みゆきの日記
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2004年02月23日(月) バカラのグラス

具合の悪いことに、そのバカラのグラスは2代めで、1代めを割ったのも私だった。

それは、お金のない学生時代にトモユキがアルバイトをして買ったもので、
彼は毎晩それでお酒を飲むのを楽しみにしており、
何年も大事に使ってきた、思い入れのあるグラスだった。

独身時代、ろくな食器がないトモユキの家にひとつだけあったその豪華なグラスを、
私は不思議な気持ちで見ていた。
私だったら、ひとつだけそんなに高価なものを買うなら、もうちょっとましなお皿やカップを買うかなぁって思ったからだ。
でも、トモユキがそういう人だというのは、なんとなく好ましいと思った。

結婚後、そのグラスを私が不注意で割ってしまったとき、トモユキは怒らなかったけれど
ものすごくがっかりした。
しばらくがっかりしているのがわかって、私もいたたまれなかった。
彼は、もともとあまりものに執着するタイプではないのだけれど、
きっとお金がない時代に思い切って買った品だったので、
とても愛着があったのだろうと思う。

数ヵ月後のトモユキの誕生日に、私は自分で選んだグラスをプレゼントした。
あなたの大切なグラスを割ってしまってごめんなさい。
今度は大切にするから、、って。

昨日、私が割ってしまったのはまさにそのグラスだった。
私はとっさに割れたグラスをかくした。
あなたにはがっかりした、と言われたばかりのことで、言い出せなかった。
派手に割れたわけではなく、ひびが入った程度だったので気づかれなかった。

嫌われるのが怖いから、絶対に言えない。
こっそり同じものを買って何もなかったかのようにしまっておけば、
絶対に気づかれない。
そうすればトモユキもがっかりしないし、誰も傷つかない。

金額にすれば、2〜3万円程度のものだった。
私はそれを買って黙って戻しておき、自分への罰としてネイルサロンに行くのを何度か我慢する。
洋服を一枚買うのを、化粧品を、我慢する。
それでいいのではないか。
トモユキに言う必要なんてないんじゃないか。

そんな風に考えて。
きっと、トモユキがもっとも嫌うのはそういうずるい私なのではないかと思った。
自分の罪を姑息なやり方で隠そうとする私。
非難を恐れて、卑怯にも逃れようとしている私。
トモユキなら決してそんなことはしないだろう。
グラスを割ってしまった程度のことで、嘘をついてしまったら、
この先も、いろんな嘘をつき続けることになって、
信頼関係は破綻し、それこそ夫婦の危機につながりかねない。

やっぱり正直に言おう。
今日帰ってきたら、正直に言ってあやまろう。
私は、私がトモユキを尊敬するように、彼に尊敬されるような人になりたい。


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