尋ねる。なんだか「先生」などと呼ぶと不思議な感じがする。 「どういう用件で・・・。」 そう問われて銀次は詰まる。用件という用件などない。呼ばれたから来たのだ。むしろ、逆に用件を聞かせてほしい。 「俺、この間赤屍さんにここの地図もらったんですけど・・・。」 しどろもどろにそう言い、看護婦を見る。警戒されているようなそんな気がしてならない。折角ここまで無事にこれたのにこのまま会えずに帰るなどできない。・・・というよりも、帰りの電車代は赤屍に頼るつもりでいたので帰れない。 困り果てたそのとき奥の診察室の扉が開いた。 「やはり銀次クンでしたか。」 聞きなれた声とともに現れたのは白衣を着た赤屍だった。 予想もしない格好に銀次はしばし言葉を失う。 呆然と立ち尽くす銀次に赤屍が首をかしげる。 「どうかしましたか?」 はっと我に返ると、今度は妙に照れてしまった。 紅くなっていく顔を隠そうとするが、すでに手遅れである。 「あ、赤屍さんでも白衣を着るんですね。」 そう言われ、赤屍は改めて自分の着ている白衣を見る。 「いつも黒いコート姿見てたからすごく変な感じです。」 銀次の指摘に赤屍は苦笑する。 「私も仕事の時くらい服を選びますよ。」 「そうですよね。」 なんだか恥ずかしくなってまた笑う。 白衣を着ている赤屍はいつもの彼とは違って優しそうに笑った。ドクター・ジャッカルではないからであろうか。理由はよく分からないが、何故か安心できた。 「お雛さま、病院に飾るものだったんですね。」 ロビーの奥に飾ってあるそれにもう一度視線を向けた。 「はい。小さな病院ですが小さな子供も通ってきますからね。ちょっとしたサービスです。」 銀次はちょっと赤屍を見直した。意外な一面を見て驚きもした。 「あかばねせんせー。」 母親と一緒に来ていた少女が満面の笑みで赤屍めがけて走ってくる。そして、彼にぶつかるかの勢いで抱きついた。 その瞬間、少女が細切れになるのではないかと銀次は肝を冷やした。だが、意外にも赤屍は少女をあやしてる。 少女は赤屍を見上げて言った。 「おひなさま、ありがとうございます。あんなに大きいのね、はじめてみたよ。」 「それは良かったです。風邪が治ったらまた見に来てくださいね。もう少し、飾っておきますから。」 「いいの?」 「もちろんですよ。」 数多の人間を殺してきた人間とは思えないほどの笑顔を見せる。銀次は逆に怖くなった。 少女は赤屍の言葉に満足したのか、母親の元へと戻っていった。母親がすみませんと言わんばかりに頭を下げていた。 「赤屍さん。」 「はい。」 「俺、無限城育ちだから雛祭りとか子供の日とか全然無関係だったからちょっと憧れてたんです、こういうの。」 少女の顔を見ていたら、当時の自分たちを思い出した。何時来るか分からないベルトラインからの襲撃におびえながら生きていたあのころを。 「貴方も、いつでも来てくださってかまいませんよ。」 銀次は振り返った。 「本当ですか?」 意外だった言葉につい素直に反応してしまう。嬉しくて、仕方がない。 「えぇ。本当ですよ。」 赤屍は微笑しながらそう返した。 銀次の顔がみるみる明るくなっていく。そのあからさまな変化に赤屍はちょっとばかり嬉しくなった。この分だとこいのぼりも買ったほうがいいかもしれないと本気で思う。銀次を釣るための餌は多ければ多い方がいい。 「これからお昼休みですし、一緒に昼食でもいかがですか?」 「行く行く!!」 申し出に子犬のように飛びつく。 何も食べずに歩き回っていたせいで、銀次はかなり空腹だった。 予想通りの反応に赤屍の機嫌はますます良くなっていく。 ちょっと待っててくださいね、というと赤屍は奥へと入っていった。そして、戻ってきたときにはいつもの赤屍と同じ格好だった。 「やっぱりその格好なんですね。」 「楽なんですよ。」 銀次はおかしくて笑う。やっぱり赤屍は赤屍らしい。 「赤屍さんの私服姿って思いつきませんね。」 「今度うちに遊びに来ますか?」 「え!?」 「私はかまいませんよ。」 彼の驚いたその一言が何を示しているのかはどうでも良く、そこまで話は進んだことに赤屍は満足する。
本当に銀次が赤屍の家を尋ねていったのはそれから少したってのことだった。
終わり・・・にしといてください。
ということで、ちょっとした試みでやってみました。 にしても、もう雛祭り終わっちゃったし。。。 すでに3日っすよ? でも、まぁいいか。 次は何で書こうかなv ホワイトデー前に何か書きたいな。 なんて思っててもどこまでほんとになるかなんて分かりませんけど。 つか、こんなんさらしといていいのかとも思いますけど。 というよりも何よりも、一部赤屍さんが偽者と化してますけど。 あまり気にしないで下さい。 寛大な心で許してください。 忘れてくださってかまわないんで。 ・・・むしろ忘れてくださいな。 最後はかなり無理やり終わらせました。 無理やりなのが分かるところがまた痛い。 なんか、言い訳になるのでこれ以上はやめます。 お付き合いありがとうございました。
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